第4回 「フィリピンのタバコ事業を立て直せ!」
キーパーソン:JTインターナショナル(フィリピン)コンシューマー&トレード マーケティング マネージャー 後藤大さん
ほかの商材に比べて規制が多いものの、顧客のロイヤリティが高いタバコ。タバコ事業立て直しのカギをJTIの後藤さんに尋ねました。
●JTインターナショナル 後藤大さん
座右の銘/好きな言葉:
“The greatest of faults, I should say, is to be conscious of none”(Thomas Carlyle)
東京生まれ。高校卒業まで那須高原で過ごす。慶応義塾大学経済学部卒。1997年のアジア経済危機を研究するうちにタイの文化に魅力を感じ、大学時代にタイ語を習得。仕事を通じて、アジアの経済成長に自分自身の成長を重ねる事ができればと思い、2000年にJTに入社。国内営業などを経て、主にブランド・コミュニケーション戦略の企画・実行業務に従事。
世界3大タバコ会社の1つ、JTの子会社で、スイス、ジュネーブに本拠を置くJTインターナショナルからただ1人の日本人としてJTIフィリピンに赴任した後藤大(まさる)さん。ここ数年苦戦しているタバコブランドの立て直しのために、フィリピン全国を走り回っている後藤さんに話を伺いました。
編集部:フィリピンへの赴任は日本からではないそうですね
後藤さん:JTインターナショナルの本社のあるスイス・ジュネーブから、2010年1月に赴任してきました。
編集部:赴任が決まった際、フィリピンについての予備知識はありましたか
後藤さん:学生時代にタイ語を習得したように、東南アジアには以前から非常に強い関心がありました。ただ、フィリピンは関しては全く知らなかったというのが事実です。そのため、フィリピン人とはどういう人達なのか、どういうふうに物事を考えるかの内在論理を知るために、フィリピンの大学で使用されているこの国の歴史や文化に関する教科書を読みました。実際に赴任してみて仕事で感じるのは、フィリピン人は比較的コミュニケーション能力が高いですが、実行力に欠ける場合が多いということです。とはいえ、仕事と生活の両面でフィリピンという国に接してみて、想定外の不便さを感じたことはありません。ただ1つだけ、フィリピン人の社員や知人の前では絶対に言いませんが、この国の食事だけはどうしても口に合いませんね(笑)
編集部:フィリピン市場の特徴を教えてください
後藤さん:タバコは本来、お客様のロイヤリティが他の消費財と比較して高い商材なのですが、この国では国民性が移り気というか、他国に比べてブランドの転移が激しいのが特徴です。この事実を好意的に解釈すれば、我々にとって巻き返しのチャンスがあると言えます。弊社が扱う主力ブランド『ウィンストン』のシェアは近年、大きく落ち込んでいます。主因はビジネスモデルの変更によるところが大きいですが、ブランドイメージの劣化も1つの原因であり、これを立て直すのが私の主要な役割です。ちなみにウィンストンは世界110カ国・地域で売られている世界第2位の販売数量を誇るグローバルブランドですが、アメリカの影響が色濃いフィリピンでは長いこと市場で流通しているため、ローカルブランドとして扱われる傾向があります。こういった経緯からグローバルブランドとして再認知される必要があり、コールセンターで働くような20代、30代の喫煙者にとって魅力あるブランドとなるかがブランド復活の試金石になると考えています。
編集部:JTIフィリピンが保有する市場シェアは
後藤さん:かつては競合だった、米系フィリップモリスインターナショナルフィリピンと地場の実業家ルシオ・タン氏率いるフォーチュンタバコの大手2社が2010年2月に合併して、フィリップモリス・フォーチュンタバコ(PMFTC)となり、市場の約90%を独占しています。これに対し弊社のシェアは約5%で、ここからのシェア奪回を目指します。
編集部:ほかの商材に比べタバコの販売には規制が多いと聞きますが
後藤さん:タバコという商材のマーケティングは、国際基準(IMS)及び各国の規制を遵守するというコンプライアンス(法令順守)が絶対条件として求められます。現在、フィリピンではマス・メディアを通じたプロモーションは規制されているため、直接売り場にて、お客様、小売店とコミュニケーションしていくのが非常に重要です。それゆえ、全国に点在するサリサリストアを中心とした末端の販売店まで、地道に足を運ぶ必要があります。ここでは、かつて経験した大阪での営業が活きているのを実感しています。ちなみにフィリピンでは、「1本売り」が売上全体の約67%を占めるほど大きいです。
編集部:好きな言葉を教えてください
後藤さん: トマス・カーライルという19世紀大英帝国の歴史家・思想家の「失敗の最たるものは、失敗を自覚していないことである」という言葉が気に入っています。失敗を客観的に認めて解決策を探る。このことがリスクの最小化につながります。ただ失敗を素直に認める事は勇気を伴うので、せめて私が属するチームにおいては、そのような環境を作っていきたいです。特にフィリピン人社員にとって、欧米人の上司に自らの失敗を認めるのは難しい雰囲気があるので、日本人である私が緩衝材の役割を果たせれば、と思っています。