暮らしに根づく生活提案型ブランドの挑戦
ニトリが拓くフィリピンでの新たな市場
NITORI PHILIPPINES INC.
Philippines Retail Manager
佐藤 文彦 氏
“お、ねだん以上。”のキャッチコピーで日本全国にその名を広めたニトリが、今、東南アジアの急成長市場・フィリピンで着実にその存在感を高めている。マニラ首都圏に立て続けに出店しながらも、単なる海外進出ではない“生活提案型ブランド”としての地位を築こうとするその背景には、どのような戦略と想いがあるのか。現地法人の立ち上げを担う佐藤文彦氏に、進出の舞台裏と展望を聞いた。
編集部
フィリピンにおける出店経過とその拠点を選ばれた背景を教えてください。
佐藤氏
ASEAN地域は、今後著しい経済成長が見込まれており、ニトリにとって“ロマンとビジョン”の実現に向けた最重要エリアです。“暮らしの豊かさを世界の人々に提供する。”という企業理念を体現する上でも、店舗網の早期拡充は最重点課題のひとつです。
ASEAN地域のなかでも、フィリピンは特に注目国のひとつです。人口規模も経済成長率も高く、中間層の拡大も進んでおり、将来的な可能性を強く感じていました。そうした中、三越BGCからお声がけをいただき、マニラ首都圏への初出店が実現しました。一年前、2024年4月18日のことです。BGCは高所得層の多い地域であり、日本文化への親和性も高く、ブランド初披露の地として理想的だったと言えます。
2号店は、フィリピンの大手デベロッパー・アヤラ社(Ayala Corporation)の中でも最も集客力があるとされているグロリエッタへの出店です。マカティ中心部に位置し、都市全体からのアクセスも良好で、広域な顧客層への認知拡大に貢献しました。
3号店は、モール・オブ・アジア(MOA)へ。フィリピン最大級の集客を誇る施設であり、隣接する世界最大規模の競合・IKEAとの相乗効果も期待できる立地です。
4号店は郊外型で広さを確保できるアラバンのフェスティバルモール。高速道路へのアクセスも良く、他の店舗にない大型家具の展開に適した拠点として、ライフスタイル提案の幅をさらに広げることができました。
そして現在準備中の5号店は、中華系富裕層が多く居住するマニラのラッキーチャイナタウンモールです。本格的に家具を中心とした展開を予定しており、これまでの生活雑貨中心のラインナップから一歩踏み込んだ展開を予定しています。
編集部
各店舗とも予想をはるかに上回るに成功を納めている要因は何でしょうか。
佐藤氏
まず大前提として、22年に改正・施行された小売業自由化法により、外資規制が大幅に緩和されたことが大きな追い風となりました。これにより出店の構想が一気に具体化に向かいました。たただしフィリピンは他のASEAN諸国と比べても行政手続きが煩雑で、特に出店準備における許可取得は最大の課題の一つです。フィリピンでは地方自治体ごとの判断に左右されやすく、基準が突然変更されることが多々あります。実際、2号店となるグロリエッタ店では予定のプレオープンを断念せざるを得ませんでした。
こうした背景から、社内では“建築・営業・法務など各部門が連携して、変更への即応力を持つ体制を構築しました。特に現地行政との調整には時間と信頼の積み重ねが必要で、現場力が試される場面も多くありますね。
それでも短期間で4店舗を出店できたのは、1店目となった三越BGCでの成功が大きかったと感じます。オープン直後から多くのお客様にご来店いただき、その光景をご覧になったデベロッパーの方々から次々に出店オファーをいただいたことで、店舗展開が自然と加速し、大きな推進力となりました。
また、出店を成功に導いたもう一つの要因はフィリピン人、日本人スタッフの粘り強さと柔軟性です。不確実な状況でも常に前向きに、どうすれば実現できるかを考え、迅速に動いてくれるチームがいたからこそ、ニトリらしい店舗づくりを実現できました。
各店舗とも良い方向に期待を裏切る展開で、逆に陳列する商品を急遽集める必要が生じたのはうれしい悲鳴でした。
編集部
フィリピンの消費傾向の特徴は?
佐藤氏
フィリピン特有の高温多湿の気候から、接触冷感素材を使った『Nクール』シリーズが好調です。また、電動リクライニングソファも静音性などの機能性に加え、価格面でも優位性があり、市場での差別化につながっていると感じています。またASEAN地域全体に共通するのが、世帯人数が多いこと。ご家族で使用するため、大人数で座れる幅広ソファが好まれます。
エリアによるニーズの違いも顕著です。たとえばグロリエッタではコンパクトで機能的な家具が、郊外型のアラバンではゆったりとした大型家具が好まれる傾向にあります。また、保存容器やオイルポットといった日用品が強い支持を得ている点は、パーティの多いこの国の食文化を反映した象徴的な例です。
商品説明も、視覚的に機能が理解できる商品については、日本語のパッケージでも販売に支障がないことが分かっていますが、そうでない場合、現地スタッフと連携しながら、英語表記やアイコンなどを活用した“伝わる販促”にも取り組んでいます。特に、販売データとお客様のフィードバックをもとに、“なぜこの商品は売れるのか”“どうすればもっと価値を伝えられるか”を日々現場で検証しており、これはニトリの“現地に根ざした柔軟な改善力”の象徴だと思っています。ただ商品を並べるのでなく、生活文化に合わせた提案を行うことこそが、重要であると考えています。
編集部
今後の展開と展望は?
佐藤氏
出店については、オファーベースによりますが、多様な都市圏への展開も検討しています。フィリピンの都市構造は、出店戦略には高度なローカル分析が不可欠で、通り一本違うだけで商圏がまったく異なったり、曜日や時間帯で人の流れが激変したりすることが珍しくありません。現地ならではの特性”をしっかりと見極めアプローチを行っていく必要があります。また、今後はドミナント戦略の強化も重要なテーマです。これは、一つの都市圏に複数の店舗を集中的に展開し、ブランド認知の浸透と物流・人材活用の効率化を図る手法で、それぞれの採算性や効果を精緻に検証しながら、最適なバランスを模索しています。
最終的には、フィリピンに暮らす人々の生活に欠かせないブランドとなることです。そのために、単に店舗を増やすだけではなく、一つひとつの出店が地域にとって“暮らしを豊かにする起点”となるよう、より深く、より丁寧にスタッフとともに取り組んで参ります。
※フィリピンでも出店が加速する競合との差別化は?また成長を支えるスタッフ教育は? など気になる続きはUP次第、SNSにてお知らせいたします。
【プロフィール】
北海道出身。大学卒後、2006年に株式会社ニトリ(現に株式会社ニトリホールディングス)入社。広告宣伝部、店舗運営、マネジメント、グローバル事業に従事。全国各地での現場運営経験を経て、23年よりフィリピン現地法人の立ち上げと運営を担う。
【座右の銘】
明文化している言葉はありませんが、お客様が笑顔になること、それがすべて、という思いが、信念として常にあります。
【趣味】
スポーツ全般、特にボクシングなど。せっかくフィリピンにおりますので、ボクシングを通じて尊敬しているマニー・パッキャオ氏には、機会があれば、ぜひ一度お会いしてみたいですね(笑)。
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