2021年8月27日
強風や風向の変化に弱いという従来のプロペラ式風力発電機の弱点を克服し台風時においても発電できる『垂直軸型マグナス式風力発電機(マグナス風車)』を開発しているチャレナジー(本社:東京都墨田区、代表取締役:清水敦史氏)は、8月25日、フィリピン最北の州であるバタネス州において、マグナス風車のフィリピン初号機を本格稼働した。
フィリピンの電化率は92%に達しているが、24時間フルに電力供給が受けられない弱電化地域が40%以上ある。離島や山間部のように地形的なハンディを有している地域では、電力系統インフラが整備されていないこと、台風の襲来頻度が高く安定した電力供給が難しいことによる。
送電網から遠く離れた無電化・弱電化地域では再生可能エネルギーが地産地消のエネルギーとして期待されているが、台風の多さが風力発電普及のネックとなっている。そこで、台風などの強風速域においても発電できるマグナス風車を開発するチャレナジーは、フィリピンにおいて“地産地消”できる電力供給を目指し、実証事業をスタートした。
この実証事業は、環境省「コ・イノベーションによる脱炭素技術創出・普及事業」の一環として実施。フィリピン初号機は、2018年に石垣島でスタートした実証成果を反映し、性能・耐風速設計がともに向上している。より強風が吹く地域でも設置が可能となり、フィリピンの建築基準をクリアする70メートル/秒まで耐えられる設計となっている。
また、発展途上国の離島は、インフラが未整備な地域も多く、これまで大型クレーンなどの使用が難しいため、風力発電機の設置に向かない場所とされていた。今回はその様な環境での建設性を向上させる取り組みとして、重機などを使用せずに建設した。この初号機で発電された電力は、当面、独立電源として街路灯・農業用水ポンプなどの地域生活に密着した用途に活用される予定である。
今回の初号機は、当社とスカパーJSAT株式会社が新たに開発した、マグナス風車専用の監視システムにより遠隔からの稼働状況モニタリングと操作が可能である。監視システムは衛星通信を用いており、携帯電波が繋がりづらい遠隔地でも継続的に監視が可能となる。加えて、災害時に当該地域で携帯通信が使えない場合、マグナス風車により発電した電力を用いる衛星通信は、災害地域でも安定的な通信を継続的に提供することが可能である。この実証モデルは、電力、通信インフラともに脆弱なフィリピンのデバイド地域での普及が期待される。
今後は、マグナス風車を活用したコミュニティーでエネルギー供給源と消費施設を持つ小規模なエネルギーネットワーク(「マイクログリッド」)の実現を目指す。マグナス風車に、太陽光発電・蓄電池を組み合わせることで、昼夜問わず安定した電力を供給する事業を展開していく方針である。
<垂直軸型マグナス風力発電機(マグナス風車)について>
プロペラの代わりに、回転する円柱が風を受けたときに発生する「マグナス力」を用いて風車を回すことで発電する垂直軸型の風力発電機である。円柱の回転数を制御することで風車の暴走を抑えることができるため、平時のみならず、台風のような強風時でも安定して発電し続けることができる。また、垂直軸型にすることで、あらゆる風向に対応できる。さらに、一般的な風力発電機と比較して低回転のため、騒音やバードストライクなど環境影響の低減も期待できる。
「マグナス力」とは回転する円柱または球が一様流中(風や水の流れの中)に置かれたときに、その流れの方向に対して垂直の方向に力が働くことを「マグナス効果」といい、こうして生み出される力(揚力)がマグナス力である。野球のカーブボールやゴルフのスライスといった現象も同じ原理によるものである。
既存の風力発電機でも、「台風でも壊れない」ものはあるが、チャレナジーが開発する「垂直軸型マグナス風力発電機」のように、「台風でも発電できる」可能性を秘めた技術は見当たらない。大型の台風一つのエネルギーは、日本の総発電量の約50年分に相当するという国土交通省の試算がある。チャレンジャーはこの莫大なエネルギーを電力に変える風力発電機の実用化を目指している。
台風のような「風速変化」と「風向変化」の激しい環境下でも、安定して発電ができることを、チャレナジーは「台風発電」と呼んでいる。既存の風力発電機のように平時も発電を行いつつ、台風が来襲したときにも安定して電力を供給できる風力発電機のフィリピンでの実証実験を成功させ、国内の離島をはじめとする地域に安心・安全な電気を供給していくとともに、毎年のように台風が訪れるフィリピンなど新興国の無電化地域を電化していくことを目指している。