2023年12月11日
長期的では9位、課題は人材確保や治安など:JBIC調査
国際協力銀行(JBIC)は、2023年の日本製造業企業の海外事業展開の動向に関するアンケート調査を実施し、12月14日に結果を発表した。今回の調査は、2023年7月に調査票を発送し、9月にかけて回収したものである(対象企業数987社、有効回答数534社、有効回答率54.1%)。
この調査は、海外事業に実績のある日本の製造業企業の海外事業展開の現況や課題、今後の展望を把握する目的で1989年から実施しており、今回で35回目となる。2022年調査では、「事業実績評価」、「中期的な事業展開姿勢」、「中期的な有望事業展開先国・地域」などの定例テーマに加え、個別テーマとして「分断が進む世界経済下でのサプライチェーンの姿」、「世界的な価格高騰による事業展開への影響」、「サステナビリティの事業展開上の課題」などについて調査を実施した。概要は下記のとおり。なお詳細は、JBICのホームページに掲載されている。
(https://www.jbic.go.jp/ja/information/press/press-2023/image/000005619.pdf)
(1)日本の製造業の海外事業展開は、コロナ禍からの回復傾向を維持も、強化・拡大姿勢はやや鈍化
引き続きコロナ禍からの回復の兆しが見える結果となったが、ロシアによるウクライナ侵攻、米中対立の長期化に伴う地政学リスクの高まり、中国経済の減速傾向等を背景に、2023年度の実績見込みは海外生産比率及び海外売上高比率ともにほぼ横ばいで推移する見通しとなっている。今後の事業展開姿勢も国内外ともに昨年度比慎重な動きとなった。
(2)有望国ランキングではインドが他を大きく離し首位を維持。米中は順位を落とし、ベトナムが初の2位
今後3年程度の有望な事業展開先国については、インドが幅広い業種で支持を拡大し得票率で他を引き離す形で首位を維持した。中国は、米中対立の長期化・中国経済の減速など、様々な懸念の高まりを背景に2年連続で得票率を落とし3位に後退。米中の得票率の減少分がASEAN上位国やメキシコ等に分散し、脱中国の受け皿としての期待が高まるベトナムが初の2位となった。
(3)サプライチェーンの見直しの一方、中国依存も継続。地政学リスクの高まりから、国内投資強化の動きも
米中対立、ロシアによるウクライナ侵攻等の地政学リスクの高まりを受け、サプライチェーンの原材料調達を見直す動きがみられるものの、代替困難な原材料・部品等の調達先として中国の存在は引き続き大きい。一方、中国国内の規制強化・投資環境の悪化に伴い、中国ビジネスに対する日本企業の不安感は大きく広がり、また、米国による対中規制が強化される中、事業運営への実際の影響も出ている。海外から国内への生産移管は電機・電子などわずかに留まっているものの、政府の補助金等の優遇措置も考慮しつつ、国内投資の強化に積極的な姿勢がみられた。
(4)世界的な価格高騰で、コスト削減等に取り組む一方、価格転嫁の動きも進みつつある
約9割の企業が、エネルギー、材料、部品などの世界的な価格高騰の影響を受けていると回答しており、エネルギー使用の抑制や経費削減等の対応を迫られている。また、約7割の企業が価格転嫁を実施していることが分かったが、取引先からの理解が得られないことや、他社との競合があること、などの理由で価格転嫁を進められない企業もみられる。
(5)脱炭素への取り組みは大企業を中心に進展。生物多様性や人権問題は理解の困難さを背景に取り組みが限定的
約65%の企業において脱炭素への取り組みが順調に進捗していることが判明。各企業において、脱炭素への取り組みには、納入先からの要請、競合先の状況、また脱炭素技術動向などを考慮に入れているが、企業規模や業界によって進捗に差もみられる。
<フィリピンに対する評価など>
フィリピンは中期的有望事業展開先として、2001年にベストテン入りを逃して以来、2008年まで順位の下落傾向が続いた。特に、2008年は、21位とベスト20からも転落した。その後、再上昇基調となり、2013年と2014年は連続11位、2015年は8位に上昇、15年ぶりのベスト10入りとなり、2018年まで4年連続で8位が続いた。そして、2019年はメキシコを抜き7位に浮上、2020年、2021年と3年連続で7位となった。ただし、2021年の得票率は9.0%で、2020年の10.4%から低下、8年ぶりの10%台割れとなるなど、他のASEAN各国と同様得票率が低下した。更に2022年の得票率は7.6%に低下、順位も8位へと1ランク後退した。
2023年の得票率は8.9%へ上昇したが、順位は8位のままであった。そして、2位のベトナム(30.1%)、5位のインドネシア(24.6%)、6位のタイ(21.5%)という他のASEAN主要国に水を開けられている。ちなみに、フィリピンは2001年度以前は1997年が7位、1998年が6位、1999年が7位、2000年10位と推移していた。得票率過去最高は1995年の15.4%、過去最低は2008年の1.5%であった。
2022年調査におけるフィリピンの中期的有望の理由の上位は、「現地市場の今後の成長性」(比率50%)、「安価な労働力」(44.1%)など。2019年以降上昇傾向にあった「他国リスク分散の受け皿」の割合が下がるなど課題を残す形となった。
一方、課題としては、昨年大幅に改善した「治安・社会情勢が不安」(比率35.5%)を指摘する声が増えた。また、「労働コストの上昇」(比率38.7%)、「管理職人材の確保が困難」が2年連続で上昇しており、人材の確保が困難になっているものとみられる。
長期的(10年程度)有望事業展開先では、フィリピンに対する最近の評価は良好である。速報資料では総合10位までの順位が明示されているが、近年ではフィリピンは2015年までランク外であった。しかし、2016年は10位にランクイン、2018年まで10位が続いてきた。2019年は8位(得票率11.8%)へと上昇した。2020年は9位(9.5%)、2021年も9位(7.0%)とベスト10入りが続いており、2022年は7位(9.4%)で最近では最高の順位となっている。ただ、2023年は9位(6.8%)へと後退した。
中期的有望事業展開先と同様に、2位のベトナム(29.8%)、5位のインドネシア(23.0%)、6位のタイ(21.5%)とは大きな差が付いている。また、軍事クーデターで大きく揺れているミャンマーが2021年の8位から大きく後退していることで順位が上昇したという要素もある。