メガネ店でNo.1に!世界に店舗拡大を目指す
PARIS MIKI
フィリピン代表 青木 徳鮮さん
1981年にアルゼンチン生まれ。貿易関係の仕事をする両親のもと、幼少期からチリ、ロシア、アメリカなどで過ごす。コネチカット大学卒業。2006年パリミキ入社。日本で販売スタッフを経験した後、商品開発や新規事業開発に携わる。2016年よりフィリピンに着任。6月にフィリピン初となる店舗をオープン。
〈心に残っている本〉
ロバート・キヨサキさんの『金持ち父さん貧乏父さん』です。新しいものを作っていく前に、今あるものの土台をしっかり作らなければいけないという考え方は、ビジネスをやる上での基礎になっていますね。土台もないままに新しいことばかりやろうとするのは危険であるという教訓を学びました。
学生時代のほとんどを海外各地で過ごされた青木さん。そんな国際的センスの持ち主がフィリピン市場に魅力を感じ、いよいよ6月にフィリピン初の店舗をオープン。日本式の測定、加工までを手がける技術を持つ販売員の育成に努める他、アプリの開発も手がけるなど、メガネ店の可能性をあらゆる角度から追求します。
編集部
Q1: PARIS MIKI (以下「パリミキ」という。)に入社されたきっかけは?
青木さん
アメリカの大学在学中に、友達にニューヨークの就職フェアに連れて行かれて、偶然パリミキのブースに行ったのがきっかけです。日本人のためのフェアでした。人事の方がすごく良くしてくれたのと、日本で研修を受けられるということに魅力を感じて、ここにしようと思いました。人事の方は丁寧に親にも連絡してくれていて、そこまで良くしてくれるなら入ったら?と親に言われましたね(笑)。2006年に販売スタッフとして入社。1年が経過した頃、旅行で日本を訪れていたフィリピン人のおじいさまが来店されてメガネを購入されました。そのおじいさまがメガネをとても気に入ってくださり、翌日、ご家族を連れて再び来店してくださいました。そして、ご家族皆さんがメガネを購入されました。それ以来、家族ぐるみでお付き合いしています。
販売スタッフとして3年間くらい店頭に立った後、商品開発に移りました。そこで3年間レンズの開発の仕事をした後、事業開発で新規事業を担当させてもらいました。そこで「何をやっても良いよ」と言われて社長から15万円を渡された時に、ちょっとフィリピンに行ってみようかと思い立ちました。私にすごく良くしてくださっているフィリピン人のおじいさまがいるということもありましたので。全くリサーチすることもなくでフィリピンに行くことにしました。マニラに到着したときは、意外に都会でびっくりしました。タクシードライバーに聞いて、人口は1億人もいるということも知りました。その時に、急速に経済成長をしている姿を目の当たりにしました。それから英語が話せるとか、平均年齢が若いとか色々と調べて、ここで何かできないかなと考え始めました。
編集部
商品開発というのは、メガネの開発ですか?
青木さん
私が担当したのは、レンズです。ホヤさんやニコンさんなどのレンズメーカーと一緒にレンズを作っていく仕事をしていました。
編集部
事業開発についてはどうですか?
青木さん
特に何かをしなさい、という部署ではなかったので、自由にやらせてもらっていました。例えば、LINEの本社を訪問して、社員さんにメガネを勧めてブースを展開したり、F1レーサーの小林可夢偉さんと一緒に、ドライビンググラスを開発したり。うまくいくプロジェクトもあれば、不発なものもたくさんありました。
編集部
パリミキの商品、サービス内容についてお聞かせください。
青木さん
主にメガネを販売しています。日本では補聴器や化粧品なども扱っているのですが、フィリピンではメガネ一本です。メガネは医療的な面とファッション的な面がありますが、私たちは医療的な面を重視しています。普通のメガネ屋さんに比べると検査が長かったり、なかなかしない検査をしたりします。もともとパリミキのオーナーのポリシーとして、「一人一人のお客様に合わせる」というのがあります。人によって顔も、メガネを使う場面、ライフスタイルもそれぞれ違うので。普通のメガネ屋さんに行くと、どんどん商品を勧められると思うんですけど、私たちは全く逆で、とにかくお客様の要望を聞きます。何が必要とされているのかをしっかり聞き出して、その人にあった商品を提供する。だから1〜2時間かけて接客することが多いです。レンズは3,000種類以上あるので、お客様にあった製品を買っていただけるように努力をしています。ほとんどの商品は日本製で、福井県の鯖江市で作っております。その分コストがかかって、少々高くなってしまうんですけどね。
度数の合わせ方はとても大事です。最新のアイケアの設備を日本から持ってきています。またトレーニングを重ねたスタッフがお客様の生活環境を把握し、ベストな度数をご提供します。例えば、仕事でPCをよく使う人が度数の強いメガネを使ったら疲れてしまうかもしれない、といった細かい点まで気を配ります。
日本のやり方を通して、お客様に合わせて商品提供をするということを徹底していきたいですね。現地のスタッフにもしっかり教えていきたいです。そのために毎月日本人スタッフを呼んで、1ヶ月くらい現地スタッフの教育をしてもらっています。同時に日本人スタッフは海外経験を積めるので、良い仕組みですね。日本では、一人のスタッフを育てるのに大体3年くらいはかかるので、こちらでもそれくらい腰を据えてやろうという感じです。
編集部
育てるというのは販売のトレーニングですか?
青木さん
日本では、セールススタッフは販売、測定、加工を全てやります。でもフィリピンではそれぞれ別のスタッフがやるのが普通。3つが総合的にわかっていないときちんとしたメガネができないので、これをしっかり教えていかないといけないのです。
編集部
フィリピンでの事業(IT事業など)はどのような内容でしょうか?
青木さん
日本ではIT部門があるんですが、海外のサポート、特に言葉の問題があるためB to Cのウェブサポートができていません。フィリピンではスマホ、ネットが当たり前になってきています。いわゆるオムニチャネルで、店舗、携帯、Webサイト全てがつながっているようなサービスができるようにと考えています。そこでアプリを作っています。検査予約をしたり、何を買ってきたのか履歴を見たり、メガネが壊れた際に送ってあげるとか、日本にはないサービスをアプリ上で出来るようにしようとしています。アプリ上でメガネを買えるようにできるようなシステムも作りたいと思っていますが、お店に来てもらうことをまずは優先しています。お客様になってもらってから、色々なサービスを使ってもらおうという考え方です。間口は広くないんですけど、中に入ったら様々得られるというサービスです。
海外のIT部門はフィリピンが拠点になる予定です。例えば、シンガポール、マレーシアなどのサイトも全部こちらで管理して、そちらの方にも順次システムを導入していくつもりです。フィリピンが選ばれたのは、英語力が高いこと。そして能力の高さですね。人件費が安いのも理由ですね。
編集部
現在、世界中にいくつの拠点がありますか?
青木さん
日本には850店舗、海外には150店舗あります。メインは中国、韓国ですね。あとはシンガポール、マレーシア、オーストラリアに5、6店舗ずつ。フィリピンは今回が初めてです。今年6月にオープンしました。本当は去年11月だったんですけどね(笑)。お店が入る予定の、コンラッド・ホテルのモールが全然完成しないんですよ。それでどんどんオープンが伸びてしまいました。
日本とフィリピンの大きな違いはマーケットです。フィリピンは若い人が多いのと、もう一つは女性を中心とした社会になっていることですね。働いている人には女性が多い。男性社会の日本とは反対ですね。もっと女性をターゲットにした店舗にするにはどうすれば良いか考えています。私たちの会社も7割ほどは女性スタッフなんですよ。
置く商品は、世界的に有名なブランドはもちろん、日本独特のブランド、いろいろな種類をミックスしています。レンズは全て日本から持ってきています。目的別メガネも用意しています。度付きサングラス、ゴルフ用、ドライブ用、水中ゴーグルなど。
編集部
他の国々に比べ、フィリピンで事業を行う魅力やメリットは?
青木さん
第一に人ですね。いろんな意見があると思いますが、私はフィリピン人はとても優秀な人が多いと思います。もう一つは市場ですね。人口ボーナス期に入っていて、2045年まで人口が伸びて、1億5,000万人くらいにはなると言われていますよね。しかも若い人が多いから購買意欲も高い。それはすごくマーケットとして魅力的ですね。
あとはフィリピンはアジアの国でありながら、欧米など色んな場所の文化を取り入れていて、面白いなと思います。私が今までいった国だと、文化がミックスされている感じはなかった。英語も話せば、タガログ語も話すし、韓国語の歌を聴いていたり、服装を見るとアメリカっぽいし、富裕層になるとヨーロッパぽかったり。本屋に行けば、アメリカの最新の書籍が置いてあったりしますしね。ITの分野では、英語がわかるので、ソースコードをすぐ理解することができて、色んなものが作れちゃうんですよ。だからフィリピン人は海外に出るのがそんなに難しくないですよね。理解力も早いし、適応能力は相当高いと思うんです。サービス業には向いていると思います。
編集部
海外に出て行くのに抵抗がないのに、あえてフィリピンにいるのにはどんな理由があると思いますか?
青木さん
10%が海外に行ってるんですよね。出たいけど出られないのはビザの問題もあります。ただ、最近では、優秀な人材が海外に行くのではなく、国内の市場に目を向けているという事情もあるようです。フィリピンが経済成長してきて、国内に魅力を感じ始めているということです。
編集部
フィリピンで事業を行う上で、苦労した点は?
青木さん
最初ITの立ち上げの時、何もわかってなかったので苦労しました。ただ人材だけ集まっている状態だったので。まずどのようにマネジメントするかを考えるところからでした。あとは、フィリピン人に時間=コストの意識がないことですね。モールで工事が遅れたといっても、しょうがないよねで終わってしまう。なので今は、ドキュメンテーションをするようにしています。いつまでにこれはできるという書類にサインさせて、全て記録するんです。相手も書面上に出ていると、ちゃんと期日を守るようにはなってきています。これは社内、社外どちらもです。例えば、ペーパーバッグを作るんだけど、この値段で作るようにと私はあなたに伝えましたよね、ということでサインしてもらったり。良くはなってきています。
編集部
2013年11月にフィリピンを襲った台風30号「ハイヤン」の支援活動をされたとお聞きしました。
青木さん
私はこの時日本に帰っていたんですが、お世話になったフィリピン人のおじいさまのことを思い、いてもたってもいられない気持ちになりました。支援活動に参加したことはあまりなかったのですが、フィリピンのために何かできないか、おじいさまに恩返しができないかという気持ちで現地を目指しました。セブから船に乗り、バスに乗ってやっと現地にたどり着きました。医療支援をしつつ、私たちはメガネをプレゼントしたりということをしていました。そこでメガネの新しいサービスを作ってみようという話が生まれました。それで社内で一回プレゼンを行ったら、了承がおりて、フィリピンでの事業が始まったということです。
この事業が始まったきっかけがビジネスじゃないんですよね。もともとは医療支援としてやっていて、そこから始まった関係なので、すごくピュアなモチベーションがあるんですよ。それが私の中ではきれいで良いなと思っているんです。メガネを売るというより、この国のために何ができるか、この国にとって一番メリットがあるのはどういう形なのかを考えてやってます。
編集部
フィリピン人スタッフの教育はどのように行っていますか?
青木さん
スタッフは現地の方が7人います。フィリピンの子たちは頭がいいですが、細かいところがまだ苦手なんですよね。だから徹底的に知識と技術を教えています。積極的にマレーシア、シンガポールでの海外研修を行っています。
また日本からスタッフを呼んで、2週間くらい技術指導してもらっています。あとは教育ビデオを作成して、日本からフィリピンに送ってもらったりもしています。
編集部
フィリピン国内で今後どのような事業、サービスを展開していかれるのかお聞かせください。
青木さん
メガネ店でナンバーワンになりたいです。そのためにも、商品も設備もサービスもメディカルも全部一流にしたいですね。そこからもっと医療的なところに力を入れていきたいです。ベトナムの店舗では、1階が販売店で2階が眼科なんです。そういったところで、新たなビジネスモデルを作っていきたいです。メガネだけでなくて、目のこと全般に対処できる存在になりたいと思っています。そのために、まずは本業のメガネの販売をしっかりやりたいです。
編集部
海外で働く日本人に対して、思うことや感じることはありますか?
青木さん
1週間前に引っ越してきたんですけど、その時に業者の人たちが空港にダンボールを運んでくれたんですね。そこで言われたのが、「海外で働くんですか?日本のために頑張ってください。」という言葉でした。アメリカってその感覚はないんですよ。自分のために働いているので。でも、日本人は違うんですね、ハッとしました。今、日本のメガネ工場は、中国、韓国メーカーに押されて潰れていってしまっているんですけど、私たちが海外進出することによって、そういったところにも良い影響を及ぼすことができるかなと。そう考えると、日本の皆さんが海外に出て仕事してるってすごいなあと。
パリミキは今、日本国内ではすごく苦戦しているんですよ。一番の要因は、安売りのところに負けてしまっていること。もう一つは、日本は人口が減って、市場がシュリンクしてしまっていること。それに対応するのも難しいところがあります。そういった意味では、海外で成功しないと、企業として生き残れないなと思っています。
編集部
座右の銘は?
青木さん
「何のためにやるのか」ということは常に自分に問いかけています。色んな選択肢が出てくるんですけど、それは何のためにやるのかは必ずチェックします。例えば、正しい選択じゃないかもしれないけど、動機さえ自分の中でクリアであれば良いかなと。
編集部
プライベートな時間はどのように過ごされていますか?
青木さん
日本にいるときは朝8時から夜10時くらいまでずっとオフィスにいたので、こちらでは、なるべく休みの時は家族と過ごしていますね。コンドミニアムのプールで遊んだりします。
編集部
青木さんご自身の「今後の展望」や「夢」についてお聞かせください。
青木さん
私の目標は5年間でフィリピン市場でナンバー1になることです。メガネ屋さんとアイケアの分野で1番になること。また5年経ったらフィリピンから出ることを考えています。つまり、5年以内で現地スタッフに自立してもらうということです。売り上げ目標でいうと50億円。日本での年商の10分の1にあたります。5年後にはもう一度新しい国で市場を開拓をして、日本のメガネ屋さんを世界に広めたいです。