比でのJCBカード会員増と利便性の向上を目指して
JCB International Asia Pacific Pte.Ltd. Manila Branch
Country Manager
浅野 幹久 さん
1969年名古屋市出身。上智大学外国語学部英語学科卒。94年にJCBに入社。JCBトラベル、国際業務部などを経て03年よりジュネーブに駐在。06年に日本に帰国。システムのリニューアルやディスカバーカードとの業務交渉などに携わる。15年よりフィリピンに勤務。今年度中に大手銀行との提携を目指す。
〈座右の銘〉
これを質問されるのが1番辛いのですが(笑)、あえて座右の銘は持たないようにしています。自分がぶれなければそれでいいじゃないかと思っているし、しばりたくないので。一方、日ごろ心がけているのは、出会ったもの、体験したこと、目の前に現れたもの、起こったこと、出会った人や、その人のことばなど、多少偏りがあったり疑問をもつようなことがあっても、この世に存在するのだから何か意義があるのだろうと考えるようにし、なるべく偏見は捨て、一旦は飲み込み、何か糧にできないかと考えるようにしています。
比への異動は全くの想定外だったと話す浅野さん。そんなアウェイへ乗り込み悪戦苦闘を強いられるも、今年度は新たなビジネス提携を控え業績も右肩上がりだ。話の端々に垣間見られる自分への厳しさや謙虚さが結実したものだと想像がつく。日本発の国際ブランドが繰り広げるおもてなしがこの地に根付くため邁進し続けている。
編集部
大学在学中にアメリカに留学されたのですね。
浅野さん
なんとなくアメリカに行かなきゃという思いはありましたね。いつか海外に出て仕事がしたいと思っていましたので、出不精で面倒くさがりの自分を打開しないと思い、視野を広げるようなところに無理やり身を置くように自分で仕向けました。それでアメリカの大学に1年間近く通いました。
編集部
行ってみて何か変わりましたか?
浅野さん
自分のキャラクターがこれじゃダメなのだなと痛感した1年でしたね。同じ文化を持った人たちのコミュニティではないので、自分から話しかけなければならないし、自分が面白い話をできなければならないし、それができないと興味も持ってもらえない。なんとか度胸だけはついて帰ってきたかなとは思います。当時周りでは海外に行っている人も少なかったですし根拠のない自信だけはつきましたね(笑)。
編集部
JCBに入社したきっかけは?
浅野さん
面接官の一人が、たまたま同じ学科の先輩であることがその場でわかって、そこで「来月からアメリカに転勤だ」という話をしてくれたので、一気に夢が広がったのを覚えています。即決でしたよ。
私が入社したのは94年ですが、当時はまだ若い会社でした。このマニラ事務所の初代拠点長は96年に着任しているのですが、入社7年目の社員だったのです。その前にグアムにも駐在していて、それが入社4年目くらいの時。グアムの周りの日系駐在員の方は40代くらいの方が多かったので、思い切った人員配置をしてましたね(笑)。
編集部
最初に入った部署は?
浅野さん
オーソリセンター(オーソリとはオーソリゼーション(authorization)の略)という部署です。クレジットカードをお店で利用すると、端末でカードを処理したあとに、カードを発行する企業や銀行で取引が承認され、お取引(お買い物の精算)が成立しますが、この一連の流れをオーソリゼーションと言います。昔はその端末がなかったので、いちいちカード会社に電話をかけていたんです。その電話の先が、私のいたオーソリセンターです。一種のコールセンターのような部署で、そのセンター業務をコントロールするというか知識面などでスタッフをサポートするのがミッションでした。入社1年目でJCBの業務のことをよく知らないのに、これもまた思い切った采配です(笑)。そこは海外からも電話があったり、テレックスというとてもアナログな通信機器があって英語で海外の銀行から照会が飛んで来るわけです。ですので、英語ができないと務まらないので、そこそこ英語ができると新卒の社員は一旦そこに送り込まれていましたね。
編集部
その後異動されたのですね。
浅野さん
オーソリセンターには3年いました。その後、JCBトラベルという傘下の旅行代理店に行きました。今はJTB様と合弁企業を作りその傘下で運営させていただいています。日本のお客様を海外でいかにおもてなしするかというところにポイントを置いていましたので、日本の方がカードを持って国内だけではなく海外に行って使っていただくためのお手伝いをJCBトラベルとしてきちんとサポートしようということです。日本国内のお客様にはT&E(トラベル&エンターテイメント)をテーマに掲げており、生活手段として使うだけではなく旅行や食事、映画や演劇を観るなど、生活をより楽しくするためのカードとして使っていただくというコンセプトだったんです。旅行は切っても切れないテーマですしね。ここにも3年いました。
編集部
そうすると2000年からは?
浅野さん
海外事業を担当している国際本部の傘下にある国際業務部です。我々は自らを国際ブランドと呼んでおりますが、例えば他にビザ、マスターカード、アメリカン・エキスプレスなどのブランドがあります。こうしたブランドは各国・地域の銀行と契約し、現地でそのJCBやビザといったブランドをカード券面に載せてカードを発行したり、そうした国際ブランドカードが使えるお店と契約をしていただいています。
我々がブランドとして何をしなければならないかと言うと、色々なところで使えるよう、アクセプタンスを確保し、次にカード発行枚数を増やしていくことです。そして次に重要なのはカードを実際に利用してもらうよう、お得なサービスを拡充していくことです。さらにもう一つ大事なのは、こうした銀行や企業との間のルールや規定を定めることです。私はルールがルール作りを進めてそれを提携先に行ってJCBのルールを説明する仕事をしていました。
編集部
フィリピンでは高い買い物をすると必ずお店で電話をさせられますね。
浅野さん
フィリピンはまだそういったクラッシックな運用をたまに見かけますね。特にセキュリティーに対しては厳しいですね。日本人にしてみれば面倒しいかもしれませんが。カードを利用するとテキストがよくきますよね。「あなたの末尾何番のカードが使われました」と。正確にケアしてくれているなと、顧客目線で私は良いことだと思います。ただそれなりに結構なコストがかかっているとは思います。この国の業界文化なのでしょうね。
編集部
日本ではそこまで厳しくすることはないんでしょうか?
浅野さん
不正利用対策は今ではAIが出てきてずいぶん進んできていると思いますが、私が入社したころはほぼマニュアル作業に近かったです。ただ今はデータを蓄積して詳細に分析できるレベルに進化してきたので、日本国内に関してはかなり高いレベルでリスクコントロールできる状態になっていると思います。
編集部
2000年位からそういうシステム化が進んでいったのですか?
浅野さん
そうですね。業界としてはEMVといって、Europay(のちにマスターカードと合併するヨーロッパで活躍していたカードブランド)の頭文字のE、マスターカードのM、ビザのVを取ってEMVですが、この世界の巨大ブランドが作ったクレジットカードの共通ルール策定機関みたいなものをEMV Co.と言います。その設立が90年代だったのですが、そこに2000年代に入ってJCBも参画したんです。これは我々の中では画期的なことでしたね。唯一の日本ブランドでしたし、アメックスや銀聯も我々の後から入りましたので、その辺はちょっとした誇りではあります(笑)。EMVはカード利用をよりセキュアなものにしようと、業界としての技術革新とセキュリティレベルの向上が主眼にありました。その結果何ができたかというとカードに載っているICチップです。磁気ストライプに比べ、チップに入る情報量は非常に多く、それだけでセキュリティレベルが格段に違ってくるのです。それと情報が盗みづらいというのがセキュリティー面での特徴です。おかげでより本人認証レベルが高くなりましたし、安全かつ迅速に売上処理ができるようになりました。オーソリセンターにいるときはカードを使っていて待たされることが多いとお客様からご意見をいただくこともありましたが、磁気ストライプの時代と比べても処理時間も格段に進化しており、セキュリティー面のみならず、利便性という点でもかなり改善しています。
編集部
それによって犯罪率は変わってきていますか?
浅野さん
チップ化ができているところは激減しています。なのでこの国は今必死です。今ちょうど移行している最中です。また、今フィリピンではキャッシュレス化に向けたプロジェクトが中央銀行主導で進んでいて、2020年までに現在キャッシュレス率が20%まで上げると言っています。日本と同じか超える位まで上げようということです。なので小切手や現金の流通が減っていく思います。
編集部
キャッシュレス化というのはクレジットカードを使うことを推進しているのですか?
浅野さん
追い風にはなると思います。ただどちらかというと小切手や現金を使って取引しているところをネットバンキングを推進するとか、そういうことが主眼です。あとは、徐々に広がりつつあるQRコードを介した決済の運用ルールを整備し、業界に浸透しやすいよう促したりするのもこのプロジェクトのスコープです。
編集部
国際業務部では3年居られて、2003年からは?
浅野さん
ジュネーブに行きました。ここでは日本やアジアで少しずつ増えだしたJCB会員様がヨーロッパに来たときにちゃんと使えるように環境づくりをする仕事を地道にしていました。僕ももちろんですが現地のスイス人スタッフとともに、一軒一軒お店を回ってJCBの取扱い契約を結んでもらったり、店頭にJCBのシールを貼ってもらったりしていました。スイスには有名な山岳リゾート地があって、山や自然好きの方には憧れの場所なのですが、そんなところこそ我々の「仕事場」だったりするので、そこで1人スーツを着てシールを貼っていると(笑)、浮いている日本人がいるぞという感じでしたね。見かねた現地の観光案内所の日本人スタッフの方に「浅野さん、目立ち過ぎているからカジュアルなほうがいいですよ。」と言われたので、1年でスーツはやめました。
編集部
リゾートだけでなく都市部にもそうやって回ったのですか?
浅野さん
そうです。ジュネーブは国際機関が集まっている都市で、チューリヒは金融機関で有名ですよね。公用語が大きく3つあって僕がいたジュネーブはフランス語、チューリヒはドイツ語、南の方に行くとイタリア語です。
編集部
英語は全く出てきませんね。
浅野さん
そうなんです。でもジュネーブは半分外国人ですから問題ないですし、英語は他の都市に行っても大体通じます。
編集部
スイスの人たちはどういうイメージでしたか?
浅野さん
真面目です。ドイツ系の文化が強く、規律正しいイメージがあります。
編集部
ヨーロッパでJCBカードを開拓していくのはだいぶ苦労があったのではないですか?
浅野さん
相当苦戦しました。ビジネスとしての転換期でもあったので、日本から外国に送り込んでプロフィットを得るというビジネスだけではなかなか立ち行かなくなってきました。
編集部
スイスはプライベートでは楽しそうですね。
浅野さん
夏はとてもいいですよ。有名なレマン湖の周辺にはローザンヌやヴヴェイといった高級別荘地がありとてものどかなエリアです。ジュネーブの弊社オフィスから約300メートル位のところがもうレマン湖畔でした。当時は駐在も1人だったので1人でその湖のほとりでバゲットを買ってよくランチをしていました。寂しいですがある意味優雅ですよね。レマン湖周辺は、湖を囲むように丘陵地帯が広がっているのですが、山岳地帯なので平地がほとんどないのです。そういう丘の斜面には葡萄畑があってワインがすごく有名なんですよ。僕は全く飲めませんが(笑)。その代わり冬は本当に寒いのであまり外に出られません。ジュネーブ自体は平地といっても標高400メートル近くあります。車で30分ほどで標高1,000メートルの裏山にたどり着くことができて、ソリ遊びができました。
編集部
物価が高いイメージですが。
浅野さん
マクドナルドの300円のセットがおそらく1,000円近くしたと思います。そのくらいの感覚です。
編集部
ジュネーブは何年いらしたのですか?
浅野さん
3年半です。2006年の半ばに日本に帰ってきてからは海外事業に関連する基幹システムやネットワークの運用や提携先様との折衝に関わる仕事をしていました。
編集部
これはITも絡んでくるのですか?
浅野さん
私はもともとITに関する知識がほぼゼロなのですが、スイスに行く前の3年間と帰ってきてからのところでやりながら覚えたという感じです。技術的な知識はないので、仮説を立てて運用してみて、こういうことかとわかる感じです。ただ、スイスでの駐在経験を活かせるような仕事ではなかったので、なかなか大変ではありました。
編集部
その後は?
浅野さん
スイスに行く前に携わった国際基幹システムをリニューアルする時期に差し掛かっていたんです。その設計場面での相手側との折衝や導入をしました。他に、アメリカのローカルカードブランドとの提携プロジェクトにも参画していました。ディスカバーカードといって、当時はアメリカでしか使われていなかったカードブランドなのですが、そのブランドが海外に進出するということで日本ではJCBと契約をしたわけです。逆にアメリカではJCBのカードを広く使えるようにするという相互開放プロジェクトです。カード業界ではこういう提携事例は珍しく、お互いが「カードブランド」ですので、向こうも独自のルールがあるわけです。さらに、こちらは国際ブランド、先方はまだ国際ブランドではなかったので、ルールの差は大きく、いろいろと駆け引きしながら、どちらがどちらに合わせるかといった厳しい交渉をしなければなりませんでした。
編集部
そしていよいよ2015年4月からフィリピンですね。
浅野さん
そもそも海外駐在は希望していなかったので、辞令を受けたときは本当にびっくりしました。ここはアジアのバリバリの営業拠点ですから絶対に自分にはないというか、完全に想定外でしたね。頭が真っ白とはまさにこのことだなと思いました(笑)。まず、家族をどう説得しようかと考えましたね。
編集部
JCBの中におけるフィリピンの位置づけは?
浅野さん
2014年に、フィリピンは重点発行国・地域の一つとして位置づけられました。つまりアクセプタンスだけではなく、カード会員さんを増やしてそこでビジネスを成り立たせるというモデルをアジアで作っていこうということです。ここで畑を耕して芽を出させてその成果を他の地域で出すための根幹を作ろうということです。
編集部
相当な覚悟が要りますね。
浅野さん
海外拠点ではそれなりに脚光を浴びるところもあって、良くも悪くも営業成績1つをとっても非常に目立ちますよね。結果をそのまま素直に取られますし、舵取りのところもしっかり見られます。そういう意味でのプレッシャーはあります。試行錯誤しながらなんとかやってきていますが。
編集部
この3年間を通してその試行錯誤の結果はどう出ていますか?
浅野さん
私自身どこまでできたかと問われれば正直自信がないのですが、何をやってきたかというと、拠点の営業体制というか組織自体が脆弱だったので、その足固めをやってきました。また、銀行さんへの提案という点では、他のスタッフに依存しながらですが、提案資料をまとめて戦略を立てながらアプローチしてきました。うまくいけば近々新たにカードを発行していただける銀行が増えるかもしれません。
編集部
JCBフィリピンのサービス概要を教えてください。
浅野さん
アクセプタンスの面では実店舗では90%位はJCBが使える環境が整っていて、この国では十分現地でカード会員さんを増やして行くに足る畑ができているといえます。ですので、今後は会員数をきちんと増やしていくということです。現在、弊社は本格的にフィリピンに進出して20年を超えましたが、現在、BDO様とRCBC様にJCBカードを発行していただいています。今後、JCBを発行していただける銀行さんをさらに増やしていって事業拡大を加速させたいと思います。
編集部
業績の伸びという点ではどうですか?
浅野さん
売り上げ、カードの枚数ともに順調に右肩上がりです。特にフィリピンの会員様が海外に出て使う取引等は前年比で6割増ですね。JCBが海外でどこまで使えるか、どんなキャンペーンをやっているかという情報をお客様にきっちり伝える体制ができたのが大きな要因だと思っています。
編集部
会員はこの3年余りでどのぐらいのペースで増えていますか?
浅野さん
3割程度増えています。
編集部
去年BDOさんと、今年はRCBCさんとプラチナカードを発行されていますが反応はいかがですか?
浅野さん
BDOさんの時は大々的にローカルメディアの方で出させていただきました。もともとなかった券種なのでゴールドから切り替えられた方も結構いらっしゃいました。この3月にはRCBCさんにもプラチナカードを発行していただき、日系のメディアでも大きく取り扱っていただきました。ローカルの方にも日本でのご優待やサービス大きく買っていただいて、会員様の数は増えています。
編集部
海外における拠点の中でのフィリピンの位置づけは?
浅野さん
重点発行国と位置付けられていますが、タイやインドネシアなどの近隣諸国から比べると規模はまだ小さく、事業展開が難しいと見られる部分もあります。タイは親日ブームをうまく活用してジャパンブランドとタイアップさせた結果、特にこの3年間はものすごく飛躍しています。フィリピンでもブームの兆しが出てきており、事業も着実に成長しています。ただし、フィリピンでの事業がタイほど伸びていないのは、3つ4つ目の銀行さんとまだ組めていないというところです。そこをしっかりやっていきたいですね。
編集部
フィリピンで事業を行う上での魅力は?
浅野さん
最初の2年間は何も動かないのではないかと絶望的だったのですが、今年になって目に見える形でものが進んできました。時間は相当かかるけれども、かけた分だけ成長していくのだなと実感できたのでそこは面白いと感じますね。伸びしろがたくさんあるのは魅力的ですね。あとはマーケットが広がる予兆が出てきているのです。この国は900万枚位しかクレジットカードが発行されていないのですが、それは保有者が900万人いるのではなく、ほんの100万〜300万人が、複数枚持っているとうのが実情なのです。その理由のひとつは信用情報機関が十分に機能していないこと。例えば、初めてクレジットカードを持つ人に対して、銀行の与信管理部門は信用情報照会をした際に、あまりに情報量が乏しくて照会する情報が無いのです。家や車のローンだとか消費者ローンだとか、ポジティブ情報もネガティブ情報も入っているべきなのにクレジットカードの情報しか入っていないので、極端にいえば照会すべき情報がないので入会が断られるとういうこともあるわけです。しかし、近い将来に信用情報機関が刷新されますので、我々も銀行さんも大きな期待を寄せています。これはマーケットが成長するかなり大きなきっかけになると思っています。
編集部
フィリピン人の訪日客が30%位増えているそうですが、その点に関して期待されている部分はありますか?
浅野さん
ものすごく大きいです。日本は日本でインバウンドを担当している部署がありますので、そこが海外から来たお客様にどうやったら喜んでもらえるか、優待店からサービス、おもてなしのラウンジまで、いかに拡充させるかということを日々考えています。
編集部
フィリピンで事業を行う上で苦労している点は?
浅野さん
既に組んでいる人たちとの関係は良いのですが、組めていない人たちとの関係を築くときには苦労します。人脈はある程度できているのですが、この国の上層部の人たち、例えば銀行の方などはMBAを取ったりアメリカできちんと経営を学ばれているので、アジアにおいては義理人情で物事を進められると錯覚しがちですが、何がバリューなのかをしっかり打ち出せないとなかなか物事はうまく進んでいかないです。我々の力のなさが交渉結果に出ることもありますし、ガツンとやられた思い出がいくつかありますね。
編集部
他社と比べて御社の強みは?
浅野さん
アジア各国での優待店の数と質は他のブランドと全く引けを取らないと思っています。とにかくフィリピンでは数で負けない優待施策を作ろうというのがこの1年間の目標でした。必ず1つ負けないものを作らなければという思いがあったのです。そこがまず1つ。あとは差別化ということに関して、カードの特徴ですが「日本発のおもてなし」というのを売りにしています。さらに、他のアジア圏でのお得感をいかにアピールできるか、というところです。
編集部
3年前と比較してカードが使われる環境や傾向で変わってきた事はありますか?
浅野さん
今年は我々がびっくりする位の伸びを示していまして、その状況の分析を今しているところですがやはり日本での利用が多いです。月並みですけれどもビザの緩和や所得層も上がっていることがその理由だと思います。1人の方が趣味で何回も行っているのは事実なのですが、文化的・経済的に交流の度合いが濃くなっている点に後押しされていると思います。 あと、フィリピン国内では、徐々にではありますが、非接触取引が始まっています。JCBブランドの非接触スキームもあって、この国ですでに展開を開始しています。カードの中身にアンテナといってカード端末にタッチするだけで買い物ができる機能が組み込まれているんです。日本にはクイックペイやスイカのような日本国内専用の非接触スキームが広く展開されていますが、VISAやJCBのような国際ブランドが展開する非接触取引の展開という点ではフィリピンは日本よりも進んでいるのです。海外では他にも非接触スキームが広く展開している国もあります。例えば台湾ではJCBの非接触カードがタクシーやスタバやセブンイレブンでも使えますよ。
編集部
フィリピン国内で今後どのような展開をされていく予定ですか?
浅野さん
認知度を上げていくためには、きちんとしたブランド力が必要だと思っています。まずはマーケットへの露出をしっかりしていくため、通年でやっている優待の他に、広告宣伝とか全国展開している大型チェーン店と提携するプロモーションをやっていこうと考えていることです。これを足掛かりに、近い将来大手の銀行様にJCBカードを発行していただくことになれば、露出はもとよりブランド力は自然と高まっていきますし、日ごろの営業活動全般もより拍車がかかってきてやりやすくなってくるとは思います。また、JCBカードが使えるお店に関しても限りなく100%に近づけるようにしたいです。
編集部
心に残っている本は?
浅野さん
羽生善治さんの『適応力』です。子供の頃に将棋にハマっていましたし、最近もちょっとしたブームですよね。羽生さんは僕と歳が同じ位。従来型の定石に縛られた将棋から逸脱した革新的なことをやってきた人で、レベルが違いますが気になる存在でした。この人の頭の中はどうなっているのかなと。 将棋は感情ではなく合理性そのものの世界なので、とことん考え抜いた、頭が良い人が必ず勝つというものだと思っています。将棋の手数はAIでも立ち行かなくなるくらい手数があるので、中盤で行き詰まることすらあるのですが、この本を読んでいて面白いなと思ったのは、そういう時に羽生さんならどうするかというと、直感に頼るのだそうです。七冠をとった人が直感ですか?と思いますよね。ある程度限界にぶち当たった時、検証に検証を重ねて培った動物的な感覚、「野性の勘」という言葉を使っていましたが、それを使わないと判断できないことがある。しかも、合理的に考えた判断よりはそうした直感というのは、人間の心理でいうとネガティブな発想が伴わないので躊躇なくその決断をおとに思考を進めやすいのだそうです。直感だから良い事しか考えないから突き進む、とうことです。結果的にダメな方向に進むのかもしれませんが、ある程度の過去の経験とか裏打ちされた「野性の勘」が非常に大事だとおっしゃっていて、大変興味深く感じました。
編集部
週末は将棋を指したりするのですか?
浅野さん
1人で暇な時に将棋連盟公認のネットでゲームをするくらいです。アクセスしている人が常時いるので、ログインして知らない人とネットで対戦するのです。自分の持ち時間が10分ですから20分で終わりますよ。それで勝ち抜いていくと段をもらえるのです。ある程度の戦績を積むと「今のあなたのレベルは二段です」と日本将棋連盟から認定されますよ。
編集部
今二段なのですか?
浅野さん
長くやっていればこのぐらいは行きますよ。ただ、僕ぐらいの歳になってくると考える能力と根気が格段に落ちてきてしまって、あと10手先を読めばもう少しいい手が打てるのに、使わなくていいタイミングで直感を使っちゃうんです(笑)。なので開始3分くらいで投了してしまったりします。
編集部
浅野さんご自身の今後の夢や展望は?
浅野さん
なにくそと思うところとかいつか見返してやるぞという気持ちがあって、ここに来て3年間、希望に満ちた時間もありましたけれども悔しい気持ちの方が多かったような気がします。僕らとしては限界までやっているのですが、他拠点と比較すると期待通りの成長がまだできていなかったりなど、悔しい思いをしていますし、また社外での営業交渉でもまだまだ認めてもらえないところがあったり、そういう悔しい思いが僕の糧になっているなと思います。いつか形になるようにしっかり成果を出したいですね。JCBはアメリカから出たビックブランドではなく、日本から出た唯一の国際ブランド。まだまだ努力の必要があるのですが、この国でもなんとか頑張れているというのはしっかりアピールして世間に認められるようになりたいと考えています。またフィリピンでビジネスをさせていただいている以上は、現地の方々にも形が見える結果として、数多くの銀行様からJCBカードが発行されること、これは必ず実現して任期を終えたいですね。良い形で次の駐在員にバトンを渡せればいいなと思います。