2021年6月14日
フィリピン証券取引所(PSE)上場企業の2021第1四半期の企業業績発表が出揃ってきた。PSE上場の日系企業や提携先の比上場企業の決算資料などから入手できる主な日系企業の業績動向は以下のとおり。
当然のことながら、新型コロナウイルス感染再拡大やその対策としての地域隔離措置の影響をく受けているが、非常に不振であった前年同期からは回復傾向にある。もちろん、業種により回復度は異なる。また、巣篭り需要の恩恵を受けている企業もあるし、フィリピン航空のような業績悪化企業もある。
<東ソー子会社マブハイビニール>
PSEに上場している東ソーのフィリピンにおけるソーダ工業製品の製造・販売子会社であるマブハイビニール・コーポレーション(MVC社、証券コード:MVC)の2021年第1四半期は、主力製品の市況下落等により、売上高は前年同期比(以下同様)10.1%減の5億0,488万ペソ、帰属純利益は16.7%減の8,505万ペソとなった。新型コロナウイルス感染再拡大や地域隔離措置という厳しい環境下で、比較的底堅い業績推移だったといえよう。
東ソーは2015年にMVC社を子会社化、2021年3月末の保有比率は87.975%となっている。三菱商事もMVC社への出資を継続(2021年3月末で6%を保有)するとともに、原料の塩類を供給してきている。
<トヨタ自動車の製造・販売拠点TMP>
GTキャピタル ホールディングス(証券コード:GTCAP)株式51%を保有するトヨタモーター フィリピン(TMP)の2021年第1四半期の小売ベースの販売台数は28.8%増の3万3,095台へと二桁増加。業界全体では5.5%増と小幅増にとどまったことから、TMPの市場シェアは44.4%に達し、前年同期の36.3%から大幅上昇、断トツの座をさらに強固なものとした。これらの結果、TMPの売上高は17.9%増の339億ペソ、帰属純利益は39%増の20億ペソに達した。
TMPは、1988年8月3日にトヨタ自動車のフィリピン車両製造/販売拠点として設立された。出資比率はトヨタ自動車34%、三井物産15%、GTキャピタル(GTCAP)51%となっている。
<日清食品合弁企業のニッシンURC>
日清食品グループ(日清グループ)は、フィリピンにおいて、ゴコンウェイ財閥の有力食品企業ユニバーサル ロビーナ コーポレーション(証券コード:URC)との合弁企業「ニッシン ユニバーサル ロビーナ コーポレーション」(ニッシンURC)を通じて即席麺(インスタントラーメン)事業を展開、カップ麺ではトップ企業となっている。現在の日清グループのニッシンURC株式保有比率は49%となっている。
URCの2021年第1四半期(1月~3月)事業報告書によると、表2のように、ニッシンURCの2021年第1四半期の売上高は前年同期比(以下同様)7%増の19億2,400万ペソ、EBITDA(税前・償却前・利払い前利益)は1%減の3億8,700万ペソ、純利益は4%減の2億3,000万ペソで増収小幅減益決算となった。比較となる前年同期が保存食・巣篭り需要急増で17%増収31%増益と絶好調であり、それとの比較ではやや伸び悩んだが、依然高水準の利益を確保したといえる。
<ヤクルト本社の合弁企業フィリピンヤクルト>
フィリピンでは、ヤクルト本社が40%出資するフィリピンヤクルト(持分法適用会社)が、1978年10月から営業を行っている。現在は、ヤクルトとヤクルトライトを製造販売している。日本と同基準の厳しい品質管理の下に製造された「ヤクルト」を1本約20円という低価格で販売している。
2021年第1四半期(1月~3月)のフィリピンヤクルトの一日当り販売数量(速報値)は前年同期比18%増の363万7千本に達し、過去最高水準となった。また、海外市場ではインドネシアの662万本、中国の571万8千本に次ぐ世界第3位であった。これまで、世界第3位常連であったメキシコの340万3千本を一気に上回り、第3位に浮上した。また、18%増という伸び率は主要市場で最大の伸び率であった。
<キリン出資のサンミゲルビール>
キリン ホールディングス(キリン)が約48%出資しているサンミゲル ブリュワリー(SMB、サンミゲルビール)の第1四半期の純売上高は2%増の288億ペソ、営業利益は25%増の68億ペソ、純利益は45%増の55億ペソと増収増益となった。飲食店での定員規制、一時的な店内飲食禁止など依然マイナス要因も多く、販売数量の本格回復には至っていないが、非常に不振であった前年同期からは大幅増益となった。
<NTTグループ出資のPLDT>
普通株式ベースでNTTドコモが10.55%、NTTコミュニケーションズが5.85%出資(2020年6月末現在)、すなわち、NTTグループが普通株だけで16.4%を保有している当地最大の通信企業であるPLDT(証券コード:TEL)の第1四半期のサービス収入は9%増の457億ペソ。データ&ブロードバンドサービス収入が15%増の339億ペソと成長の原動力となった。帰属純利益は2%減の58億ペソだが、一時的損益等を除いた通信事業のコア利益は9%増の75億ペソへと増加した。
<住友鉱出資のニッケル アジア>
住友金属鉱山が約26%を保有する当地最大のニッケル鉱山企業であるニッケル アジア(証券コード:NIKL)の第1四半期の総収入は43%増の31億6,800万ペソ、帰属純利益は5億8,400万ペソで、前年同期の8,900万ペソの純損失から黒字に転じた。ニッケル市況の上昇などが寄与した。
<大和証券出資のオンライン証券COLファイナンス>
大和証券グループ本社14.6%出資する有力オンライン証券会社であるCOLフィナンシャルズ グループ(証券コード:COL)の第1四半期の収入は191%増(約2.9倍)の5億8,871万ペソに達した。特に、売買手数料収入が305%増(約4倍)の4億6,756万ペソへと急増した。帰属純利益も354%増(約4.5倍)の3億6,577万ペソへと急増した。フィリピン証券取引所(PSE)での売買額が64%増加したことにくわえ、COLの売買シェアが13.4%と、前年同期の5.4%から急上昇したことによる。このシェア急上昇は、新型コロナウイルス禍で、オンライン取引需要が一段と高まったことによる。
<三菱UFJ銀行出資のセキュリティバンク>
三菱UFJ銀行が20%出資する有力拡大商業銀行であるセキュリティバンク(証券コード:SECB)の第1四半期の総純金利収入は18%減にとどまった。二桁減収効果や一時的費用等により、帰属純利益は43%減の16億4千万ペソへと減少した。
<三菱商事出資のアヤラコーポレーション>
名門アヤラ財閥の旗艦企業であり三菱商事が約6.6%出資するアヤラコープ(証券コード:AC)の第1四半期の総収入は1%減の602億ペソ、報告帰属純利益は19%減の54億ペソと減収減益決算となった。新型コロナウイルス感染拡大による移動制限の影響が様々な事業部門に重くのしかかった。
<ANA出資のフィリピン航空持株会社>
ANAホールディングス(ANA)が9.5%出資するフィリピン航空の持株会社であるPALホールディングス(証券コード:PAL)は、現時点で、2020年の年次報告書も提出されていない。2020年9カ月の営業収入は61.6%減の452億9,000万ペソ、帰属純損失(赤字)は239.7%増(3.4倍)の288億5,000万ペソへと一段と悪化している。