教育は子どもに遺せる唯一の財産
日本発、世界のKUMON
KUMON Philippines、Inc. 社長
辻 将則さん
1963年大阪府生まれ。90年公文教育研究会入社。国内事務局、国際事業部を経て97年からスペイン、英国に各5年間駐在。一度本社に帰任後10年から南米(ブラジル、アルゼンチン)。
13年10月から現職。
【好きな書籍】
「マネージメント」をはじめとするドラッカーの著書は、ビジネス書でありながら面白く、眠くならずに読み切れるので、何冊も読みました。
【好きな言葉】
相田みつを「がんばらなくてもいいから、具体的に動くことだね」。
一生懸命や頑張るという言葉は好きではないが、でもやるからには具体的にやりたいと、いつもこの言葉を胸に。
マニラのみならず地方の町でも目にする「KUMON」の看板。現在48の国と地域に広がるKUMONは、フィリピン法人設立18年目を迎える。日本と同様のフランチャイズ方式で、自学自習に重きを置いた公文式の教育サービスを全国展開している。現在同社のアジア・オセアニア地域でトップの成長率を誇るフィリピンの教育観などについて、辻将則社長にお話をうかがいました。
編集部
はじめに、KUMONの海外展開について教えてください。
辻さん
2014年3月現在、48の国と地域に広がり、約420万人の生徒がいます。先生の数は約2万2千人、教室は国によって複数の形態がありますが、合計3万4千教室以上あります。大きな戦略を練って世界進出を始めたわけではないのですが、当社の指導方法が、子どもの幸せを願う世界の親に受け入れられてきた結果だと思います。
編集部
フィリピンの状況は?
辻さん
Math(算数・数学)とReading(英語)の二科目があり、約6万3千人の生徒が全国255の教室で学んでいます。直営教室が一つと、トンドとパヤタスで恵まれないお子さんにほぼ無償で学習機会を提供していますが、それ以外はすべてフランチャイズで運営しています。オフィスはマカティの本社の他に、ケソン市とセブに支局があります。従業員は140名ほどで、日本人は責任者の私一人です。日本に比べて各教室の規模が大きく、最大はアラバンのモール内にある教室で、1000名ほど生徒がいます。昨年台風ヨランダで壊滅的な被害を受けたタクロバン市にある教室も700名生徒がいました。再開にこぎつけたところ、ありがたいことに500名もの生徒が戻ってきてくれました。
編集部
フランチャイズ(FC)を希望される方は多いのでしょうか。
辻さん
FC希望の先生をリクルートして、教室を開設していただくのが当社の事業の柱です。毎月説明会を開いていて、年間500名ほど応募がありますが、学力試験や3度の面接を経て先生になれるのは約20名。最終面接は私が行います。年間20から30の新規教室開設という目標はありますが、数字よりもまず厳選して良い先生になれる人材を確保することが重要です。
編集部
先生に求められる資質は?
辻さん
生徒の自学自習を引き出すのが公文式ですので、教師経験者である必要はありません。様々なバックグラウンドの方がいます。子どもが好きで、成長を一緒に喜ぶことができる人であるのはもちろんですが、ビジネスセンスもバランス良く持ち合わせていないといけません。自営業になりますので、アシスタントの雇用や教育、教室の運営方法は各先生の裁量に任されています。
編集部
全国に点在する教室の質を保つ工夫は、どのようにされていますか。
辻さん
エリアマネージャーと呼ばれる社員が定期的に教室を訪問して、課題を発見し、解決をはかります。また先生方の研鑽の機会を豊富に揃え、指導法だけでなく、規模が大きくなっていく際の教室運営の方法など、他の先生からベストプラクティスを学ぶこともできます。全国レベルの会議のほか、アジア・オセアニア地区の勉強会も毎年開催されています。
編集部
FCにかかる費用や準備期間はどうなっていますか。
辻さん
1ヶ月間は研修を集中的に受け、教材や指導方法について学びます。同時に教室の場所の選定や賃貸契約、内装工事、営業許可取得などを進め、大体3ヶ月で開設できます。初期投資費用は15万~30万ペソ。これには一教科1万7千ペソ弱のフランチャイズ代も含まれています。開設準備、生徒募集の宣伝から開設後の運営も、社員が親身にサポートします。教室開設後一年で、正資格の先生になります。
編集部
教材開発はどこで行われているのでしょうか。
辻さん
各国で教材開発をしていた時期もあったのですが、現在は会社の方針として、日本で作ったものを翻訳するユニバーサル化を進めています。英語の教材は、外国語としての英語、母国語としての英語に分かれています。更に母国語の英語も英国版と米国版があり、英語が公用語のフィリピンで使われている英語の教材は、北米で開発された米国版です。日本人向けの教室が一つマカティにあって、そこでは日本と同じ日本人向けの英語、国語、算数・数学が提供されています。
編集部
フィリピンと日本で親のKUMONに対する期待に違いはありますか。
辻さん
どの国でも、親が唯一遺してあげられる財産として、子の将来のためにより良い教育を、という気持ちは一緒ですが、フィリピンの方は教育熱が高いと感じています。会費は一教科1,800ペソ/月ですので、それを出せるご家庭は限られますが、他を切り詰めてでも通わせているケースも多いようです。早い年齢から始めて先取り学習をすることで学校の成績を良くし、余裕を持って課外活動もできる、という考え方もあります。また日本では、特に中学受験が盛んな地域では塾同士の棲み分けができていて、KUMONに通っている多くの生徒は幼児から小学校低学年ぐらいまでですが、こちらではもっと上の学年になっても続けています。毎年生徒の表彰式がありますが、実年齢よりも5学年先以上を勉強している生徒を対象としています。
編集部
例えば小学1年生が6年生の勉強をしているとなると、すごいですね。
辻さん
フィリピンに限らず、アジア圏では良く勉強するので、そう設定しないと表彰者の数を絞り込めません。休みの日もこつこつと毎日20分の学習を継続する。自分の学年より下のレベルから始め、学年相当を通り越して上のレベルへと進むことで、未知の分野の学習を通して自分で考える力と自信が身につく、という公文式の特徴は、私が過去赴任した欧州や南米では一般的には理解してもらいにくかったのですが、フィリピンにはそれを容易く受け入れる土壌があります。
編集部
今後の展望をお聞かせください。
辻さん
1982年の日本人子弟向けの教室開設に始まり、96年の法人設立以降、フィリピンでは順調に成長を続けています。フィリピン経済全体が好調なこともあり、生徒数の伸びは年10%前後と、現在当社のアジア・オセアニア地域内でトップの成長率です。何か新商品を常に開発して売り出すと言うタイプのビジネスとは異なるので、急成長を目指すよりも、質に気を配りながら着実な成長を続けて行きたい。そのためにも先生方だけでなく、社員のスキル向上等やりたい施策はたくさんあります。現在、地域的には、まだ拠点がなく、教材配送の難しさが残るミンダナオのマーケット分析を進めています。競争相手が少なく、教室開設のビジネスコストも低い地方には、まだまだ開拓の余地があると思っています。