鈴木秀一先生(サンラザロ病院長崎大学共同研究拠点マネージャー、長崎大学熱帯医学・グローバルヘルス研究科所属、元薬剤師) 400年の歴史を持つサンラザロ病院で、現在コロナ治療チームの最前線で研究活動をする鈴木秀一先生。専門分野は薬学、糖尿病、...続きを読む
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鈴木秀一先生(サンラザロ病院長崎大学共同研究拠点マネージャー、長崎大学熱帯医学・グローバルヘルス研究科所属、元薬剤師)
400年の歴史を持つサンラザロ病院で、現在コロナ治療チームの最前線で研究活動をする鈴木秀一先生。専門分野は薬学、糖尿病、臨床疫学研究だ。今回はフィリピン国内の国立感染症病院・サンラザロ病院のコロナ治療の最前線の状況や、フィリピンの国立病院の状況、フィリピンで生活する上で注意したいことなどを伺ってみた。
Q. コロナの治療最前線で研究チームを仕切っていらっしゃいますが、今の状態はいかがですか?
表をみてください。これはOur Worldのデータで、日本とフィリピンのコロナ感染者数の推移を示しています。日本は感染コントロールを比較的うまくおこなっており大きな増加はみられません。
一方、フィリピンも感染数は落ち着いているかのように見えます。去年は世界的にコロナのアルファ株とデルタ株が流行りましたが、フィリピンでは既に多くの方がコロナの既往歴があり免疫がついている方も多く、感染者数が日本に比べて増えにくい状況であったと考えています。ただし、フィリピンの場合は感染しても検査を受けないケースも多く、この数字はあくまで参考値です。実際のところは今年に入ってからマニラの半数以上の方はコロナに感染していたのではないかと私は見ています。
病院の状況としては、コロナ前と比較するとまだまだ平常運転とは行かず、未だにコロナ専用病棟やスタッフが配置されています。ただ、去年のデルタ株流行の頃と比較すると患者数はそれほどではありません。デルタ株の時は重症化する患者さんが多く、特に重症化した患者さんを対象にしている当サンラザロやフィリピン総合病院では、患者さんは病院内では収まり切れない程でした。今年に入ってからは空いている病床も昨年より多い状況です。ワクチンの影響もあると思いますが、重症化する患者さんは少なくなっていますね。
Q. フィリピンの国立病院の状況はいかがでしょうか。
フィリピンの国立病院が日本と大きく違うところは、患者さんの医療費は基本的に無料で国費によって運営されているため、医療機器、薬剤、人材が限られているところです。この中で多くの患者さんを診なければいけないのは公立病院に勤務する者の大きな課題です。また、院内環境でいえば、屋外のテントで患者対応する状況で、当然ながらエアコンがなく気温が高いのですが、特にコロナ禍初期当時は、感染コントロールの為にどの程度の防護服が必要か把握できてなかったこともあって、防護服を完全に全身に身に着け、汗だくになりながらその環境の中で治療をするという環境にありました。
サンラザロは元々感染症専門病院なので、医療従事者は感染症防止のトレーニングが必須で予防の知識も豊富です。そのためか、コロナ禍に突入した直後にサンラザロと一般病院の医療従事者の感染者数を比較したところ、他の病院の方が罹患者が圧倒的に多かったですね。しかし治療の最前線にいる医療関係者にとってコロナが起きたときの恐怖や不安は凄まじく、マネージメントレベルの人間がそれぞれのスタッフにメンタルサポートをするなどして運営を続けてきました。
また、これはサンラザロ特有の問題かもしれませんが、フィリピンの方の傾向としてある程度悪くならないと病院に来ない人が多く、既に重症化してしまった患者さんを救うことができない空しさを感じることも多いです。日本ではあまり見られない結核などの患者さんも症状がひどくなってから来るケースがよくありますね。
Q. コロナ以外の感染症でもフィリピンで生活する上で注意すべき点を教えてください。
結核、A型肺炎、レプトスピラ症、デング熱、狂犬病など、日本ではあまり見られない感染症にかかる可能性が日本に比べフィリピンでは高い傾向にあります。結核は空気感染しますので、換気が悪く人が多いところに行くときは注意が必要です。外から帰ったら、基本の手洗いやうがいを欠かせないようにしてください。特に結核はコロナよりも感染率が高いと言われているので、個人的に一番注意しています。また、フィリピンは洪水が多いですが、万が一汚水に浸かってしまったら、傷口からの病原菌が入らないためにも、すぐに洗ってアルコール消毒をするようにしてください。そして野良犬や野良猫には、かわいいからと言ってむやみに近寄らないこと。そして、A型肺炎の場合、例えばストリートフードを食べた後、どこかおかしいなと気づいたら感染の可能性があるのだと念頭に入れて、すぐに対応しましょう。
Q. 健康を維持するためにどんなことに注意すればいいでしょうか?
私が個人的に気をつけていることは、筋肉量の維持と食事です。これはフィリピンだけではないのですが、1時間座ってると寿命が6分縮むと言われているのをご存じですか?座っている時間が長ければ長いほど寿命が短くなるそうです。特に足の筋肉やおしりの筋肉は寿命とすごく相関があるというデータがあります。長生きしても寝たたきりで10年過ごすのは人生ですごく勿体ないと思いませんか?僕もできるだけ歩いたり、食事に気をつけるようにしていますが、オフィスワークの時も1時間ごとに少し歩いたり、背筋を伸ばして姿勢に気をつけたりしています。
また、食事面では、植物繊維に気をつけています。食事にリンゴやバナナ、玄米を取り入れ、食物繊維を積極的にとるように心がけたり、肉魚をバランスよく食べるようにしたりしています。
Q. フィリピンの薬剤や調剤の上手な活用法を教えてください。
以前は、糖尿病治療と患者さんのQOLの質が研究テーマの一つだったのですが、お世話になった先生の話では、患者さんに食事に気をつけなさい、運動しなさいと注意しても、モチベーションや優先順位は人それぞれなので、逆にその注意がストレスになってしまうこともある、だから心や身体の平穏を保つためには、薬に頼るのも一つの手ではないかとおっしゃっており、私もそう思っています。私自身、血圧の薬を2種類飲んでいます。自分で努力するところはするし、薬に頼れるところは頼ってしまってもよいと考えています。
基本的に日本で普通に処方されるような薬は、ここフィリピンでもほとんどの場合手に入ります。同じブランド名の薬があるか、なければジェネリックはあるか、なければ同効薬はないかの順で探してみましょう。処方箋無しで購入できる薬剤も多いので、薬局薬剤師の方に確認してみてはいかがでしょうか。
Q. フィリピンに暮らす人たちにアドバイスをお願いします
海外に住む日本人が気をつけるべき疾患に、心血管系の疾患、メンタル系の疾患があると報告されています。心血管系の疾患はメンタルの影響も大きく、いかにストレスを溜め込まないようにするのかは重要です。自分なりのストレスの対処法を見つけ、例えば、日本人の友達を作ったり、美味しい物を食べたり、フィリピンでも楽しみを見つけ、楽しく健康に過ごして頂きたいと思っています。
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