発展途上にあるフィリピンだからこそ
スタートアップ活躍の豊富なチャンスが
TechShake(テックシェイク)
CEO 足立 幸太郎氏
2023年10月12,13日の両日、フィリピン最大級のスタートアップイベント「IGNITE(イグナイト)」がマカティのフェアモントホテルを会場に成功裏に開催された。今回で7回目となるこのイベントの共同主催者であり、フィリピンの多くのスタートアップを成功に導いているTeckShakeの足立氏に、フィリピンのスタートアップ事情についてお聞きした。
編集部
イグナイトを始めた目的を教えてください。
足立氏
イグナイトは、今後大きな成長が期待されるスタートアップを世界とつなぎ、イノベーション産業の新たな機会創出を目的に開始したイベントです。主催は、広告代理店の電通エックス(dentsuX)、インキュベーター&VCのブレインスパークス(Brainsparks)、そしてスタートアップコンサルティングを手がけるテックシェイク(TechShake)の3社です。 フィリピンのスタートアップは、エグジットとしての上場を目指していません。実質的に利益が出ることを目指し、まだまだ利益の出ないスタートアップは赤字を掘りながら継続するというモデルになっています。ですから資金が必要なスタートアップ企業にとって、このイベントは、投資家や協業先の発掘に絶好の機会であり、一方投資家や企業にとっては、有望な投資先やパートナーを発掘し、顧客探しのチャンスになっています。
目指すのは、クオリティーの高いビジネスパーソンが参加するイベントです。今年の参加者は約1000名でした。シンガポールで行われる同様のイベントでは2万名もの人が参加していますが、我々はそこを目指していません。事前審査を通過して登壇したのは30名のスタートアップ、その他は投資家や500の企業の皆さんです。かなり質の高いコミュニティーになっていると思います。
編集部
これまでどのようなスタートアップがイグナイトを通じて成果を出していますか。
足立氏
イグナイトは、毎年ピッチコンペティション(スタートアップ等の起業家や事業立案者を対象に、アクセラレーターや投資家などの審査員に自らの事業計画をプレゼンテーションするイベント)を行っており、資金調達の結果や事業進捗を公表していないスタートアップも多いのですが、有名なところですと、フィンテック・送金関連の「ネクストペイ(NextPay)」があります。「ネクストペイ」は中小企業向けのオンラインバンキングですが、イグナイトのアクセラレーションプログラムに参加した後、アメリカのトップアクセラレーター、Y Combinatorに参加し、海外ベンチャーキャピタルから総額2億円以上を調達しています。シードステージでの資金調達額、バリュエーションとしては、フィリピンでもトップクラスです。
また第一回イグナイトで優勝した「クイックワイヤー(Quickwire)」は、海外からの送金サービスを行うスタートアップですが、OFW(Overseas Filipino Workers)の多いこの国の需要にマッチしています。
そして昨年優勝の「パックワークス(Packworks)」は、 フィリピンのサリサリストア(小規模雑貨店)向け在庫管理プラットフォームを手がけ躍進しています。サリサリストアは一軒あたりの売上は小さいですが、顧客は255万件以上と大きな市場です。そこから得られた情報は、それまでデータを保有していなかったFMCGなどに還元し活用されています。
「メドハイブ(MedHyve)」は、病院などの消耗品のEーコマースを行うスタートアップですが、IGNITEのピッチコンペティションに参加した後、シリコンバレーのグローバルベンチャーキャピタル・ペガサステックベンチャーズから出資を受けました。ファウンダーの一人が病院経営の一族で、病院事情に詳しい利点を活かしセグメントを絞ったサービスを展開しています。
そして、今年のスタートアップワールドカップ、フィリピン予選優勝者の「ソルエックス(SolX)」はIоTを用いた電力消費状況をモニタリングするツールを用いた電力削減コンサルのスタートアップです。フィリピンは電気代が高く工場、企業での需要が見込まれています。
編集部
グローバルでみたスタートアップの今、フィリピンの傾向と今後をどう見ていますか。
足立氏
今アメリカの高金利が直撃し、世界的に見て、スタートアップ投資は冬の時代にあると言われています。そのため実質的にすぐに利益が出るようなベンチャーが人気がありますね。あとはAI関連です。冬の時代にあってもAI関連のスタートアップは前年とほぼ同水準で資金調達に成功しているのに対し、その他の分野では三分の一の水準にまで下がっています。
フィリピンはといえば、AI関係のスタートアップは、まだ、数えるほどしかありません。それは、教育の影響かと思いますが、フィリピンでは、ツールを使いこなせる人材はいても自前でAIを開発できる人材が育てられていないのです。ですので、AIに関するリスキリングは大きな需要があると思います。
フィリピンは各インダストリーのテクノロジー化が近隣諸国と比較して遅れています。この点、発展途上国だから進行が早いと思われがちですが、実は、変化のスピードも遅いと感じます。DX・企業のデジタル化もそうですね。そのスタートアップの数が少ないという側面もありますが、コントロールを握っているのは財閥系と政府で、そこががっちり組んでいるからだともいえます。財閥系の中にはデジタルトランスフォーメーションにアクティブな所もあり、ロビンソンズなどを経営するJG Summit Holdings、通信会社GLOBEなどを経営するAyala Corporationなどが一例です。
フィリピンでは、ビジネスに財閥系が関わっているケースが多いですが、ライドヘイリング(Grab)、E-コマース(Lazada, Shopee)、E-ウォレット(GCash:アリババ系)など、本来、ユニコーンかする可能性のあるこれらのサービスもすべて外資系が先行しているのは残念なところです。本来インドネシアと同様に地場企業がユニコーンを作ることができた事業領域だろうと思います。ある程度鎖国的な状況を作ればそれも可能でしょうが、フィリピンがユニコーン企業を創出できるかどうかは、今後の国のリーダーシップ次第なのかなと感じています。
フィリピンのスタートアップエコシステムも近隣諸国と比べて遅れている印象で、進歩のステージは、インドネシアの5年から10年くらい前だといわれています。しかし逆にだからこそ可能性は非常に大きい、面白いマーケットなのかなと思っています。
特に人材・BPO関連は大きな可能性を感じます。例えばオンライン教育。教師はフィリピン人、お客様は外国人で外貨を稼ぐようなモデルです。これはアメリカやシンガポール向けに実際に行われています。またコンシューマー関連市場はまだまだ大きく伸びると予測されます。現在一般的なのはラザダやショッピーですが、サービスに課題も多く、この分野は期待ができるでしょう。
編集部
スタートアップを成功させるポイントは?
足立氏
重要なのはマネタイズポイントを短期と長期でどこにおくかです。スタートアップがすぐに利益を得ることは難しく、ランウェイを確保するためにも、資金確保は重要です。しかし10年後20年後を見ると、中間層の伸びもあって大きなマーケットが期待できます。ですからビジネスモデルの組み合わせで短期と長期を組み合わせたマネタイズが大きなポイントになります。そして、グローバルに需要のあるプロダクトをタイミングよく開発し、リージョンで展開し、市場シェアを勝ち取る、そういった経営ビジョンとそれを具体化できる実行力を兼ね備えた経営者が必要です。こういった経営者が増えれば、必然的に多くの投資がフィリピンのスタートアップに集まり、より多くのスタートアップが成功に近づくかと思います。
フィリピンは社会的な課題が大量に残っている国ですが、それだけにビジネス機会にあふれています。先ほど触れたラザダのように一見成功しているかに見える業界もまだ改善の余地が大いにある。その意味で起業家精神がある方が、起業を最初にチャレンジするには最適な国なのかと思います。起業の場合にはぜひ声をかけてください。
編集部
足立さんのご経歴を教えてください。
足立氏
神戸生まれ、大学は関西学院大学の総合政策学部で勉強しました。総合政策学は、当時はまだ比較的新しい学問で、現代社会で起きる複雑化した問題を解決する為に、一つの学問/専門知識を極めるのではなく、多くの学問を多面的に勉強し、解決のアプローチを研究し、総合的な視野を持った人材を輩出するというのを売りにしている学部でした。また、国際化に大変力を入れており、当時、入学して驚いたのですが、総合政策学部は授業も休憩時間もほぼすべて英語!留学経験者と帰国子女が学生の約半数という事で、また、私が帰国子女クラスに振り分けられたこともあり、英語でのコミュニケーションが自然でした。先生方も外国人が多く、授業によっては、2回でも休めば単位がとれません。厳しい受験戦争を終えて大学生になったら自由に毎日飲み会に参加という生活とは縁遠く、私達の先輩の代では60名くらいが進級できずに、問題になったくらいです(笑)。
そんな生活に慣れて迎えた就職活動では苦戦しました。商社に入りたいと思っていたのですが、当時は超就職氷河期、某大手商社でも100名の募集に対して、1万の応募があるという非常に厳しい状況のなかで、1年間就職浪人する間、ベンチャー企業・オフィスバスターズ(株式会社オフィスバスターズ;本社東京都中央区)でインターンとして働きました。ここからスタートアップとの関わりが始まりました。
オフィスバスターズは、創設者となる元丸紅の商社マンが、南米やロシアにコピー機・複合機の新機種営業に出向いても、「最新機種は高いから買えない、中古品を持っておいで」と言われ、会社に進言するも採用されず、自分でやってしまえと会社をやめてオフィス商品の買取&販売事業を開始したのが始まりです。
私がインターンとして参加した時は創業からまだ3カ月、社員数も数えるほどで、創業者がまだ現場で働いている時代でした。まず、「寝袋は持っているか?」と聞かれ、初日から終電で帰れない(笑)。あとで聞いたら、入社した社員がみんなすぐに辞めてしまう、気力・体力があって、辞めない奴はいないか?と姉経由で私に話が来たそうです。とにかく忙しかったですね、でも自由度が高く、チャレンジが多い職場が、妙に心地よく感じたのは、父方の祖父が材木屋、母方の祖父が呉服屋をやっており、また、父親が自営業で婦人服店をやっていて、自分もいつか小さいビジネスでいいので、商売人になりたいと思っていたからかもしれません。 いまやオフィスバスターズは総売上130億円以上の会社に成長していますが、創業時は、特に勢いがあって面白い時期だったと感じます。それに間近で優秀な経営者の判断、働く姿勢、その熱量を見て感じることができ、人生・キャリアの観点から、非常に影響を受けました。
結局、そのまま新卒の正社員、第一号として就職することにしたタイミングで、「海外事業をやりたい」と進言したら、正式にはまだ海外事業部はないので、自分で作ってやってくれと(笑)、ただし六カ月たっても成果がでなければ、海外事業は中止だと。当時ちょうど、ロシアのハバロフスクに支店を設立した直後のタイミングで、まずは、そこを拠点にした中古品の販売と中国からの輸入品販売を行いました。輸出入関係のビジネスはここで勉強しました。ただロシアは治安が悪化し、諸々の外部要因から、少しビジネスをしにくい状況となりました。ビジネスとしては、成果は出ていたものの、継続が困難になって撤退せざるを得ない状態で、ロシアからはピボットして、次のマーケットとして、東南アジアを目指そうという方向性となりました。
2005年当時、大きなマーケットとなると予測されるインド、中国、そして東南アジアに進出するために、市場調査を行ったのですが、各国、輸入商品に関する規制が厳しく、競合環境も鑑みると簡単ではないという事実に直面しました。インド、中国、インドネシアはビッグマーケットではあるものの、大変、規制が厳しい。タイ、マレーシアは地元に有力な競合がいる、かたや、フィリピンは自国でオフィス機器やオフィス家具の生産が少なくブルーオーシャンの状況、成長途上ではあるが、既に一定の市場もある、最終的に、対象国に全て訪問して、主要プレイヤーと話した上で、フィリピンの可能性を強く感じ、ここだと決めました。
編集部
ここからフィリピンとのかかわりが始まったのですね。
足立氏
はい。2006年6月、「来週フィリピンに行ってね、でも何も決まっていないからね。成果は半年でだしてね。」(笑)とのミッションを受けて、是非とも、駐在したいと即答し、鞄二つ持って初めてフィリピンに来ました。 まずはパートナー探しからです。社長はもと商社マン、空港に到着すると「電話帳を買ってきて、まず資金がありそうなところに片っ端から電話営業せよ」と(笑)。商社の体育会営業ですね。それを1,2ヶ月続けて最終的にパートナーになったのは、当時IBMやCanonの代理店をやっていた「ライカグループ」です。従業員数3000人程度と、比較的、小規模の財閥ですが、40社程度の会社を経営し、主に、車の販売代理店など、モビリティに関するビジネスに強みを持つグループです。ファミリー企業ですが、長兄のTG Limcaoco氏は、アヤラ財閥のCFOとして有名です。
最初に事務所を構えたのはマンダルヨン、交通の便のよいEDSAに面したショーブルバード駅近くです。「ライカグループ」が保有する車の販売代理店の整備工場の空いているスペースをお借りして、コンテナ1本分の商品を輸入し、業務を開始しました。
事務所はできた、次は販売ですが、どうやって売るかというと、また電話帳です(笑)。二か月間、架電、メール営業を徹底的に行い、時には「毎日KOTAROという人からメールが来るが、彼はだれなんでしょう?」と興味を持った経営者の方が訪問してくれるようなケースも、いくつかありました。 フィリピンの面白い面の一つだと思うのですが、日本人が連絡をすると上層部につないでくれ、時にはとんでもないVIPにも会えてしまうことです。架電をしながら日本人の先輩たちが培ってくれた実績と信頼をヒシヒシと感じました。
そのころ、日系の家具メーカーとしては岡村製作所とコクヨが代理店を置いていたくらいで、競合も少ない状況でした。市場調査の時には「中国の新品と同じくらいの金額で日本の中古品を販売して売れるわけがないだろう」と言われていました。しかし、実際に物を持ってくると、商品の質が良く、価格も高くない設定にしたので、飛ぶように商品が売れたんですよ。当時、流通している商品が中国製がほとんどだったので、オフィスバスターズの日本製中古品の品質のよさは一般の人が見ても一目瞭然でした。オフィスチェアのルイビトンといわれる「アーロンチェア」は定価で買うと15~20万円するのですが、状態の悪くないアーロンチェアを数万円程度の金額で売るわけですからこれは売れましたね。中古家具は原価がそれほど高くなく、倉庫・店舗はパートナーが持っている。それで利益が出しやすいビジネスモデルをうまく作る事が出来ました。フィリピンに到着したのが2006年6月、そして店舗化をしたのが12月の3週目。ぎりぎり約束の半年で成果を出すことができ、7年を経る頃にはフィリピンのみで15店舗、従業員数120名を超えるまでに成長しました。
ちょうど30歳を過ぎたころです。フィリピンでの仕事も非常に楽しかったのですが、いずれは独立したいと考えていながら、まだ自信が持てない時期でもありました。フィリピンのビジネスパートナーからは、「Kotaroは、フィリピンで事業運営して、土日まで働いて、従業員というのは非常にもったいない、すぐに起業するべき」と、進言を受けました。会社からは同じ展開を今度はマレーシアでやらないかという打診をもらいましたが、どんな地域でも業務を軌道にのせるためには最低でも5年以上かかります。一度、キャリアを見つめ直す為にも、それならと思い切って海外MBA取得のために留学することにしました。
編集部
経営大学院はどのような視点で選ばれたのですか、またその後の進路は?
足立氏
海外MBA取得のためには、アメリカだと2年が必要ですが、ヨーロッパ、アジアは1年から1年半です。ちょうど金融危機の後でユーロ安の時期でもあり、期間と予算を考えてヨーロッパのMBAスクールを中心に探しました。MBAと一口にいっても各学校により特徴があります。London Business School(ロンドン)はファイナンスが強い、INSEAD(フランス)はコンサル系が強い、IMD(スイス)は大企業の経営層の教育に秀でているなどの特徴があります。そして私が入学したIE Business School(スペイン)は起業家養成に強みを持っていました。「Unusual School with Unusual People (非凡な人たちがいる、非凡な学校)」と英ファイナンシャルタイムズでも評価され、MBA世界トップランキング常連校です。ここで経営を体系的に学び、また、世界80ヵ国以上から集まった起業家の卵達と、切磋琢磨する事によって、貴重なネットワークと経営ビジョンをつくることができました。
卒業後、オフィスバスターズにはまだ籍はあったものの、キャリアチェンジをしたいとも考えていました。特にアメリカで盛り上がりを見せていた、イノベーションビジネスを牽引するベンチャーキャピタルに興味を持っていたため、就職先候補として、東南アジアに拠点のあるベンチャーキャピタルを中心に、リーチしました。そこでアメリカ、シリコンバレーベースのファンドでありながら、東南アジアファンドも持っていたPegasus Tech Venturesにインターンとして働く機会を得て、その後、オフィスバスターズの創業者、鳥取の開発会社・アクシスとともに、2016年、新会社アクシスフィリピンを立ち上げました。
この会社では、まず仕事を回すために、まずオフショア開発を手がけました。鳥取のアクシスは県内では最も大きな開発会社で、鳥取県内の大きなクライアントを持っていたのです。業務を進めるために、半年間、コーディングスクールで開発の大筋を学び、会社を運営していきました。でもいつか、ASEAN市場 x イノベーションxスタートアップ投資の領域のビジネスをやりたいそう思っていました。
編集部
イグナイトを始めたきっかけは?
足立氏
私が当時インターンをしていた時点で、アメリカのスタートアップのバリュエーションはかなり高くなってきていました。多くの投資家と会う中で、一部のエンジェル投資家から、スタートアップの金額を鑑みて、投資が少ししにくくなったので、ポートフォリオをもう少しバリュエーションの低い(が、成長が期待できる)と思われる東南アジアなどの途上国に移して行きたいという話を多く受けました。また、その情報収集や起業家へのリーチに、大変、時間が掛かり、難儀しているとの話を聞きました。当時、アメリカで有名なテックメディアである、テッククランチの主催するサマーパーティがシリコンバレーで開催されているのですが、シリコンバレーのエリアでは、投資家の数もスタートアップの数も非常に多い。その中で、成長するスタートアップを見出し、注目度を高めていく力を持っているのはテックメディアで、トップメディアにフィーチャーしてもらう為に、スタートアップ経営者、ベンチャーキャピタリストがイベント会場で記者に群がるという構造ができていました。投資家も、プレイヤーが増えると、お金を持っているだけでは重宝されない。投資家以上に力を持っているのはメディア、プラットフォーマーなどのエコシステムを作る側であって、起業家と資金がすでにコモデティ化しつつある(アメリカ特有ですが)のを目の当たりにしたことで、エコシステムビルディングなど1レイヤー上を目指した方が面白いのではないかと思い始めました。東南アジアで、まだつながっていない優秀なプレイヤーを集めて、つながっている状態にする、また、そのプレイヤーに自分達が集約したリソースを注入する、つまりコネクター&ビジネスプロデューサーとして存在感を出し、独自のエコシステムを作りたいと考えるようになりました。
その視点でみると、当時、東南アジアでもシンガポールにはそれに近しいプレイヤーが出てきていました。たとえばテックインアジア、e27などです、同じことをシンガポールでやれば後発になってしまうけれども、他の国・フィリピンだったらリーディングプレイヤーになれると思いました。また、当時、通信会社グローブのCVC,キックスタートベンチャーズが月一回、スタートアップ関係者むけのイベントであるレイド・ザ・フリッジというイベントをやっていました。そこには優秀なフィリピン人だけでなくハーバード卒のドイツ人やグーグルで働いていたアメリカ人など非常にレベルの高い人が海外からも集まっており、投資やスタートアップの火付け役になっているのにインスピレーションを得て、フィリピンでも同じようなビジネスができるのではないかと考えるようになりました。
ちょうどその折、アメリカのエンジェル投資家にフィリピンのスタートアップ企業のレポートをまとめてほしいという依頼を受け、それを渡すだけではなく、起業家やスタートアップの情報をブログにしようとWEBサイトを作ったのが、テックシェイク(メディア名)の始まりとなっています。最初は週末だけの趣味ベースでスタートしたものの、情報を見たフィリピンの投資家からも、実はこういうサイトがない、フィリピンスタートアップの情報が欲しいという依頼をたくさん受けるようになり、徐々にビジネスとしても本腰を入れるようになりました。テックシェイクのサイトは徐々に成長し、インタビュー数は多くないですが、エコシステム内の重要なプレイヤーの認知度を高め、よりつながったエコシステム形成を助ける有力なサイトに成長しました。今では、そのつながりを活かし、多くのイノベーションプログラム・アクセラレーションプログラムを運営しております。例えば、有名な所では、オランダのSHELL社向けのアクセラレーションプログラム、ドイツのMERCK社向けのイノベーションプログラム、日系ロート製薬社向けのイノベーションプログラムとなります。他にも多くの海外企業から、イノベーションの絡む領域での進出や資金調達支援、事業のグロース支援に関してのご相談を頂くようになっております。政府系機関からもお声掛けを頂くようになり、フィリピン政府、日本政府などのイノベーションプログラム運営の裏方などでも入らせていただいております。これまでのフィリピンでの経験、独自の人的ネットワークをこういったプログラムに反映させる事で、多くのテック企業がASEAN、及び、フィリピンでの参入に成功し、大変、良いフィードバックをいただいております。東南アジアのイノベーションビジネスは、側から見ますと、かっこいいグローバルビジネスに見えますが、実行段階で考えますと、大変、泥臭いローカルビジネスですので、実は、私の計17年程度のASEANビジネスの経験が、大いに活かされる分野だなと最近、感じております。
編集部
イグナイトの今後の展望は?
足立氏
今後は、リージョン化を進めていきたいと考えています。今年はシンガポール、インドネシア、タイ、日本でもロードショーをやりました。来年はできれば、ベトナム、マレーシアも加えたいですね。そして韓国、台湾も視野に入れていきたいと思います。
【プロフィール】
1980年神戸市生まれ、関西学院大学総合政策学部卒。インターンとして入ったベンチャー企業(当時)のオフィスバスターズ入社、2006年、フィリピンでの事業立ち上げを成功したのちスペインIEビジネススクールでMBAを取得、16年フィリピンにてスタートアップ企業、アクシスフィリピンを創立、17年からイグナイトを共同主催。
【座右の銘】
「知行合一」ーちこうごういつ。行動を伴わない知識は未完成で、本当に知っていることにならない。自分の行動の戒めにしています。