JETROフィリピンは18日、税制改革法(CREATE法)に関する詳細なレポートを発表しました。
ドゥテルテ政権の経済政策、税制改革法(CREATE法)とは(フィリピン)
2021年4月11日、フィリピンにおいてCREATE(法人のための復興と税制優遇の見直し)法が発効した。同法は、法人所得税の減税など、景気浮揚を目的とした措置と、これまで投資誘致機関が提供してきた各種インセンティブの整理・合理化が盛り込まれており、ドゥテルテ政権は最も重要な経済政策の1つと位置付けてきた。本レポートでは、同法の主要な措置である法人所得税の減税とインセンティブの整理・合理化について、その概要と背景となる議論の一部を紹介する。
CREATE法の概要
フィリピンのドゥテルテ大統領は2021年3月26日、CREATE法案に署名し、4月11日に同法案は発効した。同法の概要は(1)法人所得税率の引き下げ(2)最低法人所得税率の一時的引き下げ、および(3)投資インセンティブの整理・合理化となっている。
法人税制改革の背景
CREATE法の成立前、フィリピンの法人所得税率は30%であり、ASEAN加盟10カ国の中で最も高い水準にあった(図参照)。
出所:各国政府発表からジェトロ作成
一方で、フィリピンでは複数の投資誘致機関が一定期間、法人所得税免除や特別税の適用、関税の免税など、さまざまな優遇措置を付与してきた。例えば、フィリピン経済区庁(PEZA)は輸出加工区への投資に対して、投資委員会(BOI)は政府が設定する投資優先計画(IPP)で指定された分野への投資に対して、それぞれ優遇措置を付与している。
そのほか、クラーク開発公社(CDC)、スービック湾首都圏庁(SBMA)、サンボアンガ特別経済区庁や地域投資委員会(ムスリム・ミンダナオ自治区)など、特定の地域や経済特区への投資に対して優遇措置を付与する投資誘致機関が存在する。CREATE法の成立前、これらの投資誘致機関は財政当局であるDOFからある程度の独立性を保ち、投資誘致機関ごとに独自の基準で優遇措置を付与していた。
CREATE法でフィリピン経済の競争力が向上する可能性も
CREATE法によって政策的に投資を優遇する意義について、直接的に優遇措置の恩恵を受ける企業だけではなく、その便益がほかの企業や産業、国内経済全体に十分に波及することが重要である、とフィリピン貿易産業省(DTI)のラファエリタ・アルダバ次官は考える。
アルダバ次官は2021年12月13日、CREATE法の必要性について、「複雑なインセンティブ制度の是正だけではなく、フィリピン経済のファンダメンタルズを強化する上でも重要である」と述べた。同次官の言うファンダメンタルズとは、近代的なインフラや教育水準、労働者の質、技術力など、ビジネス環境に関連する要素全般で、CREATE法による優遇税制の見直しに伴い、ファンダメンタルズ向上のための投資財源に充当することができるという考え方である。
一方、CREATE法は、これまで優遇措置が付与されてこなかった企業・業種に対して、法人所得税率の引き下げにつながる(前述の通り、法人所得税率は30%から25%に引き下げられた)。
フィリピン大学経済学部准教授のレナート・レシーデ・ジュニア氏は2021年12月13日、「CREATE法は課税ベースの拡大と法人所得税率の引き下げを同時に実現している点で、有効な税制改革である」とコメントした。課税ベースを拡大させることで、政府は以前よりも多くの税収を獲得できる。税収源の拡大にともない、政府は法人所得税率の引き下げが可能となる。そのため、CREATE法の便益は、これまで経済特区に入居できなかった企業にも及ぶ、とレシーデ・ジュニア氏は説明した。その上で、フィリピンの投資環境を改善させるためには、法人所得税率の引き下げのみならず、外資に対する資本規制の緩和や、インフラ・人材への投資を進めていく必要がある、と指摘した。
スイスの国際経営開発研究所(IMD)が2021年6月に発表した「世界競争力ランキング2021」では、「経済パフォーマンス」や「政府の効率性」「ビジネスの効率性」「インフラ」といった基準で構成されるフィリピンの順位は64カ国中52位であり、マレーシア(25位)、タイ(28位)、インドネシア(37位)などの近隣諸国と比較すると劣後している。特に、「インフラ」の項目に対する評価は低く、「基礎的インフラ」は57位、「科学インフラ」は58位、「健康・環境インフラ」は57位、「教育」は60位となっている。インフラやその財源となる税収基盤が脆弱であったことは、フィリピン経済の競争力が低い要因の1つとなっていると考えられる。
CREATE法の施行と外資規制の緩和(注3)の進展が、(1)外資・内資による投資の拡大、(2)政府の税収増、(3)政府によるインフラ・教育などのファンダメンタルズへの投資拡大、(4)ビジネス環境の改善、(5)さらなる民間部門の投資拡大、といった正の循環につながり、フィリピンの競争力が高まることを政府は期待している。
フィリピン開発予算調整委員会(DBCC)は2021年7月、インフラ分野への予算支出を拡大する方針を明らかにした(2021年7月28日付ビジネス短信参照)。フィリピン政府の財政計画の中で、2022年には同年の予測GDPの5.8%、2023年は同5.3%に相当する額をインフラ支出に割り当てる予定だ。インフラ支出の対GDP比は、アロヨ政権期(2001~2010年)が平均1.6%、アキノ政権期(2011~2016年)が平均3.0%であった。過去との比較において、フィリピン政府が高い水準でのインフラ支出を継続していく可能性がある。
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注釈
注1:課税年度末時点で総所得(売り上げから原価などを控除したもの)に最低法人所得税(MCIT)の税率を乗じて算出される額が、通常の所得税額よりも大きい場合、最低法人所得税(MCIT)として課税される。なお、MCITの適用を受けるのは、当該法人が事業の4年度目以降にある場合(事業が1~3年度目に当たる法人にMCITは適用されない)。
注2:2022年1月4日時点で、SIPPは策定されていない。SIPPが策定されるまでの移行期間は、2020年度版の「投資優先計画(Investments Priorities Plan:IPP)」に記載された業種・事業が優遇措置適用の対象となる。
注3:ドゥテルテ政権は、「外国投資法」「公共サービス法」「小売り自由化法」の緩和法案成立を目指していた。これら法案が成立することで、外国からの投資が加速する、とフィリピン政府は期待する。なお、「小売り自由化法」の緩和法案は2021年1月に可決した(2022年1月13日付ビジネス短信参照)