『フィリピンの刑事裁判』
今月の事例
前々回の記事で、フィリピンで刑事裁判になるまでの解説を行いましたが、今回はその続きで、検察官が起訴を行ったあと、裁判所での刑事裁判手続がどうなっているのかについて解説します。
1.逮捕状の請求
前々回の記事で触れましたように、被害者などから告発がなされますと、まずは予備審問手続が行われ、その手続において 検察官等が犯罪の疑いがあると判断した場合には、裁判所に 起訴状を提出します。裁判所が起訴状を検討し、事件の疑いが あると判断した場合には、逮捕状を出します。なお、逮捕状には 保釈が可能な場合には保釈金についても記載がなされている のが日本との違いです。保釈金を納めた場合には警察に逮捕さ れることはなく、被告人は裁判期日に裁判所に出頭すればよい ことになります。
2.罪状認否手続(Arraignment)
被告人が裁判所に出頭して行う最初の手続がこの罪状認 否手続と呼ばれるものです。この手続は公開の法廷で裁判 官、検察官及び被告人が出席し、起訴状の朗読が行われた あとに、裁判官が被告人に対して起訴事実に対する認否を 尋ねます。被告人が有罪であることを認めた場合、裁判所は 原則的には検察官が起訴の際に裁判所に提出した記録をも とに被告人の刑罰を決定します。他方、被告人が無罪を主張 した場合、手続は公判準備手続へと進みます。
3.公判準備手続
罪状認否手続において有罪の答弁がなされなかった場合、迅 速な裁判を行うために、被告人及び弁護人の同意がある場合に は公判準備手続が行われます。この手続中に、司法取引(前言を 翻して有罪の答弁を行ったり、当初起訴された犯罪より軽い犯罪 について有罪の答弁を行い、より軽い刑罰を受けることに合意することなどが含まれます)や、犯罪事実の確認、公判手続で提出予定の証拠の開示などが行われます。
4.公判手続
公判手続においては、検察官が証拠の提出や、証人の尋問 により犯罪の立証を行い、被告人側も証拠の提出や、証人への 反対尋問等を行ってこれに反論します。双方の主張と立証が尽くされた時点で、裁判所は双方に最終書面の提出を命じ、こ れらをもとに裁判官が審理を行い判決を下します。なお、フィリ ピンの刑事裁判においては日本やアメリカのような裁判員、陪審員の参加はなく、裁判官のみで事件を審理し、判決を下します。判決に不服がある場合、被告人のみ上訴を行うことができ ますが、上訴審においては下級審の判決よりも重い刑罰が下 される可能性もあります。
5.フィリピンの刑罰
フィリピンにおける最も重い刑罰は死刑ですが、現在はその言い渡しがなされることはありません。次に重い刑罰は特別法 違反があった場合の終身刑(Life Imprisonment)であり、これ には仮釈放の制度はありません。次に重い刑罰は仮釈放の可 能性のある有期刑(Reclusion Perpetua)であり、その刑期は 20年と1日から最長40年とされています。以下、それより期間 の短い懲役刑が続き、懲役刑の他、罰金刑も存在します。なお、 刑期が6年以下の場合には刑期と同じ期間の執行猶予が付く ことも条件次第では可能です。
本稿においてフィリピン法に関する記載につきましては、Quasha Law法律事務所の監修を受けております。
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