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フィリピンで「あしたを、つなぐ」野村不動産の挑戦

Federal Land NRE Global Vice Chairman
平野 雄祐 氏
日本を代表する総合デベロッパー、野村不動産がフィリピン市場に本格参入して約8年──その挑戦は、単なる海外進出にとどまらず、「JAPAN CONCEPT」を軸にした新たな都市の価値創造へと昇華している。BGCでの先進的プロジェクト「TheSeasons Residences」、大規模複合開発「THE OBSERVATORY」など、野村不動産が見据えるフィリピンの人々の日常に根ざした真のクオリティとは何か──平野氏にお聞きした。
編集部
野村不動産の海外戦略とは?
平野氏
野村不動産は、住宅・オフィス・商業施設・物流施設など、多様な都市開発を手がけており、長年にわたり日本国内外で実績を積み重ねてきました。企業理念の「あしたを、つなぐ」には、社会や人々の暮らしをより良いものへとつなげていく、という想いが込められています。海外事業も、国内事業で培った知見やノウハウを活かし、各国が抱える暮らしや社会の課題に向き合うことで、人々の幸せや社会の豊かさに貢献することを目的に、積極的に進めています。
かつて弊社は、バブル崩壊後に海外事業から一時撤退した過去があります。しかし、その経験から多くの学びを得て、再び海外に目を向ける際には、日本と親和性があり、今後の成長が見込める地域に注目し、中でも弊社のノウハウが最も活かせると考えたのが東南アジアです。特にフィリピンは、若年層を中心とした人口増加を背景に、不動産市場の拡大が期待される国です。私たちは、このフィリピン市場を、今後のグローバル戦略における最重要国の一つと位置づけています。
編集部
フィリピンでの活動状況は?
平野氏
弊社がフィリピン市場に本格的に参画したのは、2017年に始動した「The Seasons Residences」プロジェクトです。BGCに位置する本プロジェクトは、三越伊勢丹と現地大手デベロッパー・フェデラルランドとの共同による、分譲タワー型コンドミニアム4棟約1300戸と商業施設の複合開発です。日本のデベロッパーと小売企業が連携する形での本格的な複合開発は、フィリピンでは初めての事例であり、日建設計をはじめとする日本の設計会社との協業により、外装デザインやインテリアに四季を感じさせる空間を取り入れるなど〝JAPAN CONCEPT〟を随所に反映しました。さらに、全タワーに制振ダンパーを導入するなど、地震や台風といった自然災害に備えた強靭な建物設計を施した点も大きな特徴です。弊社としても、企画設計段階からマイナーシェアながら積極的に関与いたしました。
途中、パンデミックで進捗に大きく影響を受けたものの、現在、同プロジェクトは販売が約9割以上に達し、順次購入者様への引き渡しを進めています。そしてその品質と設計思想が高く評価され、「International Property Award」においてフィリピン最優秀賞アジア・パシフィック地域のFIVE STARを受賞するなど、国際的な認知も得ることができました。
この成功を受け、より強固なパートナーシップと事業の継続性を確保するべく、22年にフェデラルランドと共同で「FNG(Federal Land NRE Global, Inc.)」を設立しました。FNGは、両社の知見を活かしたシナジー効果を追求するプラットフォームです。
この戦略的な意義は、フィリピンの大手財閥・GTキャピタルグループが持つ広範なビジネスインフラ、フェデラルランドの豊富なランドバンク、そして弊社が日本で蓄積してきた開発ノウハウという三者の強みを結集し、これまでにない“フィリピンにおける独自性を実現する点にあります。
また単なる資本参加にとどまらず、設計、施工管理、販売、引渡管理に至るまで、弊社も日本国内と同レベルで関与し、設計や施工管理では自社の技術者を現地に赴任させ、マニュアルの作成から現場の品質管理、そして販売も既存のネットワークに頼るだけでなく、広告展開から接客、引渡に至るまで改善を重ねています。時間や労力は要しますが、効率性だけの追求ではなく、将来的な市場での独自性と信頼性の構築を優先し、強固な事業基盤を築くことに重きを置いています。
編集部
現在の注力されている案件は?
平野氏
現在FNGでは、「THE OBSERVATORY(ジ・オブザーバトリー)」という大規模複合開発プロジェクトを進行中です。これは、BGC・マカティ・オルティガスというメトロマニラの三大ビジネス中心地のほぼ中間地点に位置し、パシッグ川沿いの約4.5㌶という広大な敷地に、8棟のコンドミニアム、1棟のオフィスビルと商業施設を組み合わせた計画です。総戸数は約4300戸、「The Seasons Residences」同様、商業施設に直結した利便性の高い構成です。南側にはBGCとマカティのスカイラインを望み、眺望の点でも大変魅力的な立地です。
このプロジェクトは、フィリピンの若い共働き富裕層をメインターゲットとしており、〝JAPAN CONCEPT〟を随所に取り入れ、日本の住まいにおける「玄関」の設計思想や、効率的な「収納計画」など、日常生活をより快適にするための工夫を凝らしています。共用施設には、コワーキングスペース、ヨガスタジオ、フィットネスジム、スイミングプール、エンターテインメントルーム、屋外キッズプレイエリア、ペットパークなどを整備し、これからの時代を担う若者たちが「最も楽しく、快適に過ごせる街」を目指しています。
現在、第一弾として「SORAタワー」の販売を進めており、23年末に販売開始してから既に約6割のユニットが契約済みです。価格帯は2千万円台からと幅広く、多様な層にアプローチできる商品性に加え、希少な立地とプロジェクトのスケール感、共用施設の充実度などが評価され、大変反響をいただいております。
特筆すべきは、販売済みユニットの約4割以上を日本人のお客様がご購入くださっている点です。本年8月には現地ショールームもオープンしました。皆様も、ぜひ一度お越しいただき、現場の魅力をご体感いただければと思います。
編集部
今後の展開について教えてください。
平野氏
フィリピンでも、今後スマートシティや環境配慮型の都市づくりは進んでいくでしょう。しかし私たちが今、最も注視しているのは、もっと「手前」にある現実的な課題です。つまり、次の10年の中で、日本のデベロッパーがこの市場で何を果たすべきか、という視点です。国内事業で培ってきた知見やノウハウを活かすことは大前提ですが、重要なのは、「本当にお客様が満足するのか?」という問いに向き合い、現地の生活者に寄り添った「モノづくり」を実践していくことだと考えています。たとえば、家族が安心して住める環境とは何か。建物の不具合を極力抑えるためにはどのような工夫が必要か。限られた空間をいかに効率的で快適に設計できるか。こうした一つひとつの改善の積み重ねで、お客様の本質的な満足度をあげることに注力したいと思います。
今後はカビテ、セブにおいても事業展開していく予定です。特に、カビテでは200㌶以上の広大なタウンシップ開発であり、コンドミニアムのみならず、戸建住宅、物流施設、オフィス・商業施設等、数十年に亘り、街そのものを開発していく計画です。ぜひご期待ください。
【プロフィール】
1996年、早稲田大学政治経済学部卒業、同年より野村不動産株式会社住宅販売部でのマンション営業として12年間にわたり現場の最前線を経験した後、経営企画部、広報IR部を経て、2015年よりシンガポール現地法人に赴任、以降は一貫して同社の海外事業に携わる。2022年から現職。
【趣味】
下手の横好きゴルフ(笑)とジョギング。土日はラウンドに出るかジョギングや筋トレをするなど、なるべく身体を動かように心がけている。
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