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ビジネス烈伝 AJINOMOTO PHILIPPINES CORPORATION 社長 尾崎弘一氏

直販で培った人的資産、顧客資産を糧に
フィリピンの食と健康の課題解決企業へ!

 

フィリピン味の素社 AJINOMOTO PHILIPPINES CORPORATION
社長 尾崎弘一氏

 

 

 

味の素といえば日本を代表する食品メーカーとして知られるが、ここフィリピンでも8割もの家庭で味の素製品を使用しているほどの浸透ぶりだ。その拡大の背景は?また今後フィリピンでどのような展開をしようとしているのか? 海外畑13年の尾崎社長にご自身の海外経験も合わせてお話を伺った。(取材:2023年3月14日)

 

 

編集部

 

海外事業に携わるきっかけは?

 

尾崎氏

 

実は最初、海外事業にまったく興味がなかったですね(笑)。新卒で味の素に入社して以来、営業を9年、製品マーケティングに7年携わっていたのですが、営業部門にやりがいを感じ、国内営業一筋のビジネスマン生活を思い描いていたので、海外食品部への異動当初、ふてくされてもいました(笑)。その認識を変えてくれたのがフィリピンでの経験です。

味の素では海外食品部に配属された人間は、東南アジアで一週間『直販』を体験します。車に製品を積んで市場に行き、「市場のおばちゃんたち」と会話して注文を取り、現金で回収して会社に納め、翌日販売する商品を車に積み込む。フィリピン味の素社でも1958年の創業以来65年、この『直販』をメインに販売活動を行って来ました。今でこそ離島はディストリビュータにお願いしていますが、創業当時は全地域、今でも約30箇所の営業所がこの『直販』で販売を行っており、『直販』が総売上の一定量を占めています。ここで培った人的資産、顧客資産は味の素の海外事業の原点であり、味の素ならではの強みでもあります。

私は、フィリピンで『直販』を体験することになりました。2010年当時のフィリピンはまだ治安も悪く、空港から乗ったタクシーの車窓から見たスラム街は強烈な印象でした。ホテルに着いて、翌朝6時に集合、カレンデリアでナショナルスタッフと一緒に朝食をとり、市場に向い、『直販』を体験しましたが、正直、本当にきつい一週間でしたね(笑)。日本ではスーパーマーケットでの営業で、市場には行ったことがなかったし、しかもフィリピンのローカル色いっぱいの市場です。生活の貧しさもしみじみ感じました。でもその中で、市場に味の素製品が並び、営業マンが汗だくになりながら笑顔で製品を販売している姿を目の当たりにして、直販で市場を開拓していった海外事業の先人たちの努力に、心から「すごいな」と感じました。

昼食を終えたあと、3時に帰社するまでの空いた時間には新しいサリサリストアを開拓すべく、舗装もされていないスラム街にもいきました。そこで、1ペソ10グラムの「味の素」を買った女性に、「50gのものを買った方がお得ですよ」というと、彼女は「そんなお金はないよ、これを何日か使ってまたお金が入ったら新しいのを買うんだ」と。「味の素」の1ペソの小さなパッケージの意味が初めて理解できた瞬間でした。そして広場にいたサッカーをしている裸足の子供たちは、味の素と書かれた車をみるとワーッと寄ってきて、「AJINOMOTO、AJINOMOTO!」と大きな声ではやし立てます。こんな子供たちも味の素を知っているのかとエモーショナルな感動すら覚えました。そして異国の地で、新しい食文化をつくっていくのは面白いかもしれない!帰国の時にはむしろ、海外分野で頑張りたいと思うようになりました。
2010年当時、まだ海外事業部の売上が全社売上の3割程度のころです。以来、今日まで海外事業の発展をつぶさに見てきました。

 

 

編集部

 

パンデミック時はインドネシアでしたね。

 

尾崎氏

 

インドネシア味の素社は3千名以上の従業員を抱える会社で、伝統市場の市場構成比も8割と高い国です。市場に足を運ばなければセールスにならないのですが、営業マンが毎日ばたばたとコロナに感染し、2021年6、7月のデルタ株のピーク時には、あまりの感染率の高さに営業を停止せざるを得ない状態に陥りました。電話営業などを続けたものの、これまで足で運び現金を回収してきた営業活動に対して、代替手段の必要性を強く認識する機会にもなりました。そのような経験も踏まえ、現在インドネシアでは、専用アプリを開発、受注も行うシステムを稼働させています。

 

 

編集部

 

昨年の7月にフィリピンに赴任されていますが、印象をお聞かせください。

 

尾崎氏

 

私にとって海外事業の原点の国ですので、本当にうれしかったですね(笑)。今のフィリピンは治安も大きく改善され、生活面は非常に便利です。日本食スーパーもモールも品揃え豊富です。ビジネス面では、ポテンシャルの高さを感じると同時に、我々はまだそのポテンシャルを引き出し切れていない、まだまだのびしろがある国だと感じています。 また、食品メーカーとしては、ASEAN諸国の中でも若年層が多く、食べることが好きな国民性は非常に魅力的です。フィリピンの皆さんは、階層にかかわらず食べ物の話をしているときは楽しそうに笑顔で話してくれますね。

 

 

編集部

 

どんな事業展開をされていく予定ですか?

 

尾崎氏

 

我々にとっては、フィリピンにおける二極化への対応が重要なキーワードとみています。健康という課題一つとっても、オベスティ(肥満)率が高い一方で、栄養失調比率も高い。味の素は、『食と健康の課題解決企業に』という志をもっており、この国で貢献できることは沢山あると考えています。

たとえば、2022年にはフィリピン大学および一部の地方自治体と連携し、貧困地域でバランスの良い食事の提供を通じてお母さん方に栄養教育を行う取組みを始めました。単なる食事提供だと期間が終了すればまた栄養状態が悪化してしまいますが、栄養教育を受けた家庭では栄養状況の悪化度が少なかったいう調査研究もでています。またこの2月には、オンラインも含め1200名以上の参加者を集めたフィリピン栄養士会(Philippine Association of Nutrition, Inc. /PAN))の総会があり、この調査研究結果の共有に加え、うま味調味料「味の素」が持つ特性を活かした減塩メニューの提案などの講演を行いました。フィリピンの国民栄養調査(2019年)によると、フィリピンの成人人口の約4人に1人が高血圧であることが報告されていますが、その原因の一つが過剰な塩分摂取です。うまみ調味料を使えば、おいしさを損なわずに減塩することができ高血圧の抑制につながります。

我々は、経済価値と社会価値の2つを同時に創り出すことを念頭に起いた活動を今後も展開していく予定です。
味の素が取り扱っているのは「味の素」だけではありません。唐揚げ粉「Crispy Fry」や炒め物調味料「AJI-GINISA」、オイスターソース「SARSAYA」など、様々な調味料製品を展開しており、フィリピンの8割以上のご家庭では何らかの味の素製品を使用して頂いております。これは我々にとって貴重な財産です。今後もユーザーを維持拡大しつつ、より多くの品目を利用していただくような取り組みを進めて参ります。

味の素は、『直販』で販路を拡大してきた経緯からD、E層に対して強いのですが、今後はA、B層への取組みも強化したいと考えています。他国で実績のあるスープ、冷凍食品、プレミアムカップラーメンなど新しい食文化提案を今後展開していくことに加え、BtoBでも高付加価値型製品の提供比率を増やすことによりフィリピンの皆さんの豊かな食生活と健康に貢献出来るのではないかと考えています。

 また弊社のもう一つの取組みに環境負荷低減の取組みがあります。その一つとして、味の素のペーパーバック製品を昨年8月に発売開始しました。今後さらに品種拡大するとともにプラスチック包材のモノマテリアル化も進め、再生可能包材の使用率を高めて環境に配慮した取組みも推進、強化して参ります。

 

 

編集部

 

尾崎さん個人のことをお聞きします。そもそも味の素社に就職されたきっかけは?

 

尾崎氏

 

大学3年の時に、ローソンで夜勤のアルバイトを始めました。深夜ですからさほどお客様は多くない、ですから雑誌も読み放題で(笑)、たまたまmono magazine(モノマガジン・1982年創刊、ワールドフォトプレス社発行)を見ていたら、ヒット商品の裏側を探る連載にカルピスウォーター(乳清飲料、発売開始1991年、製造元:カルピス、販売元(当時):味の素)が取り上げられていました。ご記憶の方も多いと思いますが、カルピスウォーターは、濃縮タイプのカルピスだけだった市場に、そのまま飲める缶飲料として発売され、年間500万ケースを突破すればヒット商品だと言われる清涼飲料水業界において、2000万ケースを超える出荷を達成した商品です。製造元はカルピス社ですが、実はカルピスウォーターは、味の素社とのカルピス社が業務提携したのちに生まれた商品で、それまでの伝統や歴史を打ち破って生まれたヒット商品であると書かれていました。この記事を読んで、まず味の素社に興味を持ちました。そこで味の素社の製品を調べてみると、「味の素」「ほんだし」だけでなく、これまた一世を風靡した「クノール」カップスープも味の素社の製品と知って、「味の素、すごいぞっ」と俄然興味がわき、働いてみたい!この強い意志を持って入社したのです。

 

 

編集部

 

駐在された国の中で印象的な国はどこですか?

 

尾崎氏

 

味の素社の海外食品部は、事業軸で担当が分かれています。当時(2010年)私はインスタントスープの担当として、ブラジルやマレーシア、韓国、台湾と訪問する中で、ブラジルに強く惹かれました。

アジア各国は、日本人へのリスペクトが非常に高く、意見を求めても「イエッサー」といってきます。でもブラジルは違う。「日本でのカップスープ成功の方程式はこうだ」と説明しても、「ブラジルは食文化が違う」「マーケティング方法を押し付けないでくれ」、もっと勉強して来いといわんばかりの勢いで(笑)、年下の女性マーケティング社員が言ってきます。驚くとともに、逆にこんな人達と仕事をしたら面白いだろうとブラジル駐在を希望し、念願かなって2012年から6年間駐在しました。 ブラジルでは食品部門の事業部長を担当しました。2012年当時はまさにワールドカップとオリンピック前夜。ブラジル経済は活況を呈していました。ブラジルにはフィリピンのような伝統市場はなく、ほとんどスーパーマーケットへの販売です。ですから味の素社の必勝パターン、足でがんがん周り顧客をひろげ、いつの間にか市場を席捲していくという勝利の方程式が使えません。ディストリビューターを70〜80社抱え、営業、マーケティングとすべてが一心同体、ファミリーのような関係で事業を進めてきました。アマゾンの入り口附近やアルゼンチンとの国境の近くにもいき、ディストリビューターとともに販売を進めていきました。まさにファミリア(家族)で一緒に食文化を作っていくというイメージでとてもエキサイティングな時を過ごしました。

 

 

編集部

 

座右の銘を教えてください。

 

尾崎氏

 

『感謝と笑顔』『明日は明日の風が吹く』です。どこにいても感謝の気持ちを持ち続けることは非常に大切ですが、海外で学んだのは笑顔の重要性です。日本人はともすればまじめで話しかけにくいイメージを持たれがちです。でも、笑顔でいれば話題も、コミュニティも広がる。感謝も笑顔も、心がけ次第で誰でもできることです。ぜひ実践して欲しいと思います。

また、仕事を始めた当初、流通とメーカーの関係で圧倒的に流通が強い中で悩むことも多かったのですが、しかし悩んでも何も進まないと気が付きました。失敗することやうまく行かないことも多いですが、まず目の前にあることを一生懸命にやり、前を見て進んでいくこと。そうすれば道は開ける。この重要性を営業職の時に学びました。明日は明日の風が吹くのです。

 

概要はこちらから

https://www.ajinomoto.com.ph/

 

プロフィール
神奈川県横浜市出身、関西学院大学卒業後、1994年味の素入社。営業部門、事業部門(マーケティング)を経て海外食品部、ブラジル味の素食品事業部長、インドネシア味の素販売社長などを経て、2022年7月から現職

【座右の銘】
感謝と笑顔。明日は明日の風が吹く。

 

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