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日本の歯科技術をフィリピンに-後編

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このコーナーでは毎回フィリピンと深い係わりのある、またはがんばる日本人を紹介していきます。
今回は、日本の歯科技術をフィリピンに伝えるために努力されている、
小林歯科医院院長の小林誠さんにスポットを当てました。


日本の歯科技術をフィリピンに伝えたい(前編)

小林歯科医院院長
小林誠さん


フィリピンに帰化した日本人第1号
こうして日本人で初めてフィリピンの歯科医師国家試験に合格し、晴れて歯科医師となった小林さんだったが、「フィリピンで取得した歯科医師の資格は日本で通用しない」という厳しい現実を知らされ、愕然となる。これでは日本に帰っても意味がない。

フィリピンでは法律上、外国人が歯科医として開業することを禁止しているため、自分で開業するとなればフィリピンに帰化するしかない。小林さんは悩みに悩んだ末、日本国籍を捨てる決心をした。帰化申請を行い、何回も裁判所に通い続けた末、1998年にやっと申請が受理された。フィリピンに帰化した日本人第一号の誕生である。

現在、マカティ市にクリニックを開業し、奥さんと息子さんと力を合わせて毎日元気に仕事に励んでいる。



技工士訓練センター設立
「歯医者はまず技工を学べ」
「日本の優れた歯科技工術をフィリピンに根付かせたい」
歯科医になる夢を見事に果たした小林さんは、更なる夢を実現するべく、自分のクリニック内に歯科技工士訓練センター「The ALPS Technology Academy Inc.(TATAI) 」を併設し、フィリピンでの歯科技工士の育成に取り組み始めた。

「歯医者は技工を先に覚えて、それから歯医者にならないと話しにならない」と小林さんは言い切る。歯科技工を勉強した歯医者とそうでない歯医者とでは、レベルにおいて雲泥の差があるというのだ。

「技工を勉強した時点で、今までの世界ががらっと変わっちゃうんだから」

kobayasi.jpg 患者の口の中を診察した時、技工知識のない歯科医は「どの歯がどう悪いのか」「歯を抜くか削るか」といったレベルの判断しかできないが、技工知識を持つ歯科医はそこからさらに踏み込んだ判断ができる。患者の年齢や全体の歯並びを考慮しつつ、患者に最も適した義歯の種類(差し歯、入れ歯、インプラントなど)、材料及び材質を選定するといった、抜歯後のケアも含めた包括的な治療が可能になるのだ。また、抜歯せずに極力今の歯を長持ちさせるにはどうすればよいかも知っている。特に小林さんほどのベテランともなると、患者の口の中を一瞥しただけで瞬時に頭の中で最良の治療手段をイメージできてしまうとのことだ。

「歯が抜けるというのは、患者さんにとっては一大事なんですよ。今ある歯をいかに長持ちさせてやるか、また、抜歯せざるを得なくなった場合でも、患者さんにかかる負担をいかに軽くするかを考えてやるのが歯科医の努めであり、それが最終的に患者さんの幸せにつながるんです。」

自らが技工士であり、また歯科医でもある小林さんの言葉は、長年の経験に裏付けされた確信に満ち溢れていた。

そんな小林さんの指導の下で育ち、巣立っていった卒業生の数は約200人。将来は専門学校として発展させたいと考えている訓練センターでは、今日も一流の技工士を目指す生徒が勉強に励んでいる。

 



フィリピン初の歯科技工士会
さて、小林さんの夢はまだまだ続く。フィリピンで初めての歯科技工士会を創立するというのがそれだ。

「Dental Technologists Association of the Philippines (DenTAP)」創立を思い立ったのは、小林さんの運営する技工士訓練センターに関心を持つ知り合いの歯科医から「フィリピンに技工士会を作ってほしい」と頼まれたのがきっかけだった。そして2005年9月、先に述べた知り合いの歯科医のお膳立てで、社団法人 日本歯科技工士会が主催する国際会議「第13回アジア・太平洋地域歯科技工士会協議会」に急遽フィリピン代表として奥さんと出席することに。

「技工士会をまだ作っていないのに、いきなり出席することになってしまって。定款すらなかったので、慌てて定款を作成しました」

フィリピンでは歯科技工士に対する社会での認知度は低く、歯科技工士会といった技工士同士の情報交換の場を提供する組織は存在していない。技工士訓練センターで育った生徒達に活躍の場を提供し、フィリピンの歯科技術工学のレベルを世界水準まで引き上げるためには、歯科技工士会の存在は必要不可欠である。そう思い至り、フィリピン初の歯科技工士会の創立に踏み切った。

目下2008年10月に開催が予定されているDenTAP発会式の準備に追われている小林さんの瞳は希望と意欲に輝き、とても来年70歳を迎える人には見えない。同会について語る口調にも自然と熱がこもり、小林さんが今一番情熱を傾けている事業であることが窺(うかが)える。10月にDenTAPが正式に発会した後も、翌月の2008年11月21日から23日の3日間、大阪国際会議場で10年に1回開催される「第4回国際歯科技工学術大会」に出席する予定だ。

抱いた夢を一つ一つ確実に実現させていき、さらなる夢に向かって走り続ける小林さん。これからもフィリピンの歯科医ならびに歯科技工士のレベル向上の担い手として、第二の祖国フィリピンで重要な役割を果たしていくことは間違いない。



プロフィール
小林 誠

小林歯科医院院長
歯科技工士訓練センター「The ALPS Technology Academy Inc.(TATAI) 」創立者

1939年生まれ(69歳)
北海道出身。中学校卒業後、旭川の歯医者の家に丁稚奉公で住み込み、旭川東高等学校に通う傍らで技工の見習いの毎日を送る。20歳で上京し、明治学院大学に入学するも60年安保闘争に巻き込まれて中退。歯科技工専門学校に入り直して技工士の資格を取得する。その後、自分で技工所を開業したが、歯医者になることを熱望し、フィリピンのオカンポ大学で歯科医学を学び、フィリピンの歯科医師国家試験に合格して念願の歯科医師免許を取得。

現在、同じく歯科医師である奥さんと共にマカティ市にあるクリニックを経営する傍ら、クリニックに併設した技工士の訓練センターでフィリピン人技工士の輩出に努める。目下フィリピン初の技工士会となる「フィリピン技工士会(DENTAP)」の創立に向けて、精力的に活躍中。
フィリピンに帰化した日本人第1号。

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「フィリピンで輝く日本人」今回は日本の歯科技術伝授のためフィリピン人に帰化した日本人第一号となった小林誠さん。

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