フランチャイズパートナーとの協働で、
フィリピン市場における販売網拡充を推進
株式会社ジンズホールディングス執行役員
フィリピン事業担当 小林 真吾 氏
日本を代表するアイウェアブランド、JINSは、2017年にフィリピン市場に進出。スタイリッシュで機能的なデザインと手頃な価格が注目される一方で、コロナ禍の影響で課題にも直面。しかし現在、人員を強化し、成長の巻き返しを図る。昨年11月にフィリピンに着任した小林氏に市場のトレンドとJINSの取組みなどを伺った。
編集部
フィリピンの生活はいかがでしょうか。
小林氏
気候には慣れましたが、生活面では物価の高さに驚きました。日本の方が安く感じるほどです。飲食店やスーパーの商品、ほとんどのものが高い印象です。フィリピンの平均所得を考えると、どうやって生活を成り立たせているのかと感じますね。
編集部
JINSのフィリピン進出の背景は?
小林氏
JINSは2017年末、フィリピン市場に参入ました。これは、フィリピンのファッション業界を牽引するベンチ(Bench)を擁するスーエン・コーポレーション(Suyen Corporation)との協業によるフランチャイズモデルを採用し開始しました。
中国、米国など他国では自社で展開を行っているJINSにとって、海外でのフランチャイズ展開はフィリピンが初ケースです。
きっかけは、スーエン・コーポレーションがJINSの製品に興味を持って、「フランチャイズとして一緒に事業を展開しませんか?」という提案をくださったことに始まりました。これを契機に、スーエン・コーポレーションの創業者ベン・チャン氏とJINSの創業者の田中仁との関係が構築され、フィリピンでのフランチャイズ展開が実現しました。プロジェクトはベンチグループやファミリーとの連携を深めながら進められています。
編集部
これまでの進捗はいかがでしょうか。
小林氏
私たちが目指すのは、単に「眼鏡を売る」ことではなく、「Magnify Life(マグニファイ・ライフ)」、つまり「人々の生活を豊かに拡大・拡張する」という大きなビジョンに基づいた事業展開で、眼鏡というプロダクトを通じて、いかに生活をより良くする価値を提供できるかの追求です。そして販売数量や売上を競うのでなく、「より良い商品を、より良い価格でお客様に届ける」ことを重視しています。 それを具体化するキーワードとして、PIH・「最高を突き詰め、最後までやり抜く(Progressive)」「プロとして妥協なく、チームで協力し合う(Inspiring)」「お客様に誠実に、正々堂々と歩む(Honest)」の3つがあります。
現在、JINSは日本で約500店舗、従業員数は約4000名に達していますが、日本だけでなく海外においても、ブランドとしての一貫性を保つためには、「マグニファイ・ライフ」を共有し、それを日々の業務で体現することが欠かせません。フィリピンも同様です。
編集部
マグニファイ・ライフとはどのようなものですか。
小西氏
コロナ禍の影響は、JINSのフィリピン事業にとって大きな試練となりました。一時的に駐在員を日本へ引き上げる措置を取らざるを得ず、現地での対応が手薄になったことで事業計画が停滞、店舗展開が止まり現地市場での存在感を高めることが難しい時期でした。しかし、現在は事業の巻き返しに注力しており、駐在員体制を増員。特に営業経験豊富で、15年間社内でキャリアを積み「マグニファイ・ライフ」を熟知した社員も加わり、体制が整いつつあります。
またフランチャイズモデル展開は、JINSにとっても新たな挑戦であり、パートナーとの役割分担やブランド表現の最適化が大きな課題です。フランチャイズパッケージの成熟も早急に進めているところです。
編集部
フィリピン市場の特徴と戦略は?
小林氏
フィリピン市場は若年層が多い人口構成であり、眼鏡の市場規模は日本の約4分の1ほどです。東南アジア諸国の中でも眼鏡の普及率は低く赴任する前にベトナムなどを訪れましたがフィリピンより眼鏡を掛けた方が多いと感じました。国によって眼鏡の存在価値や使用率が異なるのは、文化的な背景や国民性によるものもあるようです。しかしフィリピンでも近年、モールを訪れる人々が増え需要は確実に増えています。市場は拡大し、JINSの店舗にも多くのお客様に足を運んでいただいています。
またフィリピンに来て驚いたことの一つが店舗スタッフの雇用形態が日本と大きく異なる点です。日本では、多くのスタッフが正社員として長期的に働き職場に定着するのが一般的ですが、フィリピンでは派遣スタッフの割合が非常に高く、専門知識を必要とする眼鏡取り扱い業務では、継続的なスキルの習得や定着が難しいという課題があります。そのため今後は正社員を増やし、長期的に働ける環境を整えることが重要だと考えています。
また、現地スタッフと仕事をしていると、日本人とフィリピン人の文化的な違いを感じることがあります。例えば、店舗清掃の基準が異なり、「掃除した」と言いつつ、日本人の基準には満たない場合があります。「家では通用しないでしょう」と指摘した際、「家はもっとぐちゃぐちゃだから」と返された社員もいました。
一方で、たとえばスターバックスのスタッフは愛想が良く、丁寧な接客が目立ちます。顧客のリクエストに的確に応える姿勢を目にすると、フィリピンでも適切な教育を行うことで、サービスの質をさらに高められると感じます。現地文化を尊重し調和させることが、事業成功の鍵であり、そのためにも、日本人駐在者が教育やサポートに力を入れ、現地スタッフに「マグニファイ・ライフ」を深く理解して店舗運営にあたってもらいたいです。JINSの価値をフィリピン市場に浸透させ、ブランドとしての存在感をさらに高めていきたいと考えています。
日本国内の市場成長が頭打ちになる中、海外市場、特に東南アジア市場での成長が今後の鍵です。そのため、JINSは2023年を「グローバル元年」と位置付け、すでに進出を決めたベトナムを始め、東南アジア諸国への展開を積極的に進めています。フィリピン市場は、人口の多さや中間層の拡大など、魅力的な要素が多い重要な市場です。競合も多くすでに強いブランドが市場に存在していますが、JINSはまず、スーエン・コーポレーションの販売網を核に店舗数を拡大し、競合と差別化したブランド価値を浸透させることでフィリピン市場での成功を目指します。
【プロフィール】
東京都出身。大学卒業後、ゴルフ場運営会社に新卒入社。経営企画や事業開発を担当。30歳で米国・HultInternational Business Schoolに留学し、MBA取得。帰国後、総合人材サービス会社の経営企画を経て、JINSに入社。入社後は経営企画や人事部門を担当。2024年11月から現職。
【座右の銘】
「為せば成る」
【好きな本】
「シンプルな戦略―戦い方のレベルを上げる実践アプローチ」(山梨広一著、東洋経済新報社、2014年3月刊)
※フィリピンの眼鏡市場は、日系はもちろん他国のブランド、眼鏡販売店も含めて競争が激しいが、その中でJINSはどのように攻めて行くのか?また、どのような独自性のある商品を展開しようとしているのか? 気になる全文はUP次第SNSでご連絡します!お楽しみに!