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第十六回ビジネス烈伝 / シャープ・フィリピンズ・コーポレーション 田中孝弘さん

伝統のクリエイティブ魂
アジアが救う、名門家電再生へ

Larry Chan

【プロフィール】
 
シャープ・フィリピンズ・コーポレーション
社長 田中孝弘さん
 
1961年生まれ。大阪府出身。1984年シャープ株式会社入社。商品企画、シンガポール、ドイツ勤務などを経て2012年4月から現職。現在フィリピンに単身赴任中。趣味は車。
 
【好きな書籍】
 
「一目均衡表」(一目山人著)
 
有名な相場分析の理論書。株式や円相場など、現実と理論が神がかったようにぴたりと合致するさまに、背筋が寒くなるような思いをすることがあります。

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昨年創業100周年を迎えたシャープ。家電史に残る画期的な商品を開発してきた名門メーカーはいま、業績低迷から待ったなしの再生を迫られている。そんな中、設立30年を経た子会社のシャープ・フィリピンズは、伸び 盛りの比国内需要を見込んで生産増加を加速させると鼻息は荒い。生き残りをかけた重責の一端を担う同社の田中孝弘社長にお話をお聞きしました。
 

 
編集部● まず、シャープ・フィリピンズの拠点、販売網について教えてください。
 
田中さん● ここモンテンルパ州のアラバンに、従業員約550名を擁する工場があります。販売網は約100社のディーラーを通じて1,500あまりの店舗で商品を展開しています。メトロマニラは大型モール、ビサヤ・ミンダナオ地方は地域店が中心です。ディストリビューション・ポイントの数としては決して小さくないものだと自負し ています。
 
編集部● アラバン工場では主にどのような製品を生産しているのでしょうか。
 
田中さん● メインは洗濯機とテレビ、次いでカラオケ機器となります。生産する製品のほぼ100%がフィリピン国内の消費者向けです。洗濯機はこれまでの累計で約680万台を出荷しています。全社内で、優れた製品を評価するシャープ大賞というものがあり、シャープ・フィリピンズは一層式洗濯機とカラオケ機器でこれを受 賞しています。2度受賞したのはアジア拠点としてはここだけです。
 
編集部● 中間層が増えつつあるフィリピンでは冷蔵庫、洗濯機、エアコンなどの需要が一層伸びると思います。
 
田中さん● 今後そうした白物家電の需要が上昇するのは間違いありません。ただ、中間層が伸びているとはいっても、世帯収入が1万ペソ周辺の低所得者層もまだまだ多い。そのためフィリピンは非常に特殊でユニークな市場を構成しています。
 
編集部● どのようにユニークなのでしょう?
 
田中さん● 例えば洗濯機。通常は国が豊かになるとともに一層式などの“ボトム商品”の需要は徐々に下降していく。ところがここでは、全自動洗濯機と並んで、一層式の売上も微増が継続しています。冷蔵庫もしかり。直冷方式という安価なものと、ファン式という霜が付かない高性能な物が共存しています。これは、生活 必需品である白物家電の普及率が極端に低く、初めての家電として最も手頃な商品を購入する世帯が依然として多いという証です。そうした消費者の実態に即した生産体制をとる必要があります。
 
編集部● 実際に商品を普及させていく販売現場の状況は?
 
田中さん● 店頭で商品をプロモーションする販売員の手法、商品知識がまだ物足りない。その強化に力を入れていきます。優秀な販売員は現場でどうすれば売れるのかということを知り尽くしている。彼らを選抜してエリート販売チームをつくり、トレーナーとして販売教育にあたらせる。一方でディーラー経由の販売だけでなく、ウ エブやSNSを使った新たなマーケティング戦略も模索しているところです。
 
編集部● 白物家電に継ぐ商品がカラオケ機器とはフィリピンならではですね。
 
田中さん● 最近、大型スピーカーの上に液晶モニターをのせて一体化させた「SAMM」というカラオケ機器を発売したばかりです。これはシャープ・フィリピンズの独自のアイデアから生まれたオリジナル商品です。早くも各地に月間約1,000台のペースで出荷し、手応えを感じています。シャープならではの強みを生かしながら、 全社の中でもフィリピンでしか考え出せないこうした製品こそ、この工場で生産すべきものだと考えています。

シャープ・フィリピンズ

編集部● 他にフィリピンならでは製品は?
 
田中さん● 同じく弊社独自のアイデアから生まれた洗濯機「ダブルウオッシャー」を6月に販売開始しました。二層式は通常、洗濯槽と脱水槽が並びますが、この商品は洗濯槽が2つ並ぶというユニークなもの。脱水は必要ないからその分大量に洗いたい、というニーズに着目した商品です。
 
編集部● そうした商品のアイデアはどこから生まれてくるのでしょう?

田中さん● 我々のクリエイティブ・スピリットは長年培われた風土とも言えるものです。現在、商品開発担当者を中心とした“IGNITES”という会議を随時設けています。本来、火を付ける、奮起させる、という意味合 いですが、Innovation and Generation of New Ideas Through Employees Suggestionsを略したものです。この会議にかけるアイデアは全社員から募ります。優れたアイデアをもし経理の人間が出してきたら、躊躇なく商品開発の部署に異動させることもいとわない。これは本社ではなかなかできないことで す。そして、ここは工場ですから技術者も設計者もデザイナーもいます。斬新な商品企画を緻密なコスト計算に落としていく担当者もいてスピーディーに商品化を実現できる。そこが、単なる販売会社にはない最大の強みです。常にwhat’s nextを考え、その知恵が出なくなった時はこの工場の価値はなくなる、というくらいの意識を持っています。
 
編集部● 今後新たにフィリピン・マーケットで力を入れていく商品を教えてください。
 
田中さん● メトロマニラなどは空気がきれいとは決していえません。ぜひプラズマクラスター搭載の空気清浄機を普及させていきたいですね。特に法人様に導入してもらいたいと考えています。会社で体調不良者が続出したらビジネスリスクになりますよね。この商品をオフィスに設置すればそうしたリスクを軽減する一助になります。 コールセンターなどのBPOビジネスが盛んなこの国で、需要は相当数あると考えています。
 
編集部● 個人消費者向けには?
 
田中さん● 美に対する意識が高いフィリピン人女性に、同じくプラズマクラスター搭載のドライヤーを浸透させていきたい。700~800ペソでドライヤーが買える中で、15,000ペソの欧州製ドライヤーを使っている人たちがいるのも事実。販路を拡大してこうした層にリーチできれば、約9,000ペソの我々のドライヤーも、商 品の素晴らしさを理解して頂いて十分に受け入れられると考えています。
 
編集部● 陣頭指揮をとられて1年3ヶ月、その間、本社は業績の低迷から社長交代や海外企業との提携話が相次ぎ激動でした。今、シャープ・フィリピンズに求められているのはどのような役割でしょうか。
 
田中さん● 現在我々アジアの海外シャープグループ各社は、統括するマレーシアを筆頭に「アジアが救わなかったら誰が救うんだ。僕らしかいない」というはっきりした共通認識で結束しています。本社の期待値も非常に大きいから、僕らは元気出していこうよ、と。空振り三振は仕方ないけど、見逃し三振だけはしちゃいけない、 という攻めの姿勢を大事にしながら、一丸となって頑張っていきます。

 

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