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ビジネス烈伝 Epson Precision Philippines Incorporated(EPPI)エプソン・プレシジョン・フィリピンズ President 入江 有志 氏

創立30年、フィリピンで躍進——
地域と共に歩む持続可能な成長を!

 

Epson PrecisionPhilippines Incorporated(EPPI)
エプソン・プレシジョン・フィリピンズ
President 入江 有志 氏

 

 

 

現在、その従業員数2万、フィリピンの日系企業の中でも最大の規模を誇るEPPIは、フィリピンでの創業30周年を迎えた。雇用体制を確立しパンデミックの危機にいち早く対応してグローバルな生産体制を確立、スマート化と社会に「お客様を大切に」「社会とともに発展するなくてはならない会社でありたい」という企業理念をここフィリピンでも実践する同社は今後何を目指していくのか、入江有志氏にお話を伺った。

 

 

編集部

 

フィリピンでの沿革を教えてください。

 

入江氏

 

エプソンのフィリピン進出は1994年に始まりました。当時、日本を中心に海外ではイギリスやアメリカ、香港に工場がありましたが、円高による製造コスト上昇を受け、中国・深圳の工場拡張とともに、リスク分散のためフィリピンが新たな生産拠点に選ばれました。ラグーナ工場でミニプリンターの生産を開始し、98年にはリマ工業団地に「ファクトリー1」を建設して本格的な生産を開始しました。その後、「ファクトリー2」を設立し、プロジェクターやスマートグラスなどの製造を開始、ついで「ファクトリー3」の建設でCISS(ビックタンクインクジェットプリンター)の生産を強化しました。工場全体の総面積は約10万平米(東京ドーム2個分)で、追加建設が可能なスペースも有しています。

現在、EPPIはエプソングループ最大の生産拠点として約2万人の従業員を抱え、グループ全体(約7万5000人)の約25%を占め、製品の供給において重要な役割を果たしています。

 

 

編集部

 

どのような製品を製造していますか?

 

入江氏

 

主力製品はプリンターとプロジェクターです。プリンターは家庭や小規模オフィス向けのコンパクトなモデルを中心に、プロジェクターは短焦点や天井吊り下げ型、ホームシアター用など多様な製品を手がけています。また、教育機関向けのドキュメントカメラや、エプソンが早くから取り組んできたスマートグラスの製造も行っています。売上ベースではプリンターが6割、プロジェクターが4割を占めますが、生産台数ではプリンターが全体の8割を占めています。

 

 

編集部

 

グローバルでみたフィリピンの役割は?

 

入江氏

 

エプソンのプリンター工場は、中国、インドネシア、フィリピン、そしてタイ(協力会社)にあります。その中でフィリピンは、家電量販店向けのローエンドモデルを中心に、年間約700万台を製造するグループ最大規模の拠点です。中国工場ではラージフォーマットプリンター、インドネシア工場ではオフィス向けのビジネスプリンターを主に製造しています。

エプソンでは2019年初頭から生産拠点の分散化を進め、不測の事態にも安定供給可能な柔軟な体制を実現しています。

パンデミック時、フィリピンの厳格なロックダウン措置により工場が一時稼働停止を余儀なくされましたが、規制が比較的緩かったタイ工場への追加投資による生産移管で供給を維持しました。現在はフィリピンと同じ製品を生産できる体制を整え、どちらの工場でも同様の生産が可能になっています。

 

 

編集部

 

フィリピンでの課題等を教えてください。

 

入江氏

 

物流面では、EPPIはマニラ港とバタンガス港をほぼ同じ割合で利用しており、さらに距離の近いバタンガス港の利用拡大を検討中です。しかし、港の規模が小さいため、設備拡充をフィリピン政府に働きかける必要があると感じています。

またEPPIはグループ内でも部品内作製造を大規模に展開しています。これは中国やインドネシアでは現地サプライヤーの技術力が高く、部品供給が容易であるのに対し、フィリピンは自動車産業等が未発達で部品供給の選択肢が限られていることが背景にあります。そのため当初から内製化を進め大規模な部品工場を設け、 機械や金型のメンテナンスも強化するとともに、主要サプライヤーの皆様と連携して安定した品質を維持できる体制作りにもより力を入れています。

また、現在、フィリピン工場ではローエンド製品の大量生産を中心に据えながらも、高度な技術力が求められる製品への挑戦を進めています。従来、高難易度製品の生産は中国の生産拠点に集中していましたが、中国リスクや拠点戦略の見直しを進めるなか、フィリピンでの技術向上と高度製品の製造体制の確立が急務となってきています。

 

 

編集部

 

スマートファクトリー化の取り組みについて教えてください。

 

入江氏

 

当社では、高品質な製品を安定して提供し続けるため、オペレーションの精度を高めながらスマートファクトリー化を推進し段階的な改善を進めています。

スマートファクトリーというと生産ラインの完全自動化を思い浮かべるかもしれませんが、当社のアプローチは単なる自動化ではなく、業務プロセスの最適化に重点を置いています。

まず、工場全体を6つのテーマに分類し、さらに26のカテゴリーに細分化することで、各領域の最適化を図りました。これにより、品質向上やジャストインタイム生産の実現、製造効率の向上に加え、経理・人事(HR)などのバックオフィス業務の効率化も推進しています。

このプロジェクトは2019年にスタートし、2020年から2025年を計画期間としています。2024年上半期終了時点で進捗率は67%に達しており、残り1年半での完遂に向けて、社員一丸となって取り組んでいます。

当社の自動化技術は、エプソングループ全体において重要な役割を担っています。技術開発が進むことで、欧米を含むさまざまな地域での生産が可能になり、労働力に依存しない安定した生産体制を確立できます。これは、グローバル市場での競争力強化にもつながる大きなステップです。

 

 

編集部

 

構内物流の自動化はいかがですか。

 

入江氏

 

当社では、スマートファクトリー化の一環として構内物流の最適化にも取り組んでおり、すでに目標の約90%まで達成しました。

従来、コンテナで納入された部品は作業員が一つずつ手作業でスキャンし、受け入れチェックを行っていました。しかし現在は、「オートレシービング」システムを導入し、ゲートを通過するだけで自動スキャン&データ登録が完了する仕組みを構築。これにより、作業時間を大幅に短縮し、ヒューマンエラーの削減にもつながっています。

部品管理のプロセスも大きく進化しました。以前は、組み立てラインの作業員が「この部品が不足している」と手作業で指示を出し、倉庫担当者が該当部品を探して補充していました。現在は、在庫状況がリアルタイムで管理され、必要な部品が自動発注される仕組みになっています。

また、使用済みの空箱の管理も自動化。オペレーターがラインの下に空箱を置くと、自動で仕分け・整理され、サプライヤーごとに分類されます。さらに、サプライヤーが新しい部品を納入する際には、空箱を回収しないとゲートが開かない仕組みを導入し、物流の無駄を排除。よりスムーズな運用が可能になりました。

構内物流の自動化は目標の9割まで達成しており、残り10%を2025年までに完了させる計画です。ここまでの進捗は想定以上に順調で、今後もさらなる最適化を進めていきます。

当社の自動化技術は、エプソングループ全体のモデルケースとなる重要なプロジェクトです。フィリピン拠点として技術革新と現場の効率化を両立させながら、グローバルな視点で持続可能な生産体制を確立していきたいと考えています。

 

 

編集部

 

従業員の採用とマネジメントは?

 

入江氏

 

リマ工業団地への移転当初、採用は工場周辺に限られていましたが、2万人規模の人員確保には不十分で、より広範囲に拡大する必要がありました。現在は年間約8000人を新規採用し、月次離職率は4%前後ですが若い人材の流入で組織の活力が維持されています。さらに安定した労働力を確保するため、リパ市やバタンガス周辺まで採用エリアを広げています。

2月現在、日本人スタッフ41名(加えて9名のトレーニー)が赴任していますが、ナショナルスタッフのマネジメント層も育ってきており、組織マネジメントの強化に取り組んでいます。彼らは勤勉で明るく、ユーモアもあり熱心です。重要なのは、仕組みを整え、全員が同じ方向を向くことだと考えています。

 

 

編集部

 

フィリピンでの組織運営について教えてください。

 

入江氏

 

当社には約2万人の従業員が在籍し、多様なバックグラウンドを持つ社員が働いています。その中で特に注目したのが、フィリピンの「大家族文化」です。フィリピンでは、家族それぞれが役割を果たしながら助け合うことが根付いており、企業の組織運営にも活かせると考えました。

この価値観をもとに、当社では「ファミリーカルチャー」を導入しています。そして単なる職場の関係ではなく、互いに支え合い、尊重し合う家族のような環境をつくることで、チームワークを強化し、働きやすい職場を創造してく取り組みです。

まず、新しく入社したオペレーターは、仕事の進め方が分からず不安を抱えることが多いため、現場にはリーダーを配置し、新人をサポートする体制を整えました。リーダーは「兄」「姉」のような存在で、その上には「叔父」「叔母」にあたるスーパーバイザーや主任がいます。フィリピンでは叔父や叔母が家族内で重要な役割を果たすように、職場でも彼らが新人の相談役となり、必要に応じてさらに上の管理職へとつなぐ役割を担っています。私の役割ですか?…おそらく「おじいさん」でしょうね(笑)。社員と距離を縮め、気軽に話せる環境を作ることも、重要な役割だと考えています。

 

 

編集部

 

新人の研修にも「ファミリーカルチャー」を取り入れているのですか?。

 

入江氏

 

はい。当社では、新入社員は6カ月間の「プロビジョナリー期間(仮採用期間)」を経て正式社員となります。この期間、新人がスムーズに職場に馴染めるよう、毎月異なるテーマで研修を実施し、人事部(HR)が中心となってリーダーとともに成長をサポートしています。

また、新人は青い制服を着用し、一目で分かるようになっています。彼らには常にリーダーやスーパーバイザーが付き、困ったときにすぐ相談できる環境を整えています。この仕組みを「プロベシー(Probeshi)」と呼びます。これは「プロビジョナリー(Provisional)」と「ベシ(Beshi=親しい友人)」を組み合わせた社内用語で、新人と先輩が信頼関係を築きながら職場に溶け込んでいくことを目的としています。

この制度の導入後、新人の定着率が大幅に向上し、離職率の低下にもつながりました。

そして2024年から、新たに「バッチハイアリング」を導入しました。これは、日本の「同期入社」にあたる制度で、同じタイミングで採用された社員がグループとして一緒にスタートする仕組みです。同期同士で関係を深めながら成長できる環境を整え、仕事上の悩みを一人で抱え込まずに相談できるため、会社への帰属意識の向上にもつながっています。

ファミリーカルチャーを促進のためには社内イベントも大切な役割を果たします。

例えば、「スポーツフェスティバル」では、社員がチームを組んで競技に参加し、チームワークを育む機会を提供しています。また、手芸や絵画などの創作活動を評価し合う文化もあり、社員の個性や才能を発揮できる場を設けています。

「ファミリーデー」では、社員のご家族を会社に招待し、職場を見学してもらう機会を提供しています。家族が職場を理解することで、社員がより安心して働ける環境につながると考えています。

また、過去には遊園地「エンチャンテッド・キングダム」を貸し切り、大規模なアウトドアイベントを開催し、もちろん、クリスマスイベントも毎年盛大に行っています。今年は私もチェロ演奏と歌、そしてダンスを披露しました(笑)。

当社では、「ファミリーカルチャー」を推進するために「CCP活動(CorporateCulturePromotion)」を展開しており、今後さらに発展させていく予定です。特に、以下の3つのキーワードを重視しています。

1. 「ラブ&ケア」–社員同士の絆を深め、支え合う文化の促進
2. 「セーフティ」–安全で快適な職場環境の確保
3. 「成長(GROWTH)」–個々のスキル向上とキャリア開発

これらを軸に、社員が安心して長く働ける職場を築き、さらなる組織の成長を目指していきます。フィリピンの文化を理解し、それを企業運営に活かすことで、より強固な組織づくりを実現していきたいと考えています。

 

 

編集部

 

「ビジョン2025」総括と今後の展望は?

 

入江氏

 

EPPIの経営理念は、親会社であるセイコーエプソンのフィロソフィーに基づいており、「フィリピン社会にとって、そしてお客様にとってなくてはならない企業であり続ける」ことです。そのため、地域社会への貢献と従業員にとって働きやすい環境づくりが、企業の持続的成長につながると考えています。

EPPIは中期計画である「ビジョン2025」のもと、EPPI全体でデジタル化・自動化を推進し、より高度な生産体制の確立を目指してきました。現在は2026年以降の次期中期経営計画の策定フェーズに入っており、次世代を担うフィリピン人リーダーを中心に戦略を構築していく方針です。

次期計画では、スマートファクトリーの更なる深化に加え、サプライチェーン全体の最適化・高効率化を目指します。特に、サプライヤーの皆さんと協働で品質向上活動を強力に推進し、製造業全体の競争力強化を図ります。また、再生可能エネルギーの活用を加速し、サプライヤーも含めた持続可能なオペレーションを促進します。物流インフラの最適化も重要な課題とし、タイムリーで効率的な物流ネットワーク構築を進めます。さらに、フィリピン拠点をグローバルな生産ネットワークの中核へと強化し、ナショナルスタッフが経営に主体的に関わる環境を整え、次世代リーダーの育成を進めます。

フィリピンでの事業は、単なる生産拠点の運営ではなく、地域社会との共生が重要だと考えています。エプソンの技術を活かし、スマートファクトリー化や社会貢献活動を進めながら、フィリピンの発展に貢献していきます。今後も、持続可能な成長を目指し、地域とともに歩んでいくエプソンにご期待ください。

 

 

※現在のスマートファクトリーの状況は? 2万名ものスタッフをマネジメントする上で育んでいるファミリーカルチャーとは? また入江氏がパーティーで行ったパフォーマンスの件など、気になる続きはUP次第SNSでお伝えします。

 

 

【プロフィール】
長野県生まれ。大学卒業後1993年セイコーエプソン入社。バックグラウンドは生産管理・調達。27歳から6年間アメリカ駐在、帰国後は主に製造委託、オペレーションの立ち上げ・構築、セイコーエプソングループのサプライチェーンの基盤構築やオペレーションを支えるシステム導入を担当。2015年生産管理・調達部長、24年3月から現職。

 

【座右の銘】
高杉晋作の辞世の句とされる「おもしろきこともなき世をおもしろく」。困難な状況に直面したとき、それをどう受け止め、どう楽しむかは心の持ち方次第であり、前向きな姿勢で取り組めば、周囲にも良い影響を与え、より良い方向へ進めるー祖父の遺品の中でこの句の切り抜きを見つけ、以来私自身もこの切り抜きとともに大切にしている言葉です。

 

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