ブログ
食べる
経済ニュース
コラム
求人情報

HOME >  フィリピンのコラム  >  温室効果ガス削減量に価値をつける制度【NRI 野村総合研究所 フィリピンビジネス通信 第36回】

温室効果ガス削減量に価値をつける制度【NRI 野村総合研究所 フィリピンビジネス通信 第36回】

 

フィリピンビジネス通信 ~コンサルの視点から~

連載:「サステナブルなビジネス」 を実現するために 第11回

 

野村総合研究所(NRI)マニラ支店では、フィリピン市場・文化に精通したコンサルタントが、フィリピン市場・業界調査や参入戦略、人材マネジメント、業務改革のコンサルティング、ITソリューションを提供しています。ここでは、コロナ禍で注目が集まる「サステナビリティ」について、Industry Solutions Consulting (ISC) セクターに所属するJonas Marie Dumdumが数回にわたって解説します。

 

 

 

温室効果ガス削減量に価値をつける制度

 

 

 

野村総合研究所(NRI)マニラ支店コンサルタント。Industry Solutions Consulting (ISC) セクター所属。サステナビリティや気候変動をテーマに、数々の調査案件、企業向けサポート案件実績を持つ

Jonas Marie Dumdum

 

 

今回は排出量を取引する「排出権取引制度」と「カーボンクレジット」をご紹介します。どちらも削減した温室効果ガス排出量に価値を付けた排出権を売買するしくみですが考え方が異なります。

 

 

排出権取引制度

 

排出権取引制度(Emissions Trading System, ETS)は、国や地域ごとに定めたルールに則り温室効果ガスの排出権を売買する制度です。排出権取引はキャップ&トレードと呼ばれる原則に基づいており、国、産業や企業に対しGHGの排出上限(キャップ)を設定し、企業間、二国間で余剰分の排出権を取引(トレード)します。(下図参照)現在は各国で国内取引が運用されていますが、国際取引(国と国の間の取引)も制度整備が進められています。国が設定した排出上限(排出枠、Allowanceと呼ぶ)を超えて温室効果ガスを排出した企業が、実排出量が排出上限を下回り余剰を持つ企業から排出権を購入し、自分たちの排出枠を引き上げます。国またはEUのような経済統合体が制度を設計・運用し、企業等がそれに準ずるかたちで運用されており、EUでは2005年より段階的に運用が開始されて以降ETSを導入する国は増加し、世界銀行のデータでは2023年4月現在で35の国と地域で導入されています。日本ではまだ導入されていませんが、2026年度の本格稼働を目指して制度整備が進められています。フィリピンでは2019年に産業を対象とした排出権取引制度を導入する法案が下院議会に提出されていましたがその後進捗はありません。2021年の報道では、フィリピン財務省がカーボンプライシングの導入を検討するために情報収集調査を行っているとの発言があり、導入時期は未定ですが、国内の排出権取引制度導入に向けて動いているようです。

排出権取引制度は国全体の排出量に上限を設定し、産業や企業に排出枠を割り振り、企業の排出上限を設定します。国全体の排出量上限を徐々に下げていけば産業や企業もそれに応じて排出量の削減をしなければならず、個々の企業の削減のための取組を促進することになり、結果として国全体の排出量削減につながります。


カーボンクレジット制度


カーボンクレジット制度は想定排出量(ベースライン)に対し、実際の排出量が下回った場合、その差分を認証してクレジットとして発行し取引する制度です。例えば、ボイラーなどの設備の省エネ化、太陽光発電設備導入、植林(削減プロジェクト)などを実施し排出量削減に取り組むとします。まず、導入前の温室効果ガス排出量(ベースライン)を算定し、削減プロジェクトの実施後、ベースラインと比較してどれくらい排出量が削減できたかを算定します。削減できた排出量は認証機関による認証を経てクレジットとして発行されます。排出権取引は企業活動に伴う排出量を算定し、排出量上限に対する差分をとりますが、カーボンクレジット制度はどれだけ削減できたかを算定するものであり、削減量が正しく定量化されているかを検証する必要があります。この削減量の定量化がカーボンクレジット制度の難しい点と言われており、それゆえ、カーボンクレジットの発行にはプロジェクトのモニタリング・レポート・検証といったプロセスが設定されています。 カーボンクレジット制度は単体で国全体や産業全体の排出量削減を目指すものではありません。省エネ設備導入、太陽光発電設備の導入、再生可能エネルギーの購入などの削減施策を各企業が取り組み、企業の主要排出量を削減してもなお残る排出量に対しカーボンクレジットでオフセットをするといった、他の施策との組み合わせで効果を発揮します。

カーボンクレジット取引は国内取引、国際取引の両方がすでに各国で実施されています。フィリピン国内のカーボンクレジット取引制度はまだ実施されていませんが、フィリピン政府は日本政府と二国間クレジット制度(Joint Crediting Mechanism、JCM)を締結しており、フィリピン国内で実施されている温室効果ガス削減プロジェクトで生じた排出削減量からクレジットを発行し、日本国内で操業する企業の排出量オフセット(実排出量をカーボンクレジットで埋め合わせする)に利用されています。これまでにフィリピン国内で13件のJCMプロジェクトが実施されており、太陽光発電システムの導入、地熱やバイオガス発電プロジェクトといった再エネ事業が採択されています。


 

 

NRIマニラは、サステナビリティコンサルテーションサービスを通じて、企業のサステナビリティとESGの領域での活動を支援します。より持続可能な未来の実現に向けて、企業文化や仕組み、評価・報告といった観点から、企業のサステナビリティ戦略の策定をサポートします。

 

 

本連載は「サステナブルなビジネス」について数回にわけて解説いたします。

 

 

当該レポートは、LinkedInでも発信していますので(LinkedIn でNRI Manilaと検索)、是非ご覧ください。

 

 

●本リサーチおよびコンサルに関するお問合せはこちらへ

Nomura Research Institute Singapore Pte. Ltd Manila Branch

住所:26th Fl., Yuchengco Tower, RCBC Plaza 6819 Ayala cor Sen. Gil J. Puyat Avenues, 1200 Makati

メールアドレス:
[email protected]
[email protected]

 

野村総合研究所シンガポールマニラ支店の企業情報はこちらから。

 

広告

フィリピンビジネス通信 前回のコラム

今回はカーボンプライシングのひとつである「炭素税」について取り上げます。炭素税とはなにか、なぜ必要なのか、私たちの生活にどう影響するのか、についてご説明します。カーボンプライシングとは、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス(GHG)に価格を設定する制度のことです。排出量に対する課税や排出削減分を売買するために価格が設定されます。

新着コラム

昨年2023年は日ASEANの経済友好協力50周年の記念すべき年として、将来を見据えた新しい時代の日ASEANの経済共創の方向性を示す指針が多く示された年でした。昨年8月には日ASEAN経済大臣会合にて「日ASEAN経済共創ビジョン」が、12月には日ASEAN特別首脳会議にて「日ASEAN友好協力に関する共同ビジョンステートメント」が発表されました。
野村総合研究所(NRI)シンガポールマニラ支店では、フィリピン市場・文化に精通したコンサルタントが、フィリピンの各業界調査や事業戦略策定支援、組織・人財マネジメント等に関するコンサルテーションを行っています。今号では、フィリピンの2024年経済成長見込み、そして2040年にかけての長期的展望について解説します。
前号では、サステナビリティを組織文化として定着させることの重要性と、その実践的なステップについて解説しました。また、変革の推進者として、組織のリーダーが果たすべき役割についても触れました。最終回となる今号では、サステナビリティを推進するためのケイパビリティ(組織的能力、組織としての強み)開発について解説します。
野村総合研究所(NRI)マニラ支店では、フィリピン市場・文化に精通したコンサルタントが、フィリピン市場・業界調査や参入戦略、人材マネジメント、業務改革のコンサルティング、ITソリューションを提供しています。昨今注目が集まる「サステナビリティ」の社会的側面について、今号からはHRセクターに所属するJuan Royが解説します。
野村総合研究所(NRI)マニラ支店では、フィリピン市場・文化に精通したコンサルタントが、フィリピン市場・業界調査や参入戦略、人材マネジメント、業務改革のコンサルティング、ITソリューションを提供しています。前号に引き続き、コロナ禍で注目が集まる「サステナビリティ」の社会的側面を、HRセクターに所属するDiane Cordova が解説します。
フィリピン不動産賃貸ポータルサイト  |   フィリピン求人 ジョブプライマー  |   BERENTA:Find the condo that suite you