2013年11月8日、フィリピン全土を覆い尽くすかのような巨大な台風30号ヨランダが中部ビサヤ地方を襲った。被害地域はレイテ、サマール、セブ、ネグロス、パナイといった各島のほか広範囲に及んだ。11月下旬、台風ヨランダの最大の被災地とされるレイテ島タクロバン市へと向かった。
マニラから乗った航空機がタクロバン空港に着陸する直前、台風で完全に破壊された町が窓の外に広がった。空港からトライシクルで20分ほどに位置する市中心部に向かう途中では、倒壊した建物や避難生活を続ける住民の姿が次々と現れた。限られた取材時間の中で見定めた場所を丹念に訪ね歩き、住民たちの声に耳を傾け、様子を記録した。そのさなか、配給された救援物資を外国人の我々に分けてくれようとしたのは一人二人ではない。
家族や隣人を亡くし悲嘆する人、仕事を失って途方に暮れる人がいる一方、生活の再建へ向けてたくましく歩み出している人々がいた。新たな命も誕生していた。衛生や治安の悪化が懸念される状況の中、とりわけ眩い光を放っていたのは子どもたちの笑顔だ。それは、食事も電気も水さえもままならない極限状態の中でも決して消えることはなかった。その姿に、フィリピン人が生まれ持ったたくましさを感じずにはいられなかった。
タクロバンでの取材中の移動で、トライシクルのドライバー、ジェイミー・シンバホンさん(45)に連日世話になった。一緒に暮らす妻、母、6人の子どもは全員逃げて無事だったが、海岸沿いにあった木造の家は跡形もなく流された。今は山間部の仮の宿で暮らしている。日中、彼はトライシクルで稼ぎ、妻のジョアンナさん(37)が元々住んでいた場所に新しい家を建てるため懸命に木材を集めている。
「政府はまた台風がやって来るからここに住むなと言うけれど、生まれ育ったこの土地で暮らしたいんだ」
そうつぶやいた彼の視線の先では、家の再建に汗を流す人が奏でる復興の槌音が響き渡っていた。
フィリピン台風被害への救援金は、下記赤十字社の他、様々な団体、企業が受け付けています。
■ 日本赤十字社
www.jrc.or.jp
■フィリピン赤十字社
www.redcross.org.ph