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第三十回ビジネス烈伝 / 伊藤忠商事株式会社 河野一之さん

フィリピンで100年以上の歴史を持ち、
さらなる事業拡大を加速させる総合商社

河野一之さん

【プロフィール】
伊藤忠商事株式会社
マニラ支店長 河野一之さん

1964年埼玉県生まれ。大学卒業後、1988年伊藤忠商事入社。紙パルプの部署に配属され、それ以降ずっと紙パルプに関わる業務を担当。ベルギー、アメリカなどでの海外勤務を経て、2013年4月より現職。フィリピン支店長として、フィリピン全体の事業を統括している。趣味は、マニラで始めたゴルフ。

 
座右の銘「Just do it」
とにかくやってみることが大事。現在はマーケットの成長が早いので、考えつつもまず一歩を踏み出さなくてはいけない。たとえガツンと壁にぶつかったとしても、そこで反省し修正していくことが必要な時代。

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マニラ麻から始まったフィリピン事業も100年以上の歴史を数え、大規模な資本提携を次々と結びグローバル展開を加速させるなど、世界を舞台に挑戦し続ける日本を代表する総合商社。マーケットが求めている商品やサービスを通じて、「商うこと」の先に広がる豊かさを提供していく「伊藤忠商事株式会社」マニラ支店長の河野一之さんにお話を伺いました。

 

 
編集部● フィリピンでの歴史についてお聞かせください。

 
河野さん● マニラへの進出は上海、ソウルに続き3ヶ国目となり、100年以上もの歴史があります。これは、アメリカやヨーロッパへの進出よりもずっと早い段階にあたります。当時のマニラは麻の産地だったので、それを日本に持って行き、ロープや服に加工した後、再度輸出していました。

 
編集部● ご経歴についてお聞かせください。

 
河野さん● 当社には、大学卒業後の1988年に入社し、最初に配属された紙パルプの部署にずっと注力してきました。紙の生産でも川上から川下まで色々とありますが、私が担当していたのは川下の紙を作るところです。商社では部署の異動があまりなく、最初の部署の背番号がずっと貼られたままになります。そのため、私の背番号は「紙」になります。今は背番号が外れている状況ですが、日本に戻るとまた「紙」という背番号が貼られます。

最近は以前に比べ、異動が多くなりました。スペシャリストを育てるのか、ゼネラリストを育てるのかという問題だと思います。スペシャリストだと業界の知識やコネは豊富にできますが、その業界のことしか分からなくなってしまいます。マネージャーになるなら、他の業界のことも知らないといけないと思います。

 
編集部● フィリピンにおいて注力している事業はなんですか?

 
河野さん● 2013年にドールを買収し、同じくファミリーマート一号店オープンと消費マーケット関連事業に注目しています。人口が1億人を超え、しかも購買意欲が高い。ファミリーマートの評判はかなり良いと感じています。他のコンビニエンスストアと比べても、清潔でグレードが一段高いイメージがあると思います。そのため、ある程度所得の高い人たちから良い評判を得ています。

 
編集部● 現在の社内環境はいかがですか?

 
河野さん● マニラ支店は駐在員が3人しかいません。それぞれ、管理部門、化学品部門を担当していますが、部署は5つあります。日本人の頭数が足りないので、私が機械、食糧、金属などの部長を兼任しています。社員は全体で45人おり、課長以下はローカルスタッフが担当しています。そのため、ローカライゼーションが進んでいると思います。マニラ支店も90年初めにはローカルスタッフ45人に対し、駐在員が15〜20人もいました。やはり駐在員はコストが高いので、現地の人に任せてやっていく方針になっています。

海外で商売をするには、言葉の問題がどうしても発生します。フィリピン人は英語を話せますが、他のアジア地域では現地語での会話を流暢にできず、商談がうまく進みません。そのため、自国の人間に責任を持たせてやってもらう方がいいと思います。課長や部長になるようなローカルスタッフが多く育ってもらいたいと思っています。

 
編集部● 採用に関してはどうされていますか?

 
河野さん● 定期の新卒採用は行っておらず、都度中途採用をおこなっています。採用は主に業界筋に絞って募集をし、取りたい業界の営業経験がある対象者に公募をかけています。新卒もこの5年で2回、フィリピン大学から3人採用しました。大学閥ではないですが、ある程度素性が知れているところから採用しています。

 
編集部● フィリピン人部下に思うことはありますか?

 
河野さん● もっといい加減でサボると思っていました。しかし、みんな一生懸命仕事をこなしています。そして、何より明るいです。しかし、怒った時もニコニコしています。本当に意味がわかっているのかと心配になります。また、鼻歌を歌っていることが多く、気合が入っているのかと疑ってしまう時もあります。そういった意味でも、愛すべき国民性ですね。

 
編集部● フィリピン人スタッフの教育についてお聞かせください。

 
河野さん● スタッフの人数が増えだけでなく筋肉質な組織になることが必要です。そのため、現地スタッフが課長や部長になるレベルまで成長してほしいです。

フィリピン人の管理職であれば、部下の人間とも文化が知れており、継続的に力のある組織になるのではないかと思います。今後は、現地人支店長が出てもいいと思っています。

伝説の商社マンとしてNHKでも紹介されたJ・W・チャイさんは、伊藤忠の副会長まで登りつめました。韓国人の彼は日本語がペラペラでした。彼はいすゞ自動車とGMの提携、セブンイレブンとイトーヨーカドーの提携を成功させました。J・W・チャイさんは商社の働き方が変わってきた時に、色々動かれた立役者です。それが日本人ではなかったという話ですが、「日本人じゃなくても新しい流れを作れる。そのくらいになるまでがんばれ」とフィリピン人スタッフにはよく言っています。

 
編集部● 商社マンに求められる資質は?

 
河野さん● 一番は元気ですね。フィリピンはこういう気候ですし、スピード感を持って進んでいる国なので、それが一番大事な資質だと思います。そして、好奇心が必要です。若いマーケットでは視野を広げて、興味を持つことが大事です。

 
編集部● 経済環境が劇的に変化している中で、商社に求められる役割はどうですか?

 
河野さん● 30年前に比べて、立ち回り方が変わってきています。昭和の頃は、右から左に物を流すような卸問屋に近い存在でした。現在は、お客さまでも直接モノを調達できる時代になっています。トレードだけのスタイルから脱却するため、企業の買収や株を持つ方に舵を取っています。その中でも、資源と非資源に分けることができます。資源は鉱山やエネルギーなど、非資源は食糧、食品、生活関連商材などに分けられます。

伊藤忠は非資源に力を入れており、その割合は70%が非資源、30%が資源となっています。

最近では、非資源分野としてドールの買収やファミリーマートの展開。また、タイ最大の財閥であるチャロン・ポカパン(CP)グループと一緒に中国の政府系複合企業に1兆2000億円の出資をしました。

 
編集部● こちらに来て苦労した点は?

 
河野さん● 意外とありません。単身で来ているのですが、メイドさんに通いで来てもらっているので、特に苦労は感じていません。

食事に関しても、来る前はフィリピンの日本食は大したことないと思っていました。リトルトーキョーも、「これがリトルトーキョー?入口に鳥居なんかあって怪しいところだな。」と思っていました。しかし、今ではとてもお世話になっています。赴任したての頃は野田庄でご飯を食べてから帰るという生活でした。

リトルトーキョーに限らず、ご飯はおいしいですね。他にもスペイン料理に行ったりしますが、食べるという部分でストレスは感じたことがありません。唯一困ったのは、4〜5月の暑さです。その時期にフィリピンに赴任したので、当時は駐在が1ヶ月も耐えられるか心配するほどでした。

 
編集部● 現地企業と提携するときに気を付けることはありますか?

 
河野さん● この国に限らず提携時に気を付けるところは気を付けますが、問題は民間企業側でなく、政策・方針の不明瞭な政府です。許認可が必要なものは特に大変です。外資の規制があったり申請に時間がかかったり、多くの問題が発生します。

 
編集部● フィリピンで販売ルートを確保するには?

 
河野さん● 100年の歴史があるので、名前は知ってもらっていると思います。また、特にドールを買収したことにより、一層知名度が向上したと思われます。そのため、面識が無い人からも連絡を頂けるようになりました。実際に会ってみて、何の話か分からないまま会議が終わるということも結構ありますが。名前をうまく使いながら、シナジー効果を上げることが必要だと思います。

 
編集部● フィリピンの魅力はなんですか?

 
河野さん● 間違いなく人口の多さです。日本の人口は減少傾向にありますが、フィリピンの人口は増え続けており、成長している躍動感を感じます。一人当たりのGDPも伸びており、それは消費に一番よく現れています。

「消費をさらに作る」という意味では、月に2回給料を支払うフィリピン文化はメリットに思います。もともと消費好きで余銭を残さないという考えがあるので、給料が支払われるとすぐに使ってしまいます。それを思うと、金融に関わる事業はフィリピンでは可能性があると思います。貸したお金が戻ってこないとなると大変だとは思いますが。

リース系では、去年12月にみずほ銀行と伊藤忠が提携した「東京センチュリーリース」が、BPIリーシング・コーポレーションの株式の49%を取得しました。これにより、東京センチュリーリースが持つ設備リース、オートリースを活用し、フィリピン国内における事業基盤を拡大していくものと考えています。

河野 一之さん

編集部● 心に残っている言葉は?

 
河野さん● 半紙や手帳に書いているのが、「君子の交わり淡きこと水のごとし」という中国の詩です。「物事をよくわきまえた人の交際は水のようだ」そして、「つまらぬ小人物の交際は、まるで甘酒のように甘く、ベタべタした関係であり、一時的には濃密のように見えても、長続きせず、破綻を招きやすいものだ」という解釈です。立派な人は淡々としています。我々の職場での付き合いや、日常での交友関係に参考となると思います。私もこう見えて、話は短い方です。あまりべちゃくちゃと話さず、また人の話を長く聞くのも嫌いです。電話も短く、必要な用件だけ話して簡潔に終わらせてしまいます。せっかちではあるのは確かですが、物事にあまり執着せずに生きるようにしています。


 
編集部● 今後のフィリピンでの展望についてお聞かせください。

 
河野さん● 当社はフィリピンでの長い歴史がありますが、それだけでは困ります。今後は業務拡大を行い、この地で隆々となる商売にしていきたい。スタッフの全体数も増やしていき、現在の倍増となる100人ぐらいにまで成長させたいと考えています。その時は、日本人スタッフも各部署に一人は配置できるようになっていたいと思います。

マニラ支店を、支店のままか現地法人にするかもメリットとデメリットを考えながら移行していきたいです。インドネシア、タイ、ベトナムなどでは、もともと支店だった拠点の現地法人化が進んでいます。今後マニラ支店が現法になるという選択肢も、一つの大きなステップになるのかもしれないと考えています。

また、フィリピン経済区庁(以下PEZA)の中に、「I-FTZ TRADE PHILIPPPINES INC.」という物流を行う現地法人を立ち上げています。これは、PEZA内で経済活動ができるのは、PEZA内に進出している企業のみとなっているためです。

そのため、フィリピン国内とPEZA内と、二つの会社を持っています。他の国とは違うスタイルとなっていますが、うまく機能分担しそれぞれの役割を果たしていると感じます。

 
編集部● プライベートの時間の使い方について教えてください。

 
河野さん● 単身でフィリピンに来ているので、週末は一人でゴルフに行くことが多いです。フィリピンに来るまでは、年に一度業界のコンペに参加する程度で、ほとんどしていませんでした。

最初は、フィリピンに来てもゴルフをやる気はありませんでした。しかし、今ではゴルフにはまってしまっています。毎週土日のどちらか、または土日両方プレイする時もあります。二時間ぐらいゴルフを楽しんだ後は、家に帰って疲れをとっています。家では、テレビを見ることが多いです。日が暮れてからは好きなお酒を嗜みます。近所に住んでいる単身者にテキストメール攻撃で呼び出して、一緒にお酒を酌み交わします。

 

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