工業団地で日本の「ものづくり」を支援
モットーは「ご契約いただいた時が、お付き合いの始まり」
First Philippine Industrial Park Inc.(FPIP社)副社長
福田 繁夫さん
1973年、東京都生まれ。
慶応大学総合政策学部卒。1997年住友商事入社。
本社、ドイツ、ベトナムの勤務を経て2012年より現職。
趣味は旅行、ゴルフ、ダイビング。「今はイクメンを目指しています(笑)」
【座右の銘】
「信無くば立たず」
論語より孔子の言葉から。物事の基本はやはり信頼だと思います。
住友商事とフィリピンの大手財閥ロペスグループが共同で開発・運営するバタンガス州の工業団地、「ファースト・フィリピン・インダストリアル・パーク(FPIP)」。多くの日系製造業を誘致し、入居後は充実したサービス、インフラで操業を支援している。団地内には全体で約4万人の従業員を擁し、雇用創出で地域にも貢献。住友商事からFPIP社に副社長として派遣されている福田繁夫さんにお話をお聞きしました。
編集部
まずはご経歴について教えて下さい。
福田さん
住友商事に入社したのが1997年。2000年から約2年間、ドイツのデュッセルドルフに駐在し、客船やビールにまつわる物流業を担当しました。その後いったん東京本社に戻り、2005年末から2010年までベトナムのハノイで工業団地事業に携わって、2012年6月から現職です。これまでのキャリアの半分は海外で過ごしました。海外勤務がしたくて商社に入ったので、願いがかなったとの思いです。
編集部
現在携わっている工業団地事業とはどのようなものでしょうか?
福田さん
生産拠点を海外に設ける製造業を対象にした工業団地の開発•販売•管理運営業務を行っています。土地の選定•購入にはじまり、工場の建設、電力、通信、給排水といったインフラを整備します。その上で入居企業を誘致し、継続的に企業の操業支援にあたります。
編集部
ファースト・フィリピン・インダストリアル・パーク(FPIP)の概要は?
福田さん
FPIPは、住友商事と地元大手財閥ロペスグループの中核企業であるファースト・フィリピン・ホールディングス社が出資して、1996年に設立しました。バタンガス州のサントトマス、タナワン両市に位置し、高速道を使ってマニラ中心部から約45分の好立地です。総開発面積は約450ha、東京ドーム100個分以上にあたり、団地内にはホテル、銀行、日本食レストラン、消防署などの施設があります。私を含めた日本人2名が常駐し、日系大手製造業を中心に、現在12の国籍に渡って約90の企業にご入居いただいています。
編集部
企業誘致はどの様な作業でしょうか。
福田さん
海外進出を計画している日系企業様にフィリピンの良い部分をアピールするのが最初の仕事です。当然ながら皆様フィリピン以外の国も検討しています。比較する中で、いかにフィリピンの優位性を理解してもらうかに苦心します。やはり未だに、危ない国、というイメージがある。ある日系企業の方には、防弾ガラス付き車両での案内を要望されました。世界100カ国以上を知る海外に精通した経営者の方がフィリピンだけは決して訪れなかった、という事例もあります。ですからこの国をまず訪問していただくことが第一関門です。
編集部
訪比が実現した際には?
福田さん
まずは街を知っていただきます。例え話をしましょう。商談中に交通事故に遭遇したとします。これがタイならばさして気にも留めないかも知れない。しかしフィリピンだと「ああ、やっぱりここは危険だな」となってしまうんです。事実を知って頂きながらも、先入観としてのマイナスイメージを払拭し、プラスの部分も感じて頂きたい。そのため日本からのお客様を最初に案内するのは印象の良いところ、例えばフォート・ボニファシオにお連れし、実際に歩いて頂きます。
編集部
まずはイメージというわけですね。その次の段階は?
福田さん
実際に工業団地へご案内し、我々が最高と自負する充実した施設、インフラを見て頂きます。モットーは「ご契約いただいた時が、お付き合いの始まり」。入居後もきめ細かいサービスを継続的に提供する事こそがFPIPの強み。視察を終えて最後に空港にお送りする時、「意外といい国だった」というお言葉をいただくことが多いんです。実はこの一言がとても重要で、こうした印象を残せてこそ、投資など次のステップへとつながるのです。
編集部
きめ細やかというサポート体制の一端を教えて下さい。
福田さん
基本的に我々はよろず相談役。採用方法、什器調達、組合問題等々、会社運営にまつわるすべてに対応します。月一回、入居日系企業様が集まる情報交換会を開催し、災害、治安、会計税務、法改正など様々な情報を共有します。例えば昨年はフィリピン日本商工会議所にご協力頂いて労務について講師を招いて勉強会を開催し、フィリピンにおける労働組合とは?労組が出来たらどう対応するか、など法律論も含めた議論の場を持ちました。これにはFPIP内だけでなく、周辺の日系企業様にも参加していただきました。
編集部
企業が他国と比較してフィリピンに感じる魅力はどのような点でしょうか?
福田さん
我々がお相手させて頂いているのは主に「ものづくり」をする方々。「もの」は結局、「ひと」がいなければ作れない。フィリピンのアドバンテージは「4つのひと」という表現に集約されると思います。①若年層が厚く優秀な人材を採用しやすい②労働者の定着率が高い③働き手の賃金上昇率が低い④ストライキなど人に起因する問題が極めて少ない、という点です。これはあくまでも相対的な評価です。他のアジア諸国ではいくつか欠けていく中で、フィリピンだけは全て保ち続けている。それが海外進出する日系企業から注目されている理由の核心ではないでしょうか。フィリピンのこの魅力は当分の間変わらず、他国より優位性のある外資優遇税制等とも相まって引き続き強い投資意欲を喚起すると思います。
編集部
FPIP社のスタッフを率いる際のマネージメントで留意していることは?
福田さん
フィリピン人の個々の能力に関しては他の国に比べて特別に抜きん出ているという事はないと思いますが、基本的にまじめな人間が多いと理解しています。いつも100点満点を求めずに、80点を目標にしていざというときに残りの20点分を発揮してもらう。そんなやり方を心がけています。そしてシンプルですが何よりいつも笑顔を絶やさない、ということが大事な気がします。
編集部
総合商社で働く魅力とはなんでしょうか?
福田さん
無のものを有にしていく面白さが商社の仕事にはあると思います。トレーディングで右から左へ流すだけではなく、自ら投資をしてリスクをとりながらも事業を積極的に進めていく。工業団地もはじめは何もない田園を購入し、現在のように育て上げるのです。最初は思うように入居企業が集まらなく苦労しました。でも様々なリスクを乗り越えて、現在は多くの日系企業様に入居して頂く事ができました。その企業様に成功して頂く事が我々の成功でもあり、ひいては日本経済を元気にする一助になっているという実感を感じる事が出来ると考えています。
編集部
とりわけ海外で働く事の醍醐味は?
福田さん
ドイツ駐在時代は物流ビジネスを通じて東欧、中欧、北欧含め欧州中の20カ国以上を出張で駆け回り、ヨーロッパの様々な文化に触れる事が出来たのは大変いい経験でした。異なる言語、歴史背景を持ち、それぞれの国は決して大きくはないけれども、やはり一つにまとまったEUという大きな国だった、という事を実感できました。そして今、きっとこれからアジアもASEANというくくりでEUのような大きな集合体になっていくに違いない、と感じています。