プロ野球の巨人軍が1月にフィリピンで野球教室や講演を実施した。巨人は国際協力機構(JICA)と業務協力協定を結んでおり、これまでも中南米などで野球の普及活動に取り組んできたが、フィリピンでは初めて。
フィリピンプライマーでは単独取材を通じて、巨人軍の統括部の森田聡さん、元巨人選手で現在はフィリピンで野球アカデミーを運営する柴田章吾さん、そしてアカデミーで理事を務める鈴木敬子さんに話を伺った。前編に続き、後編をご紹介する。
【略歴】
◆Millile Samurai Foundation
PROGRAM ADVISOR/柴田章吾さん
1989年愛知県生まれ。愛工大名電高校、明治大学を経て、2011年にプロ野球ドラフト会議で読売ジャイアンツからドラフト指名を受け投手として活躍。2015年から読売ジャイアンツ球団職員、ジャイアンツアカデミーのコーチを経験。2016年にアクセンチュア株式会社へ転職。2019年10月から現職。
◆読売巨人軍株式会社
統括部/森田聡さん
東京学芸大学卒業。2005年、米独立リーグ「サムライベアーズ」に所属。2006年に読売巨人軍がプロ野球12球団に先駆けて新設したジャイアンツアカデミーのコーチを勤め、その後フロント(球団職員)入り、現職。
◆Millile Samurai Foundation
ACADEMY DIRECTOR/鈴木敬子さん
青山学院大学卒業。米ボストンのシモンズ大学で博士号を取得。アメリカや日本、香港やフィリピンなどで通訳として活躍し、2001年からフィリピンに在住。現在は通訳兼翻訳家として活動しながら、運営をサポートしている。
Millile Samurai Foundationはマニラのグラウンドで野球教室を開催している
ーー前編のインタビューではこれまでのご経歴を中心に伺いました。柴田さんは巨人を引退された後、フィリピンとどのようにして関わりをもたれたのでしょうか?
柴田さん:4年前に、現在アカデミーの役員として参画いただいている鈴木敬子さんの子供たちに野球を教えたことがすべての始まりでした。巨人の現役選手を引退した後、英語を勉強したいという想いが芽生え、2016年に始めてフィリピンを訪問。その際に知人からの紹介で、フィリピンに住む彼女のご自宅にホームステイをしたのです。
最初は彼女の息子たちに野球を教えていただけでしたが、次第に沢山の子どもが集まるようになっていきました。アクセンチュアで働いていた頃も定期的にフィリピンを訪れていましたね。
鈴木さん:私の子どもたちが加入していたチームは大会では一勝もできないほど弱かったのですが、柴田さんにトレーニングメニューなどをご指導いただいた途端、わずか3、4ヶ月で準優勝することができました。
日本の野球は技術を教えるだけでなく、礼儀や作法といった道徳的な教育にもつながります。このトレーニングをフィリピンで続けることができたら、国全体の野球のレベルが向上するだろうなと感じました。そのため継続的に野球を指導する環境を整えようと、今回財団を設立したのです。
柴田さん:「自分がフィリピンでより多くの時間を指導に充てることができたら、子どもたちは必ず成長する。東南アジアには無限の可能性がある」ということを確信し、アクセンチュアをやめてフィリピンにきました。事業としての採算がついたからというより、想いの方が強くなったという感じです。
フィリピン訪問を振り返る森田さん
ーー巨人としては、今回のフィリピン訪問でどのような手応えをお感じになりましたか?
森田さん:今回のフィリピン訪問を通じて、巨人軍としても様々な可能性が見えてきたように思います。これはあくまで一個人としての意見ですが、現在日本の野球は少子高齢化に伴って野球人口が減るなど、色々な課題を抱えています。そのなかで日本の他の球団は海外の球団と提携したりと、様々な施作を打ち出しています。
私たち巨人軍も今後どのようなことができそうか、模索しながらチャレンジしていきたいですね。
アスリートのセカンドキャリア支援を目指す柴田さん
ーー今後の事業のご展開をお聞かせください。
鈴木さん:野球を通じてフィリピンと日本の子供達の交流も進めていきたいです。先日東京都府中市で活動する子どもたちと野球の合宿をする機会があったのですが、監督から「フィリピンの子供たちの柔軟性はとても高いですね」というお声をいただき、とても嬉しかったですね。子どもたちが互いに交流することで、野球以外の大切なことも色々と学べるのではないかと考えています。
柴田さん:東南アジアに日本の野球を広めると同時に、プロ野球選手のセカンドキャリアも支援していきたいと思います。例えば現役を引退した巨人の選手にフィリピンに半年間住んでもらい、その間に子どもたちに野球を教えながら英語を学び、企業でインターンをしてキャリア形成につなげるというような仕組み作りを考えています。今後はより信頼を得るために、スポンサーを積極的に探していきたいですね。
もちろん現状の事業の拡大も目指します。フィリピンに野球の文化を根付かせていけるような土台を作り上げていきたいですね。今は12歳以下の子どもたちに指導しているので、徐々に年齢を上げ、18歳くらいまでにメンバーを増やしていけたらと思います。野球というスポーツは、試合が終わる最後の瞬間まで逆転される怖さがあります。最後まで油断せず頑張り続ける力を子どもたちにも伝えていけたら嬉しいですね。