2017年11月23日
国際協力銀行(JBIC)は、日本の製造業企業の海外事業展開の動向に関するアンケート調査を実施し、11月22日に結果を発表した。
今回の調査は、今年7月に調査票を発送し、7月から9月にかけて回収したものである(対象企業数1,001社、有効回答数602社、有効回答率60.1%)。この調査は、海外事業に実績のある日本の製造業企業の海外事業展開の現況や課題、今後の展望を把握する目的で1989年から実施しており、 今回で29回目となる。
本年度調査では、「中期的海外事業展開見通し」や「海外事業展開実績評価」、「有望事業展開先国・地域」などに加え、個別テーマとして、「製造業の提供するサービス」、「製造業が事業展開先で受けるサービス」、「現地法人の経営管理」等についても調査を行った。調査結果の要旨は以下の通りであるが、報告全文はJBICのウエブサイトに掲載されている(http://www.jbic.go.jp/wp-content/uploads/press_ja/2017/11/58812/shiryo00.pdf)。
(1)海外事業展開姿勢に一服感
海外生産比率、海外売上高比率については昨年度からやや低下し、それぞれ35.0%、38.5%となった。また、事業展開見通しについては、海外事業の強化・拡大姿勢は72.1%で、2011年度の87.2%をピークに漸減傾向が続いている。国内事業については、強化・拡大姿勢が37.7%まで拡大し、2008年度以来の高水準となった。
(2)米トランプ政権の影響に対する見方、米・メキシコ市場で異なる結果に
米国、カナダでの事業展開に際してのトランプ政権の影響は、「わからない」、「影響がない」が多数を占めたが、メキシコでの事業展開においては、約4分の1の企業が「マイナスの影響が見込まれる」と回答した。英国のEU離脱の影響については、20%超の企業が、英国での事業展開に「マイナスの影響が見込まれる」と回答した。
(3)中期的有望国は中国・インドが高評価、米・メキシコは明暗分かれる
・中国が5年ぶりに第1位となり、得票率は前年度比3.7ポイント増の45.7%となった。前回第1位のインドは今回第2位に後退したものの、得票率は引き続き40%超と高水準を維持。ベトナム(第3位)、タイ(第4位)が順位を上げるなか、インドネシアは前回第3位から今回第5位に後退。第6位の米国は得票率が大幅に上昇する一方で、第7位のメキシコは大きく減少しており、両国で評価が分かれる結果となった。
(4)製造業によるサービスソリューション提供の競争激化、ビッグデータ・IoTを活用した価値提供の展望あるが専門人材が課題
・製造業の提供するサービスについては、メンテナンス・アフターサービス、カスタマイズサービス、コンサルティング等ソリューション提供の順に実施している割合が高いが、将来的には、ビッグデータ・IoTを活用した価値提供の割合も高まる傾向にある。
・製造業がサービスを提供する目的や理由については、「商品販売のために必要不可欠だから」の回答割合が最も高く、次に「他社との差別化」となった。他方、課題については、「競合他社との競争が激しい」の回答割合が最も高く、次に「専門的な人材がいない」となった。「ビッグデータ・IoT活用による価値提供」は、新規事業分野開拓や事業の多角化のために実施する傾向が強いが専門人材の不足が課題となっていること、「ソリューション提供」は他社との差別化を目的としている傾向が強いが競争の激化が課題となっていることなどが示された。
(5)製造業が事業展開先で受けるサービスは、地場の利用が多いものの質は日系への評価高く
・法務・会計・税務については、地場の事務所の利用割合が高く、物流についても、地場企業の利用が日系に比べてやや高い。また、これらのサービスの質については、日系事務所・企業への評価が高い。マーケティング・広告については、日系事務所を利用する割合は低く、デザイン・設計については、そもそもサービスの利用自体が少ない。
(6)海外現地法人への本社機能移転や現地人材の活用が進行中
・本社機能の移転については、2013年度と比べて進行した。製品設計機能の新興国への移転については、現時点では多くはないが、長期的には増加する見通し。
・人材管理については、現地出身の外国人に実質的な責任を持たせる企業が増えている。中期的には、特に生産・販売機能において人材の現地化が更に進む見込み。
・現地法人の人材管理上の課題としては、現地で優秀な人材が確保できないことや、言語・文化の違いによる意思疎通・連携が困難であるとの回答が多数を占めた他、離職率の高さも現地労働者を中心に課題となっている。人材管理上の取り組みとしては、本社・地域拠点での研修、業務プロセスの標準化、経営方針の共有等を実施しているとの回答割合が高い。
なお、フィリピンは中期 的有望事業展開先として、2001年度にベストテン入りを逃して以来、2008年度まで順位の下落傾向が続た。特に、2008年度は、21位とベスト20 からも転落した。その後は、2009年度13位、2010年度と2011年度ともに14位、2012年度15位であったが、2013年度は11位へと上昇、2014年度も連続で11位となった。そして、2015年度は8位に上昇、15年ぶりのベスト10入りとなり、2016年度、2017年度と3年連続の8位となった。 2017年度の得票率は10.6%で、2014年度から4年連続で10%を上回った。しかし、3位のベトナム(38.1%)、4位のタイ (34.5%)、5位のインドネシア(33.1%)という他のASEAN主要国に水を開けられている。
ちなみに、フィリピンは2001年度以前は1997年度が7位、1998年度が6位、1999年度が7位、2000年度10位と推移していた。