2018年11月12日
廃食油リサイクル装置「レナジーシステム」、JICA支援
環境汚染により閉鎖を余儀なくされたフィリピンの人気リゾート地ボラカイ島で10月末、観光客の受け入れが再開された。
環境対策が進むなか、金沢エンジニアリングシステムズ(本社:石川県金沢市)が開発したリサイクル技術がボラカイ島の環境改善に一役買っている。国際協力機構(JICA)は、中小企業が持つ際立つ製品・技術を途上国の課題解決につなげる仲介役を担う。
今年10月、ボラカイ島の浄水施設にある発電機の電源に、廃食油をリサイクルした燃料が活用され始めた。これは、金沢エンジニアリングシステムズの技術により、飲食店や家庭から垂れ流しされるなど環境への負荷が問題とされていた廃食油が適正に処理され、ディーゼルエンジンの燃料として有効利用が可能となったためである。リサイクルされた燃料は、軽油と違い再生可能エネルギーのため温室効果ガスの排出が削減され、しかも、軽油より安価である。
金沢エンジニアリングシステムズがソフトウエア開発を手がけるなか、独自に生み出したこの廃食油のリサイクル装置「レナジーシステム」は、既存の発電機に設置でき、廃棄物処理施設のない南北わずか7キロの小さなボラカイ島にとって、うってつけのリサイクル技術である。
金沢エンジニアリングシステムズはボラカイ島でまず1件のリゾートホテルにレナジーシステムを導入。その後、島内でさらなる普及を目指していた2015年、このシステムを利用した事業が、途上国のニーズに合った製品・技術を持つ日本の中小企業の海外展開を支援するJICAの中小企業海外展開支援事業の案件化調査として採択され、システム普及に向けた動きが加速した。
同社開発部の吉田功介市は、「システムの普及に向け廃食油の回収が課題であった。JICAの事業として採択されたことで、政府、自治体、事業者、そして住民が連携しながら、廃食油を適切に回収・処理・廃棄する仕組みづくりを進めることができている」とコメントしている。中小企業にとっても、JICAと連携することで事業がよりスムーズに進むようになり、2018年からは、現地での製品普及に向けた普及・実証事業として継続されている。
ボラカイ島の行政担当者も、「事業者、住民ともに廃食油の環境への影響という認識が低かったが、この事業をきっかけとして、環境意識を高めたい。特に、地域や子どもたちを巻き込みながら環境教育につなげていきたい」とコメント、島の環境改善に期待を込めている。
今後、このシステムは電動トライシクル(三輪タクシー)の充電ステーションなどにも広く導入される予定である。吉田氏は「ボラカイ島のすべての廃食油を燃料として活用できるようにしたい」と意気込みを語っている。
なお、日本は企業全体のうち中小企業が99%を占め、その多くは地方に拠点を置くなか、中小企業の技術と途上国のニーズを橋渡しするため窓口となる役割を果たしているのが国内15ヶ所あるJICAの地方拠点である。金沢エンジニアリングシステムズがボラカイ島での中小企業海外展開事業に応募する際、地方拠点の一つであるJICA北陸は、より現地のニーズに合うよう事業内容の相談に応じるなどサポートした。
また、JICAは、中小企業の海外展開を支援していることを広めていくため、地元企業の情報に通じた地方銀行との連携も強化している。2016年からJICA北陸と連携のための覚書を締結した北國銀行の海外ビジネス戦略部の担当者は、「JICA事業を通じて、途上国での課題解決に役立つ技術を持ちながら海外展開に踏み出せない企業の背中を押していきたい」と積極的。すでに連携覚書が功を奏し、事業が採択された中小企業もあり、成果が出始めている。
民間の力を活用した途上国支援に向け、JICAは2012年から中小企業海外展開支援事業を開始。採択された事業数は、2012年の53件から2018年9月には累計で715件に達した。参入分野も、農業、環境・エネルギー、水の浄化・処理、保健医療など多岐に渡る