『フィリピン人を試用期間付で雇用する場合の注意点』
前回はフィリピンにおける労働問題の解決手続についてお話させていただきました(前回のフィリピンあらかると に掲載されていますので、見逃された方は是非ご覧ください)。今回は具体的にフィリピンにおいて労働問題となりやすい、フィリピン人の雇用についてお話しさせていただきます。
フィリピン人の雇用に関する注意点
ご存知のとおり、日本と同様にフィリピンにおいても一度正社員として雇用しますと、なかなか解雇することが難しいです。そのため、新たにフィリピン人を雇用するに当たっては、まずは試用期間付の雇用契約を締結し、試用期間中の従業員の様子を見て正社員として雇用するかどうかを決めることが通例となっています。このような試用期間つきの雇用契約を締結していれば、試用期間が終了するときに簡単に雇用契約を終了させることができると考えてらっしゃる方もおられると思いますが、実際には雇用契約を終了させることができないというケースも多いといえます。そこで、試用期間つきの雇用契約を締結するに際してのポイントについてお話いたします。
雇用契約書締結前の説明
まずは、試用期間つきの雇用契約を締結する予定の労働者を雇用するに当たっての面接の段階で、この雇用が試用期間つきの雇用契約であること、すなわち、試用期間における従業員の勤務実態が会社の定める基準に満たない場合には契約が終了する可能性のあることを、実際の基準の内容の説明とともに知らせることが必要となります。具体的な基準の説明なくして、単に試用期間つきの雇用契約であることを告げただけでは、後々争いとなる可能性もありますので、注意が必要です。
雇用契約書の締結
面接を経て試用期間つきではあるものの労働者を雇うこととした場合には、その労働者との間で雇用契約書を結ぶ必要があります。この雇用契約書において、最低でも以下の事項についての規定をおく必要があります。
① 雇用があくまで暫定的であること
② 試用期間の長さ(最長でも6ヶ月)
③ 試用期間後の雇用継続のための合理的な基準
④ 試用期間後の雇用継続のためには定められた基準を満たす必要があること
<具体的な条文のサンプル>
“The employer engages, and hires the employee as a (position), for a probationary period of six (6) months and the probationary employee accepts such probationary employment. Attainment of regular employment shall be conditioned on the employee’s having successfully passed and complied with the employer’s established standards for regularization. These standards will be provided to the employee upon commencement of her employment and are based, among others, on the following criteria: satisfactory work performance, acceptable attendance record, compliance with the employer’s rules and regulation, policies and procedures and the terms of this Agreement, qualification and suitability for the permanent job, and the operational requirements of the employer.
The employer reserves the right to terminate the employee’s probationary employment at any time even prior to the expiration of the prescribed probationary period, should the employee fail to satisfactorily meet and comply with the performance standards set by the employer and made known to the employee at the time of his/her engagement, as well as for any of the just and authorized causes provided by existing law, including any violation of the employer’s rules and regulations. Regular employment shall be confirmed upon satisfactory completion of a six (6) month probationary period.”
試用期間中に会社が行うべきこと
次に、実際に雇用契約が結ばれ、試用期間が開始した後に会社などのようなことを行う必要があるのかについて説明します。
契約書の締結のところでも述べましたとおり、雇用主は契約締結の際に労働者に対して提示した基準に基づいて労働者の労働状況について定期的に評価を行う必要があります。具体的に提示した基準に基づいて労働者の評価を行い、現実的には試用期間の半分が経過したころに中間評価を行い、その結果を労働者に伝え、実績が芳しくない労働者に対しては具体的にどの部分において評価が好ましくなかったのかについて指摘をし、かかる部分が改善されなければ雇用契約が解除されることを通知することが好ましいでしょう。
解雇の方法
試用期間終了時に解雇する場合の手続ですが、先ほどの試用期間の半ばでの評価に引き続き、最終の評価は試用期間終了の1ヶ月前あたりに行い、その結果を見て試用期間終了後も雇用を継続するかどうかについて最終の評価を下す必要があります。この最終評価において正式雇用するに値する結果を残していた労働者はそのまま雇用契約が存続し、そうでない場合については雇用契約を解除することを伝えることになります。具体的に雇用契約を解除することを伝える方法ですが、書面により労働者に通知することが必要ですが、労働者に対して弁明の機会を与えるなど、通常の解雇の際に必要とされる手続を行う必要はありません。
また、試用期間つきの労働契約であっても、通常の雇用契約と同じように、正当な理由がある場合には法律に定める手続をとることにより試用期間中に雇用契約を解除することが可能です。なお、通常の雇用契約の解除の方法につきましては次回以降に改めて詳しくご説明させていただく予定です。
試用期間の延長は可能か?
なお、試用期間は最長で6ヶ月と法律で決められていますが、その試用期間内では果たしてその労働者の雇用を継続すべきかどうか、迷うケースもあると思います。このような場合、労働者も試用期間の延長に合意すれば、合意された試用期間の終了時に雇用継続の有無を判断することが可能です。試用期間の延長に際しては、労働者と書面にて合意することが必要です。また、あまりにも長期の延長の場合には、正規雇用であると後々に争われる可能性もありますので、延長する期間としては3ヶ月程度とすることが合理的であるといえます。
本稿においてフィリピン法に関する記載につきましては、Quasha Law法律事務所の監修を受けております。
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