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ビジネス烈伝 三菱商事マニラ支店 支店長 石川 治孝 氏

中間層の底上げ進む今こそビジネスの商機
世界とその先を見据え投資呼び込む

 

三菱商事マニラ支店
支店長 石川 治孝 氏

 

 

 

マニラに事務所を構え今年で70周年、アヤラコーポレーションと提携してから今年で50年。節目の年を迎えた三菱商事マニラ支店だが、グローバルに活躍する商事会社として、フィリピンの市場をどう見て、どう業務を推進して行こうとしているのか。2023年4月に支店長に就任された石川氏にお話を伺った。

 

 

編集部

 

着任されてからフィリピンの印象は?

 

石川氏

 

まず、フィリピンでは想像していた以上に日本のプレゼンスが高いと感じました。ASEAN諸国の中での日本の相対的な地位低下が懸念されるなかで、フィリピンでは、ありがたいことに日本へのリスペクトを感じます。  三菱商事はアヤラコーポレーション(Ayala Corporation:以下アヤラ)と関係が深く、様々な事業を共同で進めているのですが、フィリピンの経済・ビジネス環境は日本で想像していた以上に進んでいる印象です。米国やスペインの文化がミックスされており、文化的な背景も大変面白いですね。

フィリピンの方は、優しくフレンドリーです。一方で形式を重んじる文化があり、フォーマットやルールががっちり整備されていて、そのギャップが大きいですね。不思議なカルチャーだと感じます。

私は海外でよくスーパーマーケットに行くのですが、フィリピンのスーパーのオペレーションは改善の余地が大きく、ショックでした(笑)。が、逆にそこがビジネスチャンスかもしれません。また思ったよりも物価が高く、食品関係もそこそこいい値段ですが、食に対してフィリピンの皆さんは惜しまずお金を使っているのが印象的です

 

 

編集部

 

フィリピンでの三菱商事の沿革は?

 

石川氏

 

三菱商事マニラ支店は、1954年に駐在員事務所が設置され、今年、支店開設70周年を迎えます。旧三菱商事における出張所は、戦前の1936年に置かれており、フィリピンとは長きにわたる関係性を構築してきました。

さらに今年は、三菱商事がアヤラグループと事業提携をしてから50周年です。非常に大きな節目の年になりました。

 

 

編集部

 

現在、フィリピン国内での事業展開は?

 

石川氏

 

三菱商事は、4部門を中心に業務を展開しています。①インフラ・モビリティ・資源・電力、②化学・石油、③生活消費関連、④都市開発、の体制で業務を推進しています。事業規模としては、鉄道、自動車、新エネルギーが大きな比重を占めています。鉄道についてはODA(政府開発援助)で支援いただいています。日本の鉄道技術は世界で確固たる地位を築いており、フランスやスペインなどの企業と共に、現在南北通勤鉄道延伸向け鉄道システム一式・特急車両供給、マニラ首都圏地下鉄向け鉄道システム一式、及びLRT1号線車両供給案件に携わっています。

その他代表的な案件をご紹介しますと、北イロコス州でのアヤラグループの子会社であるACENとの風力発電の合弁事業、自動車関連では、いすゞ(ISUZU)事業を、化学関係では、東ソー(TOSOH)との合弁事業を、そして生活産業系では、ローソン(LAWSON Philippines)事業やCulture Blendsコーヒーの支援のほか、精肉のミートワールド(Meatworld)やクラッカーで知られるレビスコ(Rebisco)との取引などがあります。

 

 

編集部

 

アヤラとの関係性は?

 

石川氏

 

三菱商事は多くの事業をアヤラと共同で進めており、アヤラはフィリピンにおいて最も重要なパートナーです。

アヤラはガバナンスや事業戦略も非常に先進的であり優れた経営をされています。フィリピン社会の未来、10年以上先のことを見据えて事業を展開されており、非常に尊敬できる会社だと思っています。

 

 

編集部

 

今後の見通しと事業展開は?

 

石川氏

 

三菱商事全体の重要な取組分野として、エネルギートランスフォーメーション、デジタルトランスフォーメーションが挙げられます。

現在フィリピンは中間層が厚く成長してきており、都市化、消費文化の成熟が大きな事業テーマと考えています。内需主導型の経済に移行していく中、それに向けた時代をとらえる新しい機能や商品、サービスを提供する大きなチャンスが来ています。事業機会が十分に見えてからアクションを起こすのではなく、新たなビジネス機会を見つけることがこの国での我々のミッションと思っています。

すでに取り組んでいる陸上風力発電においても、新電力から産まれるグリーンバリューを次の産業に活かすことを検討したり、鉄道やインフラ関連では、新たにできる鉄道駅を核にした新しい街づくりや都市の高度化などの取組を検討しています。

消費分野では、食生活が高度化すると新しい食糧や食材などの需要が拡大しマーケットが生まれます。ASEAN諸国で言えば、フィリピンとベトナムが同じようなステージにありますが、フィリピン市場の潜在性をより掘り下げたいと思っています。

デジタルで言えば、物流の高度化、最適化などもテーマとなります。当地でも事業の効率化や見える化などの検討を行っています。

 

 

編集部

 

シンガポール駐在の際に都市開発に関連した事業を行っていらっしゃったと伺いましたが、BGCの街づくりをどのように見ていますか。

 

石川氏

 

BGCはASEANの中でも特に先進的な都市開発の事例だと思います。例えば、BGCの素晴らしい点の一つとして、街としての機能の中に、マニラ日本人学校やインターナショナルスクール等の教育機関があり、それがドライバーとなって海外からの駐在員がBGCに居住し、そこにまた外資系企業がオフィスを構えるといった具合に、教育が重要なコンテンツとなってとして街が成長している点が挙げられます。もちろん、新たな価値を提供する商業施設やエンタメ産業なども集まり、そこで生活する人への複合的な価値提供が実現していることは言うまでもありません。

街の価値は、そこでどのような都市の機能が提供されているかが重要な決定要因となります。BGCには、地下鉄駅が2つできる計画となっており、今後この駅を中心にした更なる開発も期待されます。鉄道利用というモーダルシフトが実現すると、30年代にはまた新たなスケールの追加開発も加速するでしょう。商業施設を中心にしたPRや文化的なコンテンツ、教育関連の産業などが加わることで街はさらに高度化していきます。若い世代、海外からの駐在員が多く生活することで様々なコンテンツが集まり、また職場も集まり、更にそこに地元の人々も集うという、街の成長のエコシステムがBGCには具現化しています。ASEAN全体を見ても新しく作られた街でBGCのように成長の好循環が実現している事例はあまりないのではないでしょうか。ここに地下鉄という要素が加わると、更に大きな街の成長が期待されます。マニラという都市にとっても、このエコシステムは財産だと思います。BGCは大渋滞が大きな課題になっていますが、そうした都市の課題も様々なテクノロジーやインフラの改善によって大きく改善していくものと思います。

街の機能の高度化や交通(鉄道)との接続は、渋谷駅の再開発等に見るように、まさに日本の得意とする分野です。その意味でも、日本がこの国の発展に価値提供ができるところがまだたくさんあると考えています。日系の開発事業者さんも進出してきていますし、今後様々なビジネスの広がりが作られていくものと考えています。

 

 

編集部

 

石川さんはフィリピンへの投資をどのように見ていらっしゃいますか。

 

石川氏

 

地政学リスクの観点で考えると、現在それなりの確度をもって投資ができる対象国は、世界的に限られてくると思います。その中で、特にASEANは日本にとって重要な地域であり、また主戦場でもあります。そのASEAN諸国を相対比較した時に、経済成長率や人口構成などを含めたポテンシャルの面でフィリピンは際立っていると思います。

また、フィリピンは欧米型の法治主義や資本主義の文化があり、その点でも投資を検討しやすい国と言えます。政治的な安定性や行政執行の効率性などの課題も言われますが、何よりフィリピンのファンダメンタルな立ち位置は、投資の観点でも非常に重要だと考えています。

一方で、シンガポール駐在時に、ASEAN各国での事業機会の検討に携わりましたが、フィリピンでの投資機会があまりフィリピン国外の投資家にオープンになっていないのではないかという印象を受けました。国内の財閥含め内資が強いというのもあるかもしれませんが、大型の投資は透明性、安定性がしっかりと確認されなければなかなか実行には至らないもので、その点いろいろとチャレンジがあるのかもしれません。

現在、マルコス大統領も海外投資を呼び込むために官民連携などを進めようとしていますが、投資家の信頼感を勝ち得るような大型のディールが複数実現し、実績となって確認できることが重要になると思います。

地政学的なリスクと言えば、中国との距離感も重要な要素になると思います。対中関係のマネージは現政権にとっても大変大きなテーマであり、台湾有事等の極端なケースも視野に入れながら、食糧・エネルギーを含めた安全保障の観点から準備することが求められているということと思います。

フィリピンは、特に現政権になってから日本との関係が更に好転してきています。まさに「日比黄金時代」です。日系企業は前向きにフィリピンを見ており、また、フィリピンも日本に積極的に目を向けています。このモメンタムをうまく生かしたいですね。フィリピンにどう投資を呼び込むのか、これが我々の最大のミッションです。私もフィリピンのセールスマンみたいなもので(笑)、社内をまわってフィリピンのすばらしさを訴えています。

様々な事業について、フィリピンの地場企業の皆様、そして日系の企業様ともオープンに議論させていただきたいと思っております。

 

 

【プロフィール】
1969年愛媛県生まれ、東京大学法学部卒、同大学院法学政治学科修了、94年三菱商事入社。金融事業開発部門等を経て、2000年米国・ペンシルバニア州のウォートン・ビジネス・スクール入学、MBA取得。金融事業開発部、シンガポール支店などを経て23年4月から現職。

 

【座右の銘】
「所期奉公 処事光明 立業貿易」これは三菱商事の企業理念『三綱領』で、われわれの行動指針です。

 

【おススメ本】
「炎熱商人」(深田 祐介著、文藝春秋、1984年2月刊)と「マゼラン船団 世界一周500年目の真実: 大航海時代とアジア」(大野 拓司著、作品社、2023年11月2日刊)。「マゼラン船団 世界一周500年目の真実: 大航海時代とアジア」は交易国として長く深い歴史を持つフィリピンを楽しみながら知ることができ、おススメです。

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