JETROフィリピンは9日、ロシア・ウクライナの軍事衝突などが与えるフィリピン経済への影響に関する情報を発表しました。
ロシア・ウクライナの軍事衝突と中国の新型コロナ対策の影響をフィリピンのエコノミストは懸念
フィリピンの複数のエコノミストが4月26日までに、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻や、中国で行われている厳格な新型コロナウイルス感染防止対策について、フィリピンの経済活動に悪影響をもたらす懸念を示した(「フィルスター」紙2022年4月18日付、「ビジネス・ワールド」紙2022年4月26日付)。
ロシアによるウクライナ軍事侵攻について、大手銀行ユニオン・バンク・オブ・ザ・フィリピンのチーフエコノミスト、ルーデン・カルロ・アスンシオン氏は4月26日、「原油価格の上昇を受けて、輸送業や製造業は直接的に影響を受ける」とコメントした。
セキュリティー・バンク・コーポレーションのチーフエコノミストのロバート・ダン・ロチェス氏も同日、「ロシアによるウクライナへの軍事進攻によって、フィリピンは原油や食品価格の高騰、サプライチェーンの混乱に直面している」との認識を示した。加えて、軍事侵攻が国際的な景況感を悪化させ、投資に対する不確実性を高めるため、フィリピンを含む途上国からの資金流出が発生する可能性があると言及した。
フィリピン中央銀行(BSP)は4月12日、国際市場での原油価格動向について注意深く見ていくとの声明を出していた。その上で、原油価格の上昇によって国内物価が上昇していることを認めつつ、政府は、政策金利の引き上げといった金融政策ではなく、直接的に供給サイドに働きかける政策を継続していくとしていた(政府通信社4月12日付)。なお、3月の消費者物価指数(CPI)上昇率(インフレ率)は4.0%で、政府の目標範囲(注)2~4%の上限に達した。
また、中国で行われている厳格な新型コロナ対策の影響について、フィリピンの複数のエコノミストは、今後数カ月間にわたってフィリピンの製造業や輸出のパフォーマンスにダメージを与えるとの見解を示した。前フィリピン大学経済学部長のラモン・クラレテ氏はフィリピンの主要な輸出品目である半導体について、製造工程で投入財となる輸入部品の調達に制約が発生し得ると指摘した。同氏はフィリピン経済特区庁(PEZA)内を含む製造業工場について、世界的な物品供給の低迷を受け、生産パフォーマンスを低下させる恐れがあると警鐘を鳴らしている。
(注)フィリピン政府は物価上昇率の目標範囲を明示し、範囲内に収まるように金融政策を運営するインフレターゲットを導入している。政府は2022年から2024年まで、年間のCPI上昇率の目標範囲を2~4%としている。
(吉田暁彦、サントス・ガブリエル)