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【Primer 医療コラム】フィリピンにおける麻疹(はしか)の現状と注意喚起

現在、日本外務省より海外における麻疹(はしか)への注意喚起が発出されています。ここフィリピンにおいても感染例が増加しており、特にご家族での予防対策が求められています。麻疹は過去の感染歴やワクチン接種の有無が不明な場合、追加接種が推奨されています。日本人の多くは抗体を保有しているとされていますが、お子様のワクチン接種については特に注意が必要です。

本記事では、今まさに警戒が呼びかけられている麻疹について、長崎大学熱帯医学・グローバルヘルス研究科の鈴木秀一先生より専門的な視点での寄稿をいただきました。

 

 


フィリピンにおける麻疹(はしか)の現状と注意喚起

 

 

 

 

長崎大学熱帯医学・グローバルヘルス研究科
鈴木秀一先生

 

2019年6月よりフィリピンに赴任している鈴木秀一と申します。現在、フィリピン国立感染症専門病院であるサンラザロ病院にて、長崎大学共同研究拠点のマネージャーとして勤務しております。 このたび、外務省の海外安全ホームページで麻疹流行に関する注意喚起が発出されたことを受けて、フィリピンに住む日本人の皆様に向けて、麻疹に関する基礎知識と、フィリピン現地の感染状況、及び、予防方法について情報を共有いたします。

 

麻疹とは?

 

麻疹(はしか)は、非常に感染力の強いウイルス性の感染症で、空気感染によって広がります。発症すると以下のような症状が現れます:

 

  • 高熱(3840度)

  • 咳、鼻水、結膜炎(目の充血など)

  • 数日後に全身に赤い発疹

  • 免疫低下による肺炎、中耳炎、脳炎などの合併症

 

特に乳幼児や免疫が低下している人にとっては重篤化する可能性が高いため、早期の予防が非常に重要です。

一度感染すると基本的には終生免疫が得られるとされていますが、医療機関で感染歴の有無が不明な場合や、確実な記録がない場合には、ワクチンの追加接種を行っても問題ありませんし、推奨されることもあります

麻疹の診断は、日本ではIgM抗体やPCRなどが行われていますが、フィリピンでは症状、発疹、家族歴などから診断される場合が多いです。

 

麻疹に特効薬はありませんが、症状に応じた対症療法(解熱剤、水分補給、栄養管理など)が行われます。合併症の有無により入院が必要となることもあります。また、重篤化した場合は肺炎や脳炎などを起こし、後遺症が残る可能性も否定できません。まれに視力や聴力障害、神経系の後遺症が報告されることもあります。そのため、予防が非常に重要です。

 

日本とフィリピンにおける麻疹の流行状況

 

日本の状況:

 

国立健康危機管理研究機構(202541日に国立感染症研究所と国立国際医療研究センターが統合して設立された、感染症対策と健康危機管理を担う機関)における、4月23日時点の速報によると、、日本での麻疹の年間報告数は非常に少なく、2023年は数十例にとどまりましたが、海外での流行により輸入症例が散発的に発生していますi2024年にはアジア、ヨーロッパなどからの帰国者による感染例が報告され、日本国内でも注意が呼びかけられています。2025年は423日までに83名が報告されています。

 

図1、⿇しん累積報告数の推移 2018〜2025年 (第1〜16週)、感染症発生動向調査より抜粋

 

フィリピンの状況:

 

フィリピンでは、麻疹の流行が繰り返し発生しています。特に予防接種率の低下が指摘されており、私の所属するサンラザロ病院にも2018年には約2,000人、2019年には約3,000人が入院し、そのうち半数は1歳未満でしたi。また、2024年の年末ごろから麻疹で入院される小児の患者がサンラザロ病院でもみられるようになりました。

 

ワクチンによる予防

 

麻疹は予防接種によって予防可能な感染症です。日本では、1歳の1年間で最初の接種(MRワクチン)、小学校入学前の1年間で2回目の接種を行いますii2回のワクチン接種で終生免疫を得られると言われています。フィリピンでは、予防接種プログラムが存在するものの、地方によってはアクセスの制限や接種率の低下が課題となっています。WHO世界保健機関の試算によると、2020年から2022年における、麻疹を含むワクチンを少なくとも1度は接種している割合は約60%から70%と、集団免疫に必要とされる95%を下回っていましたiii。フィリピン保健省をはじめ、多くの医療従事者等がキャッチアップキャンペーンや学校における接種など、ワクチン接種を挙げる努力を続けている現状です。

成人の方でも、過去に2回の接種歴が不明な場合や、1回のみの接種しか受けていない方は、追加の接種が推奨されます。フィリピンでは、一般の公立・私立の病院やクリニックでワクチン接種を受けることが可能です。バランガイ・ヘルスセンターなどの地域保健所でも定期接種が行われています。

 

最後に

 

i Domai, F. M., Agrupis, K. A., Han, S. M., Sayo, A. R., Ramirez, J. S., Nepomuceno, R., Suzuki, S., Villanueva, A. M. G., Salva, E. P., Villarama, J. B., Ariyoshi, K., Mulholland, K., Palla, L., Takahashi, K., Smith, C., & Miranda, E. (2022). Measles outbreak in the Philippines: epidemiological and clinical characteristics of hospitalized children, 2016-2019. The Lancet Regional Health. Western Pacific, 19, 100334.

 

iii 世界保健機関、グローバルヘルスオブザーバトリー(Global Health Observatory)データベース、https://apps.who.int/gho/data/node.main.A826

大型連休中の海外における麻しん(はしか)に関する注意喚起

https://www.anzen.mofa.go.jp/info/pcwideareaspecificinfo_2025C013.html

 

[email protected]


鈴木秀一(Shuichi Jack Suzuki)さん
長崎大学熱帯医学・グローバルヘルス研究科
サンラザロ病院長崎大学共同研究拠点、拠点マネジャー

東京大学薬学部卒のちTulane University School of Public Health and Tropical Medicineへ留学、慶応病院、WHOなど経て現職、現在は長崎大学から派遣され、
マニラのSan Lazaro Hospital(サンラザロ病院)勤務。
専門領域:糖尿病、医療経済、創薬

 

 

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