現在世界的に急激に増加しつつあるオミクロン株・コロナ罹患者ですが、フィリピンにおける今の罹患情報、病院の状況などを、マニラにあるフィリピンの国立サンラザロ病院でコロナの治療チームを指揮している鈴木秀一さんに寄稿いただきました。
今回は速報として掲載しますが、今後適宜情報をお寄せくださる予定です。正しい情報の把握にぜひお役立てください。
サンラザロ病院から見た新型コロナウイルス感染状況(速報)
長崎大学熱帯医学・グローバルヘルス研究科
鈴木秀一
2019年6月よりフィリピンに赴任している鈴木秀一と申します。現在、フィリピン国立感染症専門病院であるサンラザロ病院での長崎大学共同研究拠点のマネージャーをしております。現在の新型コロナウイルス感染症の現状について、私見を紹介します。
サンラザロ病院は、フィリピンのマニラに位置する500床程度の国立感染症専門病院です。トンド地区にも近いところにあり、比較的貧困層の患者の割合が多く、慈善病院としての役割も併せ持っています。新型コロナウイルス流行前は、デング熱、結核、レプトスピラ症、破傷風、ジフテリア、狂犬病患者が入院する病院でした。長崎大学は2015年からサンラザロ病院の中に長崎大学オフィスと長崎大学共同研究ラボラトリーを設置し、現在は、日本人スタッフとして私が常駐し、熱帯感染症やコロナを含む呼吸器感染症の臨床研究を行っています。
新型コロナウイルスのマニラにおける感染状況
2021年12月19日時点ではフィリピン全体の新規感染者数も200名程度まで減少しましたが、クリスマスを過ぎたあたりから徐々に、そして、急激に感染者数が上昇し、2022年1月9日時点では新規感染者数は2万人を超えました(2022年1月10日午後4時現在33,169 人;CNNPhilippine PH breaks record anew with 33,169 COVID-19 cases today (cnnphilippines.com))。昨年8月のデルタ株が蔓延していた時期よりも感染者数の増加スピードが早く、オミクロン株の感染能力やクリスマスが重なった事によるものと思われます。他国の感染者数の推移を見てみると、例えば、南アフリカでは感染者数が11月下旬から増加し始め、12月中旬にはピーク到達したことから、フィリピンでももうしばらく感染者数は増加の傾向にあるかとみています。
病院に目を向けてみると、ベッドの占有率は昨年8月に比べて半分以下であり、サンラザロ病院では、去年は重症患者を優先して入院させていましたが、現在は中等度の患者も受け入れています。重症化している患者のほとんどは、ワクチン接種を行っていない方です。私見ですが、前回の8月に比べて重症患者が少ない理由としては、マニラ首都圏におけるワクチンの普及、及び、オミクロン株の臨床的特徴、両方に影響していると考えています。
しかしながら、医療従事者不足は深刻な状況で、私のオフィスのスタッフも残念ながら半分以上がコロナに感染してしまいました。また、サンラザロ病院、フィリピン総合病院等の病院は、外部からのコロナPCR検査を一部制限すると1月6日から発表がありました。
フィリピン保健省はコロナ陽性の医療従事者の隔離期間の縮小と、濃厚接触のある医療従事者の隔離撤廃を発表しましたが、未だに医療従事者不足は続いています。現在、私のオフィスでは、業務中はKN95マスクの着用を義務付け、窓は全開にし、扇風機を回して業務にあたっています。また、症状のあるスタッフには全員PCR検査を実施し、我々医療従事者が感染源にならないように気を配っています。
最後になりますが、現地医療従事者は、医療資源の限られた状況下で、使命感をもって仕事をしています。我々にできる事は限られていますが、まず自分か感染しないように、食事などのライフスタイルに気を付け、ストレスを溜め込まないようにして、新型コロナウイルの感染に負けない免疫力をつけていきましょう。また、ワクチンも賛否両論あるのは承知していますが、ワクチンを接種する事によって重症化を防ぐことはできているのではないかと思っています。マカティ等の病院で直ぐに診てもらえない場合などは、こちらの病院でも対応いたしますので、遠慮せずにご連絡ください。
鈴木秀一(Shuichi Jack Suzuki)さん
長崎大学熱帯医学・グローバルヘルス研究科
サンラザロ病院長崎大学共同研究拠点、拠点マネジャー
東京大学薬学部卒のちTulane University School of Public Health and Tropical Medicineへ留学、慶応病院、WHOなど経て現職、現在は長崎大学から派遣され、
マニラのSan Lazaro Hospital(サンラザロ病院)勤務。
専門領域:糖尿病、医療経済、創薬