大切な人を守りたい。
デング熱対策の蚊よけ塗料を近日販売。
KANSAI PAINT PHILIPPINES,INC.
PRESIDENT & GENERAL MANAGER 山本拓史さん
1973年9月18日生まれ、川崎生まれ横浜育ち。関西ペイントに入社以来、営業職。群馬県太田市に5年、三重県鈴鹿市に4年、岡山県倉敷市に5年、また群馬県太田市に戻って2年、福岡県北九州市に3年。そして20年目の節目がマニラ。これまでは自動車の工場がある場所で、工業用塗料を担当。
〈心に残っている本〉
三浦綾子さんの「塩狩峠」です。主人公の青年がいかにキリスト教らしい自己犠牲の精神を持って生きたか、が賛美されていますが、残された許嫁にとっては、それを受け入れつつも彼の死はやはり悲しい。世の中きれいごとばかりではない、と強く感じさせられました。
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マレーシアで大ヒットの「蚊よけ塗料」を、もうじきフィリピン国内で販売する関西ペイント。こちらの商品を販売し、デング熱患者を減らすことでフィリピンの人々の役に立ちたい。そんな想いを持つ、KANSAI PAINT PHILIPPINES,INC.の山本さんにお話しを伺いました。
編集部
関西ペイントに入社されたきっかけは?
山本さん
就職活動の際、「自らが作ったものを誇りを持って売れる製造業が良い」と考えていました。関西ペイントのセミナーに行った時に、塗料はありとあらゆるものに使われているから景気の浮き沈みの影響を受けづらいと聞き、潰れないなら良いなと思いました(笑)。他の塗料関係の会社も志望しましたが、面接の日を間違えてしまい、面接を受けられませんでした。関西ペイントに入社したのも何かの縁かもしれませんね。
編集部
現在、世界中にいくつの拠点がありますでしょうか?
山本さん
52カ国に販売実績があります。日本以外には103の拠点があり、日本を入れると120の拠点があります。そのうちの一つがフィリピンということになります。
編集部
世界各国に拠点を持つ中で、フィリピンはどのような位置付けでしょうか?
山本さん
フィリピンは今のところ弊社にとって、最重要拠点というわけではありません。ここにはまだ製造工場もありません。現時点では売り上げが小さいですが、フィリピンはポテンシャルを持っている国。この先が非常に楽しみです。
編集部
「蚊よけ塗料」は南アフリカでのプロトタイプをマレーシアで改良し大ヒット。「蚊よけ塗料」の効果について教えて頂けますでしょうか?
山本さん
一言で言うと、「蚊がその空間にいたくなくなる」塗料です。蚊というのは、全行動のうち70%はどこかに止まっています。壁や天井に止まって休んでいるわけです。そういう場所に蚊よけ塗料を塗ると、止まりたくなくなる。70%はどこかに止まっていないといけない生き物ですから、止まる場所がないとなれば、そこから出て行くしかない。この塗料は蚊を殺すというものではなく、避けるためのものになります。
蚊はなぜ血を吸うのかというと、メスが卵を産むために血を吸うんです。この塗料には蚊が血を吸う気を起こさせなくする成分が入っています。蚊が血を吸いたくなくなるということは、卵が産まれなくなるということ。繁殖のサイクルをシャットアウトできるのです。「その場にいたくなくなる」「血を吸いたくなくなる」「卵を産まなくなる」という3点で、蚊のライフサイクルを止めてしまおうという訳です。実際に、試験的に事務所の食堂の壁に塗ったら、蚊が全くいなくなりました。
また、デング熱を媒介するネッタイシマカは主に昼に活動しています。学校、病院、会社など人が昼間に集まるところにこそ、蚊よけ塗料が効果的だと考えています。
編集部
「蚊よけ塗料」はフィリピンではどのような売れ行きでしょうか?
山本さん
実はまだフィリピンでは許認可をとっている最中なんです。この塗料はマレーシアを皮切りに、インドネシア、ミャンマーでも販売をスタートしています。これからカンボジア、ベトナムでも販売する予定です。フィリピンもそれに続きたい、と思っています。
蚊を媒介として発症するデング熱の罹患者の数は、インドネシア、マレーシア、フィリピンの3カ国の中ではフィリピンが一番多いんです。フィリピンこそこの塗料が必要なんです。インドネシアは72,000人、そのうち死亡者は641人(2014年データ)。マレーシアは76,000人、そのうち死亡者は212人(2015年1月〜8月データ)。フィリピンは93,000人、そのうち死亡者は269人(2015年1月〜9月データ)。しかもフィリピンでのデング熱罹患率は前年比23.5%増。いかにフィリピンでこの塗料が必要とされているかが分かるでしょう。
編集部
「蚊よけ塗料」の他にも、「アレスシックイ」などのヒット商品がありますが、次はどのようなヒット商品を考えていますでしょうか?
山本さん
これからのトレンドは、「環境衛生」と「健康」です。例えば、「抗菌」などに焦点を当てた製品開発が望まれているだろうと思っています。
経済の発展とともに、必要とされる塗料が変わってきます。先進国の日本では必要とされない塗料であっても、アジアではまだまだ必要、ということもあります。また、それが役に立つものだとしても手に届く値段でないといけない。質も良く、容易に手にいれることが出来る製品を作らなければいけないと思っています。
編集部
他の国々に比べ、フィリピンで事業を行う魅力やメリットは?
山本さん
「限りない可能性、ポテンシャル」ですね。経済成長率の高さ、若年人口の多さ、人口増加率の高さなど言うことなしです。そこに私たちは大きな期待をしています。関西ペイントは実は18年前からフィリピンに来ていますが、2、3年前までは4輪自動車用塗料と2輪自動車用塗料が売り上げの8割でした。でもそれだけでは大きな売上拡大は難しい。日本であれば年間で約1,000万台ほどの4輪自動車の生産がありますが、フィリピンでは年間で8~9万台ほどしか生産しません。市場規模が小さいので、そこだけに焦点をあてても成長が見込めませんでした。そこでここ2、3年で力を入れているのが、建築用の塗料です。主に工業用塗料を扱ってきた関西ペイントフィリピンにとっては新しい挑戦です。これからこの分野を伸ばしていくにあたって、この国のポテンシャルは本当に魅力的です。
一方でフィリピンの問題点としては、大統領が変わるたびにがらりと政策が変わってしまうことですね。継続して何かを続ける計画性に欠ける部分がある。宗教対立があまり無い国だからみんなで協力してやる土台はあるのにもったいないと思います。
編集部
フィリピンで事業を行う上で、苦労している点は?そのような問題点をどう解決していますか?
山本さん
化学品に対する法規制がとても厳しいという点です。関西ペイントが扱っている製品は、100%化学物質なのですが、そこに対する規制が非常に厳しく、ライセンスを取るのに苦労しています。日本では考えられないようなところに焦点があてられることもあります。例えば、塗料に含まれる物質が、麻薬として使われるかもしれない、とか爆発物の生産に使われるかもしれない、など疑い出したらキリがないようなところに注目してきます。また、ライセンスを取れるまでは、日本やタイから届いた荷物が税関で止められてしまうなど、問題が起こってしまう。フィリピン独特の法規制には本当に手を焼いています。
この問題に対応するためには、いかにこちらの事情を良く知っている方と関係を持って有益な情報を集めるかだと思います。他の工業団地の方々や、住んでいる場所のコミュニティなどで情報を集めて、それを生かしてきました。
編集部
フィリピン国内で今後どのような事業、サービスを展開していくかお聞かせください。
山本さん
先ほども言いましたが、建築分野への取り組みを強化することですね。工場建屋、建物の内装、コンドミニアム、橋、工場など。日本はもとより、ローカルのゼネコンも含めて話をしています。
編集部
フィリピン人スタッフの獲得はどのように行っていますか?
山本さん
現地の求人媒体「ジョブ・ストリート」で直接人材募集をしています。
編集部
フィリピン人スタッフの優秀なところは?逆に大変なところは?
山本さん
器用なところですね。例えば、表を作らせたりすると作業が早いし上手い。クライアントに対する改善案の資料など、非常に凝ったものを作成してくれます。フィリピン人といえば、17時になったらすぐに家に帰ってしまうというイメージがありますが、意外と根を詰めて作業をしている。
ただ何か頼みごとをするときは、細かい点まで指示をしないと、完成物のレベルが落ちますね。フィリピン人スタッフから上がってきた資料を見て、自分の指示の仕方を反省しています。「私がもっと的確に指示をしていれば、もっと良い資料を作ってもらえたのに」と思うことは何度もあります。自分でアイデアを持ってやる、という点については訓練が足りていない印象ですが、指示を出したことに対しては、素早く上手にやってくれる優秀さを持っていると感じます。
編集部
海外で働く日本人に対して、思うことや感じることはありますか?
山本さん
私自身、海外経験は今回が初めて。海外に来て思うのは、海外にいるとハイテンションな生活がずっと続いているような感覚になるということです。日本を出て海外に行ったら、頑張ってやろう!という気持ちになるのが普通なのかなと。フィリピン人もテンションが高いので、なおさら自分の気持ちも高ぶります。
編集部
座右の銘は?
山本さん
好きな言葉は2つあります。1つは「奇想天外」。何か人が思いつかないようなことを常にやれる人間でいたいなと思いはしますが、やっていることはちょっと違うかな(笑)。憧れですよね。その気持ちは忘れないようにしたいです。もう1つは「生きていてこそまるもうけ」という言葉。やっぱり何があっても生きることを諦めてはいけない。死んだらもう終わり、生きていることこそ全てですからね。
編集部
プライベートな時間はどのように過ごされていますか?
山本さん
今は家族と一緒に住んでいるのですが、子供と一緒にコンドミニアムのプールで遊ぶのが楽しいですね。それから、妻と一緒にお酒を飲むことです。私と妻は食べる事、飲むことが大好き。本当は大好きな日本酒が飲みたいですが、ここではビールやワイン。おいしいつまみを買ってきて一杯やるのが楽しいですね。
あとは、毎週ゴルフをしてます。健康に効果があったら嬉しいですね。ただ、やってる最中にお酒を飲むことがほとんどです(笑)。
編集部
山本さんご自身の「今後の展望」や「夢」についてお聞かせください。
山本さん
関西ペイントフィリピンにとって、建築用塗料の分野は新しい事業。今、自分がこのタイミングでフィリピンに来て、フィリピンの人々の役に立ちそうな製品を販売できるということには大きな意義を感じています。塗料を販売することによって、フィリピンの皆さんの役に立てるように頑張っていきたいです。
また、私は製造業、メーカーの人間なので、やっぱりフィリピンにも工場を作りたい。需要を作ってからでないと工場を建てることができないので、まだまだ夢の世界ですけどね。まずは製品をフィリピンでたくさん売って、現地で生産する必要性を作るところからです。フィリピンは限りないポテンシャルのある国。その可能性に乗ってうまくやっていきたいですね。