JETROフィリピンは22日、フィリピン最大の民間放送局ABS-CBNについての情報を発表しました。
最大の民間放送局が事業停止に
国家通信委員会(NTC)は、フィリピン最大の民間放送局ABS-CBNが「放送事業免許の期限満了を迎えたものの、次の25年間に向けた免許を更新できていない」として、5月5日に同局に無料のテレビとラジオ、6月30日に有料のテレビとケーブルテレビの放映を停止するよう命じた。
同局の免許更新については、国会で審議されていたが、会期終了で時間切れとなった。そこで、カエタノ下院議長が2020年10月31日まで暫定的な放映権を付与し、次期国会で更新の可否を審議することを提案した。しかし、下院での早期決着を求める声が大きく、下院では受け入れられなかった。結局、下院の立法事業認可委員会を集中的に開催した結果、7月10日の票決で更新申請が却下された。議会では、米国籍を持つ経営者による出資が憲法に抵触すること(注)、税務や労務に関する違法行為の可能性、報道の客観性などの観点から、更新の是非が審議された。
一方、更新を妨げる最大の要因は、世論形成に大きな影響力を持つ同社が、現政権に対して必ずしも協力的ではないことと見る向きも多い。英国の調査会社フィッチ・ソリューションズは7月7日、「NTCの停止措置は政治的な判断によるもので、通信部門における政府の関わり方に注意を要する」として、フィリピン通信産業の評価を引き下げた。
本件については、世界各国のメディアも報じているほか、国連人権委員会や複数の国際人権団体から報道の自由を憂慮する声明が出ている。
(注)マスメディアは、第11次外国投資ネガティブリスト「外国人による投資・所有が、憲法および特別法により禁止・規制されている分野」に該当する。現行憲法は、外国人のマスメディアへの出資・所有を禁じている(第11次外国投資ネガティブリスト:リストA)。
ABS-CBNを経営するマーク・ロペス会長は、米国籍とフィリピン国籍を有していることから、憲法違反ではないか、という議論が行われた。
(石原孝志)