『フィリピンでの刑事告訴~当て逃げ事件をベースに~』
今月の事例
最初に、フィリピンにおいて刑事事件が起訴されるまでの手続について説明致します。フィリピンでは軽微な犯罪(刑期が4年2ヶ月1日を越えない犯罪)の場合はさておき、それ以外の犯罪についてはまず予備審問手続(Preliminary Investigation)が行われます。予備審問手続は、犯罪の被害者等が犯罪が行われたことに関する供述書や証拠とともに告発状を検察官宛に提出することから始まります。これを受けて検察官が被疑者に対して告発のあった事実を伝えるとともに、反論がある場合には反論をするように要求します。双方から主張と証拠が提出されたあとに検察官は双方を呼び出してヒアリングを行い、刑事事件として立件するために十分な根拠があると判断した場合には、裁判所に対して意見書及び起訴状を提出します。そして、裁判官が犯罪の嫌疑があると判断した場合には起訴を受け付けるとともに逮捕状が発行され、これを受けて警察官が被告人を逮捕します。一部の例外を除いて逮捕状には保釈金も設定されていますので、逮捕された被告人は保釈金を納付することによって保釈されることが可能です。被告人は指定された裁判期日に裁判所に出廷し、以後裁判所での刑事裁判手続が開始されます。
上記の通り、フィリピンにおいて予備審問手続が開始されるためには、被害者側が被疑者の特定を含め、犯罪が行われた事実の説明および証拠をもって検察官に対して告発することが必要です。本設問のように、車を当て逃げされた場合、被害者はどうすればよいのでしょうか?仮に日本で当て逃げの被害を受け、犯人がわからない場合、警察に被害を申告し、警察が必要な捜査を行って被疑者を特定して裁判に至るという流れが想定できると思います。他方、フィリピンの警察は日本の警察のように被害者からの被害の申告を受け、被疑者および犯罪事実の特定のために捜査を行うということは基本的には行いませんので、被疑者を特定して告発することは原則として犯罪の被害者が行う必要があります。もっとも、当て逃げ事件の場合、車のドライブレコーダーに当て逃げした車のナンバーやコンダクション・ステッカーが記録されていることが考えられますし、現場を監視しているCCTVカメラにも事故の瞬間が撮影されていることもあります。これらの情報を被害者がフィリピン国家警察(PNP)に申告した場合、PNPが陸運局(LTO)に照会して、当て逃げした車の所有者などの情報を開示してもらうことが可能です。そして、開示された情報をもとに事故の詳細についてPNPに対して報告して事故報告書の作成を受け、これをもとに告発手続きを行うことになります。このように、警察がある程度関与することはありますが、告発手続自体は被害者が自ら行うことが必要となります。
結論
本稿においてフィリピン法に関する記載につきましては、Quasha Law法律事務所の監修を受けております。
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