フィリピンの雨季。灌水が起きる地域も多くあり、その中を歩かざるを得ないこともありますが、そんなときに気を付けたいのがレプトスピラ症です。今年も去る7月24日にフィリピンルソン島を襲った大型台風カリーナにより、多くの場所で洪水が起こり、レプトスピラ症の患者さんが増加しているとのこと。しかしそもそもレプトスピラ症とはどんな疾患?何に気を付ければいいの?かかってしまったらどうしたらいいの?そんな数々の疑問、質問に、2019年6月からフィリピン国立病院・サンラザロ病院にて長崎大学共同研究拠点のマネージャーをおつとめの鈴木秀一先生に寄稿していただきました。
フィリピンにおける台風、洪水後のレプトスピラ症予防について
2019年6月よりフィリピンに赴任している鈴木秀一と申します。フィリピン国立感染症専門病院であるサンラザロ病院における長崎大学共同研究拠点のマネージャーをしております。7月24日にフィリピンルソン島を襲った大型台風カリーナにより、多くの場所で洪水が起こり、私の勤めているサンラザロ病院にも100名を超えるレプトスピラ症患者が入院されました。2週間前にも大雨が降り、一部の地域で洪水が起こりましたので、フィリピンに住まれている日本人の皆様、および、一緒に働いているフィリピン人スタッフへの注意喚起を目的に、レプトスピラ症予防について情報共有させて頂きます。
レプトスピラ症とは?
感染経路と症状が現れるまでの期間
レプトスピラ菌は、皮膚の小さな傷や擦り傷、または粘膜(目、鼻、口)を通じて体内に侵入します。感染から症状が現れるまでの潜伏期間は通常、2日から4週間程度、教科書的には1~2週間後に症状が現れることが多いと言われていますが、今回の台風カトリーナの場合、2~3週間後にサンラザロ病院に入院されるケースが多い印象でした。症状が出始めるまでに時間がかかるため、早期に気づきにくいこともあります。
レプトスピラ症の症状
レプトスピラ症の初期症状は、以下のような症状が現れることが多いです。
• 高熱
• 激しい頭痛
• 筋肉痛(特にふくらはぎ)
• 目の充血
• 悪寒
• 吐き気、嘔吐、下痢
これらの症状が軽度の場合は自然に治癒することもありますが、重症化すると命にかかわる合併症(腎臓の障害、肝臓の障害、肺の出血、髄膜炎など)が起こる可能性があります。
フィリピンにおけるレプトスピラ症の過去のアウトブレイク
レプトスピラ症の初期症状は、以下のような症状が現れることが多いです。
• 高熱
• 激しい頭痛
• 筋肉痛(特にふくらはぎ)
• 目の充血
• 悪寒
• 吐き気、嘔吐、下痢
これらの症状が軽度の場合は自然に治癒することもありますが、重症化すると命にかかわる合併症(腎臓の障害、肝臓の障害、肺の出血、髄膜炎など)が起こる可能性があります。
フィリピンにおけるレプトスピラ症の過去のアウトブレイク
2009年9月、台風オンドイがフィリピンを直撃し、特に首都マニラを中心とした地域で深刻な洪水を引き起こしました。この洪水後、レプトスピラ症の大規模なアウトブレイクが発生、報告された症例は約2,000例以上にのぼり、そのうち250件近くが重症となり、さらに200件以上の死亡例が確認されました。この時、サンラザロ病院でも500例近くが入院されました1。また、2011年ミンダナオ北部、2013年カラバルゾン、2015年ビサヤ西部で約1,000例の感染が報告され、死亡率も10%近くと報告されています。
洪水に触れた後の対処法
洪水や汚染された水に触れた場合、足や手をすぐに洗うことが重要です。しかし、水で洗い流すだけでは不十分な場合があります。私の勤めるサンラザロ病院や、近くのヘルスセンターでは、勤務する医療スタッフおよび近隣住民に対し、洪水や汚染水への曝露の状況により、ドキシサイクリンによる予防投与が実施されました1。医師の指導のもとでのみ行う必要がありますが、この予防投与は特に洪水後の感染リスクを軽減するのに有効です。ドキシサイクリンは妊婦や子供には推奨されないため、別の予防法を医師に相談する必要があります。
最後に
フィリピンにおける大型台風後のレプトスピラ症のリスクは高く、特に洪水に接触する機会が増えることで感染リスクが急増します。しかし、適切な予防措置と早期対応により、レプトスピラ症の感染リスクを大幅に減らすことが可能です。普段皆さん自身が洪水に遭遇する事はないかと思いますが、洪水に触れた後は、すぐに清潔な水と石鹸で洗浄し、必要に応じて医療機関で相談することが重要です。また、リスクが高い状況では、ドキシサイクリンの予防投与が有効な手段となります。
レプトスピラ症の治療方法
レプトスピラ症は早期に診断され、適切な治療を受ければ、完治する可能性が非常に高い病気です。感染が確認された場合、抗生物質による治療が行われます。重篤な症状がある
Outbreak of leptospirosis after flood, the Philippines, 2009
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/22257492/
Unraveling the leptospirosis epidemic: tales from the Philippine outbreak – a short communication
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC10849348/
Philippines Department of Health, Iwasan ang Leptospirosis
https://caro.doh.gov.ph/iwasan-ang-leptospirosis-2/
場合は、入院治療が行われることが多く、腎臓や肝臓の機能をサポートするための集中的な治療が必要となることがあります。
鈴木秀一(Shuichi Jack Suzuki)さん
長崎大学熱帯医学・グローバルヘルス研究科
サンラザロ病院長崎大学共同研究拠点、拠点マネジャー
東京大学薬学部卒のちTulane University School of Public Health and Tropical Medicineへ留学、慶応病院、WHOなど経て現職、現在は長崎大学から派遣され、
マニラのSan Lazaro Hospital(サンラザロ病院)勤務。
専門領域:糖尿病、医療経済、創薬
これまでの鈴木秀一先生のご寄稿