日ASEAN経済共創ビジョンの実現に向けたAZEC構想
これらのビジョン実現に向けた官民連携の具体的な取り組みの一つとして、アジア・ゼロエミッション共同体(AZEC)構想が強調されました。このAZEC構想では、各国の事情を踏まえた多様で現実的な道筋をとることを原則として、エネルギートランジ ションを進めるための協力が進められることが期待されています。
フィリピンのマルコス大統領も、日ASEAN特別首脳サミットと同時期に東京で開催されたAZEC首脳会合において、「クリーンで、持続可能で、公正で、安価で、包括的なエネルギー転換を加速させる必要性を認識している」ことを述べ、再生可能エネルギー産業と新興技術への投資を呼びかけました。さらにこの会合等を契機に、エネルギー移行や脱炭素化、インフラ分野での日本との協力を更に進めたい旨の発言もありました。フィリピン政府は、ネットゼロエミッションの目標は掲げてはいないものの、パリ協定に基づく「国が決定する貢献(Nationally Determined Contribution、NDC)」において、2020年から2030年の間に、何も対策をせず現状を維持した場合(Business As Usual)に比べ温室効果ガスを75%削減するという他のASEAN諸国と比較して野心的な目標を設定しています。この75%のうち、72.29%は先進国からの財務的・技術的支援を受けて達成を目指すという条件付きの目標設定であり、先進国からの支援に高い期待が寄せられています。
図1. ASEAN6におけるGHG排出削減目標と、カーボンニュートラル・ネットゼロエミッション達成目標
※ 1 BAU: Business as usual (特段の対策をしない自然体ケースという意味)
※2 条件 : 先進国からの財政支援や他国による気候関連政策の支援に依拠可能な場合。
出所: 各国政府のウェブサイトと、ニュース記事、 JETRO調査報告書を基に作成
フィリピンにおける脱炭素に向けた取り組み方針
フィリピンにおける当該分野の取り組みとしては、フィリピン国家開発計画2023-2028(PDP)において、電力価格の高騰、電力供給量の不足、送配電損失の高さ等の送電網の近代化の遅れなどを課題として挙げ、エネルギーインフラ整備を重点分野に掲げています。また、「国家再エネ計画(NREP)2020-2040」では発電構成に占める再生可能エネルギーの割合を2030年までに35%、2040年までに50%に引き上げるという政府の目標が掲げられています。こうした目標の達成に向け、2022年には再生可能エネルギー分野に対する海外投資(FDI)の投資規制が解禁され、100%外国資本による投資が可能となりました。さらに今後、電力関連事業の民営化・自由化の促進による公正な競争促進、容量市場等の新たな電力市場の開設による系統電力の安定化等が進められる見込みであり、より一層のフィリピンの電力市場に対する投資の魅力が高まっていくことが期待されています。
日比間のエネルギー分野での更なる共創に向けて
こうしたカーボンニュートラルの実現に向けた共創として、エネルギートランジションに資する技術の普及(ヒートポンプ等の省エネルギー関連技術や、ペロブスカイト太陽電池(注1)等の再生可能エネルギーの関連技術)や、系統電力の安定化に資する技術展開が期待されます。更にこうした中で、日本の経済産業省も「グローバルサウス未来志向型共創等事業」を開始し、グローバルサウス諸国において⽇本企業が現地企業と互いの強みを活かしながら、カーボンニュートラルの実現等の目標を共に実現する事業に対する⽀援が開始されます。こうして、日ASEAN友好協力50周年を機に、2024年以降の日本フィリピンの間においても、長年の経済協力の中で培ってきた相互の“信頼”を基盤とし、新しい産業を共に創る動きがより一層加速されていくことが期待されます。
注1:ヒートポンプとは少ないエネルギーで低温の熱源から熱を集めて高温の熱源へ送り込む装置。ペロブスカイト太陽電池とは、ペロブスカイトと呼ばれる結晶構造を持つ化合物を用いる太陽電池で、塗布や印刷技術で量産でき、ゆがみに強く軽い太陽電池の実現が期待されている。
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