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フィリピンの労働紛争の解決手続とは【フィリピンで役立つ!フィリピン法律あらかると第五回】

『フィリピンでの労働紛争の解決手続はどうなっている?』


前回はフィリピンにおける相続等についてお話させていただきました(前回のフィリピンあらかると に掲載されていますので、見逃された方は是非ご覧ください)。今回は再びビジネスの話に戻り、フィリピン人を雇用したところ、給与の支払いや解雇など、様々な労働問題でもめてしまい、労働者が不服申し立てを行った場合にどうなるのかについてお話しさせていただきます。

フィリピンにおける労働紛争解決の流れは以下のとおりとなります。

<フィリピン労働雇用省(DOLE)レベル>
ステップ1:Single-Entry Approach
ステップ2:Regional Arbitration Branch(RAB)
ステップ3:Commission Proper Level (CP)

<裁判所レベル>
ステップ4:Court of Appeals(高等裁判所)
ステップ5:Supreme Court(最高裁判所)

今回は、特にDOLEでの手続について個別に説明していきます。

フィリピン労働雇用省(DOLE)とは?

フィリピン労働雇用省(Department of Labor and Employment; DOLE)とは、フィリピンにおける労働及び雇用に関する規制・監督を行う官庁です。DOLEはその主な職務として、労働者の保護を掲げています。詳細はまた別の機会にお話しできればと考えていますが、フィリピンの労働者は非常に保護されています。特に、外国企業または実質的に外国人により経営されている企業に雇用されているフィリピン人労働者に関連して問題が発生した場合には、企業に対してさらに厳しい判断基準が適用されることが十分に考えられますので、注意を払うことが必要になります。

以下は、フィリピン人従業員によって会社に対する不服申し立てがなされた場合の手続きについて説明していきます。

DOLEにおける紛争解決の手続

労働者が雇用主に対して不服を有する場合、DOLEにおいて不服申し立ての書類を提出することができます。これまでは不服申し立てがなされた場合、直ちに強制的な仲裁手続に入ることとされていましたが、強制的な仲裁手続では問題解決に時間がかかっていたため、2011年から新たにSingle Entry Approach(SEnA)という手続が導入され、不服申し立てがなされた場合にはまずはこの手続を取ることが必要となりました。

不服のある労働者はDOLEの係官(Single-Entry Approach Desk Officer)のところに行きますと、簡単な書類(Request for Assistance;援助要請書)に記入することを求められます。ここには、申し立てを行う労働者の名前、雇用主の記載の他、どのような点で不満を持ち、どれくらいの金額の請求を行いたいのかなどについて記載を求められます。このような記載を行い、係官と面談と行いますと、係官がきれいに訴状を作成し、訴状に加えて複数のヒアリングの日時を設定した召喚状を雇用主宛に送付します。そして、雇用主は指定された日時にDOLEに出頭することが求められ、その期日においてDOLEの係官を挟んで不服を申し立てた労働者との間で和解的な解決を図る手続が行われます。このような和解手続は例外的な理由がない限り、最初の期日から30日以内に終結することが求められており、30日という期間内で合意に達しなかった場合には、従前から存在する強制的な仲裁手続に移行します。

なお、公表されている統計によりますと、2013年の1年間でこの手続が約17,000件申し立てられ、うち約6,000件強で和解が成立しており、労働者1名あたり約21,500ペソの支払いがなされていまr />す。

<Regional Arbitration Branch Level (RAB)>

フィリピンの裁判所にはフィリピン国内の資産に関する相続手続についての管轄権があります。そして、遺言については、それがフィリピン国内で作成された場合にはフィリピン法または遺言者の国籍のある国の法律に照らして有効な遺言であれば有効なものとしてこれを扱い、フィリピン国外で作成された場合には、遺言作成国、遺言者の居住国または国籍のある国、またはフィリピンのいずれかの法律に照らして有効な遺言であれば有効なものとしてこれを取り扱うことにしています。このような考えをもとにしますと、フィリピン在住の日本人がフィリピンで遺言を作成する場合、フィリピン法または日本法に従った遺言を作成すれば、フィリピン国内の資産については遺言の内容に従った相続がなされます。

他方、遺言がなかった場合には、フィリピン国内の財産については、被相続人の国籍の法律に照らして遺産の分配がなされることになりますが、手続についてはフィリピン法に従って行われる必要があります。よって、先に挙げた遺産分割協議ができる条件が整っている場合には相続人の間で成立した遺産分割協議に従って遺産の分配がなされますが、そうでない場合には裁判所による遺産管理手続が行われ、裁判所により選任された遺産管理人が日本の民法を適用して遺産の分配を行うこととなります。

上記の和解手続で当事者間に和解が成立しなかった場合には、DOLEの仲裁官(Arbiter)のもとでの強制的な仲裁手続に入ります。仲裁官による判断に先立ち、当事者は準備書面を提出することが求められます。提出された書面や証拠をもとに、仲裁官が審理を行い、必要に応じて証人尋問も行われ、仲裁官が判断を示します。もし、この仲裁官の判断に不服がある場合には、当事者は不服の申し立てを行うことができます。なお、労働者側に金銭を支払うことを内容とする判断に会社側が不服申し立てを行う場合、会社は支払いを命じられた金額を一旦納めた上でないと不服申し立てを行うことはできません。

公表されている統計によりますと、2013年における会社側の勝訴率は32%であり、労働者勝訴の判断となった場合、1名あたり平均約18,000ペソの支払いが命じられています。

<Commission Proper Level>

RABの判断に不服のある当事者は、RABの上級機関であるCommission Properに対して不服の申し立てを行うことができますが、どのような不服でも認められるものではなく、①仲裁官に明らかな裁量権の濫用がある場合、②判断が詐欺や強制によりなされた場合、③法律解釈上の問題がある場合、又は、④不服申立人に重大な損害を及ぼす重大な事実誤認がある場合に限定されています。かかる理由が認められる場合には事件の再審理がなされ、別の仲裁官による判断が下されます。

公表されている統計によりますと、2013年における会社側の勝訴率は50%であり、労働者勝訴の判断となった場合、1名あたり平均約23,600ペソの支払いが命じられています。

これらの数字を見ますと、意外に会社側の主張が認められている印象、また、賠償額もさほど高額ではないとの印象があるかもしれませんが、これらには純粋にフィリピン人が経営する会社における紛争も含まれています。したがって、外国人が経営に参加している会社が当事者となっている場合を取り出せば、より厳しい内容となることは容易に想像できます。よって、フィリピン人労働者から不服申し立てを起こされることがないようにする必要があると言えます。

裁判所での判断

上記のDOLEでの判断に不服がある当事者は、裁判所に対して訴えを提起することになります。この際、事実審裁判所ではなく、高等裁判所が事件を審理し、さらに不服がある場合には最高裁判所で争われることになります。裁判所においても外国人が経営に参加している会社に対して厳しめの判断が下される傾向があることは同様です。

不服申し立てされることによるさらなるデメリット

労働者からDOLEに対して不服申し立てがなされる場合、単にその紛争において労働者保護という観点から厳しめに判断が下されるだけでなく、例えば、日本から駐在員を受け入れる際に必要となる外国人労働許可(AEP)の審査が厳しくなるなどの弊害があり得ます。さらに、会社の代表者や人事担当者に対して、労働者が出国禁止命令の発令を求めるケースも見られます。

仮に労働者の主張がとんでもないものであったとしても、紛争になった場合の時間的、コスト的な損失は決して少なくありませんので、そのような紛争がなるべく起こらないような体制を取ることが求められています。次回以降、紛争となりやすい点を挙げて、どのように準備するかについてお話しさせていただく予定です。

本稿においてフィリピン法に関する記載につきましては、Quasha, Ancheta, Peña & Nolasco法律事務所の監修を受けております。



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本稿においてフィリピン法に関する記載につきましては、Quasha Law法律事務所の監修を受けております。

 



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