健康志向高まるフィリピンの
「すこやかな毎日、ゆたかな人生」に貢献
GLICO PHILIPPINES, INC.
Country and Marketing Head
三木孝司 氏
日本を代表する食品メーカーのGlico。5年前に現地法人を設立、トップブランドのポッキーをはじめ、世界で愛される菓子類のほか、最近では「アーモンド効果」のような商品も発売する。その目指すところは?そしてフィリピンでの取組みは?来比7年の三木氏にうかがった。
編集部
グリコフィリピンの沿革と位置づけは?
三木氏
現在、江崎グリコでは、日本をグローバルのヘッドオフィスと位置付け、その傘下に、米国、中国、ASEANで事業を統括する会社があります。グリコアジアパシフィックは、ASEANの事業を統括するリージョンヘッドオフィスで、その傘下に、タイ、インドネシア、マレーシア、ベトナム、フィリピンの現地法人があるという位置づけです。
フィリピンでのビジネスは、2000年代前半に始まりました。当時は、パートナーであるディストリビューターが商品を輸入販売するという形態でした。ただ、ビジネスが思うように伸びず10年以上停滞していた一方で、ASEANの中でも今後、インドネシアについで経済成長が予測されるフィリピンの現状考えると、江崎グリコがイニシアティブをもって取組み、早期にビジネスを立て直して成長路線に載せる必要がありました。そこで17年に駐在員事務所を、19年には江崎グリコとしてビジネスライセンスを取得し、現地法人Glico Philippines, Inc.を設立したのです。
編集部
7年前のフィリピンの印象と取組みは?
三木氏
来比当時、江崎グリコの商品が売場に並んでいる状況に愕然としたのを鮮明に記憶しています。商品は、棚の一番下に少しだけ、お客様の足元に近い部分に陳列されていたり、中には箱が少し潰れていたり、埃をかぶっていたり、という状況を目の当たりにしました。これではお客様に気づいてもらえません。実際に、当時のポッキーの認知率は5人に1人しか知らないという状況でした。
来比してすぐに取り組んだのは、ファンダメンタルを確立することです。ただ日本で学んだことは、そのまま違う国で展開しても、うまく機能しないと痛感していしました。そこでフィリピンの皆さんが受け入れやすいように、ポイントを抑えてシンプルなオペレーションをひとつひとつ作り上げていきました。5年かかりましたが、現在では、店頭でしっかりと目立つように陳列して頂けるようになり、協業して頂ける企業様も増え、ブランドの認知率も4人に聞けば3人が知っているといった状況になり、ある程度、定着してきたと感じています。
編集部
コロナ禍はいかがでしたか。
三木氏
ディストリビューターの変更、輸入ライセンスの取得、FDAの取得、Glico Philippines, Inc.として初めての商品の輸入と、四重苦の中でコロナ禍を迎えました。多くの邦人が日本へ帰国する中で、日本人は何かあるとすぐに日本に帰ってしまうと思われるのは、チームの結束を強くする上でよくないと考えていました。現地にいないとわからない、出来ないことがたくさんあります。家族は日本に戻り、一人でマニラに残って業務を進めました。多くの方がそうだったと思いますが、大きなストレスを抱えた時期ですね。あの困難を乗り切れたのだから他もできる、そんな気になりました(笑)。
編集部
フィリピンの消費者の変化は?
三木氏
特に顕著な変化が視えたのは、やはり世界最長ともいわれたコロナ禍によるロックダウン後ではないでしょうか。実際、サイクリングをしている人、ジョギングする人が増えました。「甘いもの、しょっぱいもの、脂っこいもの」が好きという印象のフィリピンですが、健康に対する意識が高まってきているのではないかと感じます。
そのなかで、スーパーの棚では植物性のミルクの種類が増えたり、全粒粉などを使用した菓子・パンが増えたり、町中でGo! Saladsのようなサラダ専門店が増えたりと、食生活の変化が起き始めていると感じています。もちろん所得の格差が大きな国ですから、その傾向は、所得が高い層から始まっていますが、今後中間所得層が増える中、このような嗜好は徐々に全体に広がると考えています。
編集部
フィリピンでのマーケティング戦略は?
三木氏
しっかりと生活者と向き合う、マーケティング活動を重視しています。例えば、現状、弊社のビジネスの中心であるビスケットマーケットを攻略ために、生活者のニーズベースでセグメンテーションを行い、各セグメントを攻略するために必要な商品ブランドを発売し、極力カニバリゼーションを最小化しながら各ブランドごとに、コアバリューの強化を行っています。
ポッキーというブランドを例にとると、ポッキーは、Share happiness!!というコアバリューを掲げています。友人や家族とポッキーを通して、楽しさや幸せを分ち合う。ポッキーを通して幸せの総量がフィリピンの生活者の中で最大化することを常に考えて、店頭だけではなく、デジタル、PR、協業など全方位的なマーケティング活動を行っています。
大切なのは、日本での成功モデルをそのまま行うのではなく、フィリピンの生活者にどれだけ寄り添ってマーケティング活動を行うかだと考えています。ですから私も店頭やイベント会場にはよく足を運び、そこでの気づきを次の活動に活かしたりと、自分の目で生活者を見ることを大切にしています。
編集部
様々なローカル企業と協業されていますね。
三木氏
直近ではチョコレートのAUROさん、UCCさん、FlowerStore PHさんや、Pickup Coffeeさん、それにMarriott Hotelさん、LIT Manilaさんなど、多数のフィリピンの方々と協業を行ってきました。もちろん協業の場合、お互いのブランドの相性や、実施することでどのような新しい価値をお客様に提供できるかを事前に十分に協議する必要があります。その上でうまくいけば、それぞれのブランドにとって、新しいお客様に商品を好きになっていただく良い機会です。
また、フィリピンのブランドと協業をすることで、グリコにとっては、よりフィリピンの方に共感されやすい方法で商品の認知が広がるという利点もあります。日本人だけで考えていては気が付かない、フィリピンのお客様に届きやすいコミュニケーションになります。これからフィリピンでサービスを展開される日系企業の方にもぜひ、おススメしたい取組です。
編集部
フィリピンにおける今後の展望は?
三木氏
江崎グリコは、菓子ビジネスから始めましたが、フィリピンでなくてはならない存在になるためには、お子様からお年寄りまでより多くの世代の生活者の方を弊社の接点を作っていく必要があると考えています。そのために、お客様との最初の接点となる粉ミルクの市場でテストマーケティングを行いました。多くの学びがあり、今後の活動に活かしていきたいと考えています。
江崎グリコのパーパスは、「すこやかな毎日、ゆたかな人生(Healthier days, Wellbeing for life)」です。より日用使い頂ける商品で、生活者の”すこやかな毎日“に貢献するために、昨年度末より、プラントベースミルクの市場へ「アーモンド効果」という商品でチャレンジを始めました。フィリピンの方は半数以上の方が牛乳に含まれる乳糖に対する耐性がないと言われています。健康志向が高まる中で、栄養価が非常に優れている「アーモンド効果」は非常に有望な商品です。今後病院などとも連携するために活動を展開しています。現在は依然、菓子ビジネスが柱ですが、今後は、植物性ミルク市場を「アーモンド効果」で牽引しながら、第二、第三のビジネスの柱を作っていきたいと考えています。
編集部
フードロスの削減や古本のドネーションなどの社会活動にも貢献されていますね。
三木氏
それぞれ違った文脈から始まった活動になります。 フードロスの削減は、需要と供給のバランスを精度高く把握して日々の活動を行えば発生を最小限に抑えられるのですが、やはり様々なプロセスでオペレーションの問題が発生して、予期せぬ形で倉庫や店頭で在庫が過多になってしまうことがあります。結果、賞味期限切れの商品の発生につながることがあります。
まだまだ、しっかりとした仕組みができている訳ではないのですが、食品メーカーとして、日々のオペ―ションでこのようなロスを発生させないのが大前提ですが、どうしても発生してしまうものは、NPOを通して、賞味期限が残っているうちであれば寄附をするなど、捨てることを極力なくすための活動につなげていきたいと考えています。
ブックドネーションに関しては、コロナ渦で寄附活動に参加した際に、絵本を読む機会が少ない子供たちの存在を目の当たりにしたことが活動のきっかけになりました。子供にとって「本を読むこと」は、学ぶということの第一歩であり、その機会は全ての子供に与えられるべきです。
そこで、ポッキーのブランドのコミュニケーション活動(Share happinessを広げる)の中で、BTS(Back to School)の時期にマニラ首都圏で古本を集め、11月11日のPocky の日に、従業員が自ら地方へ赴き、子供たちに集めた古本を寄附するという活動を2022年から開始致しました。昨年は私もベンゲットへ行き、活動に参加致しました。この活動は、今後もブランドコミュニケーションの一環として毎年行っていく予定です。
編集部
個人的なことをお聞きします。三木さんはダイエットにもチャレンジされたと伺いました。
三木氏
はい、コロナ禍で家族に約2年会えない中で、ストレスで食に走り太ってしまいまして(笑)。「すこやかな毎日、ゆたかな人生」を謳う企業の人間として、自分で実践するために、まずはダイエットをしてみようと考えました。とはいっても特殊なことはせず、毎日飲食しているものをカロリー記録アプリを使って、適正値にしていくといった方法です。
例えば、300キロカロリー以上あるスターバックスのラテを4キロカロリーのアイスアメリカ―に変えるだけでも違います。結果7キロ以上落ちました。
そして何より、身軽になって、まさに、すこやかさを実感ています。会社が目指す方向性は間違っていないと実感しました。
編集部
休日はどのようにすごされていますか?
三木氏
趣味が仕事みたいなものでして(笑)。休日はよく家族と一緒に街の中やモール、インターナショナルマーケットなどを歩くのですが、そこには沢山の仕事のヒントが溢れていますし、勢いのある業態や商品などを体感し、協業先の候補にも出会えます。新しい発見もあります。これをやろう、あれをやってみたらと考えているのが非常に楽しいですね。
【プロフィール】
埼玉県出身。2004年、学習院大学卒業後、江崎グリコ入社。主にマーケティング部門に従事。17年同社駐在事務所初代所長、19年Glico Philippines, Inc.設立後、カントリーヘッド兼マーケティングヘッド。23年から江崎グリコ株式会社のグローバルブランドマネージャー兼務、全世界のポッキーブランドのブランディングも担当。
【座右の銘】
「努力は人を裏切らない」です。最初の上司が言った言葉です。努力を続けていれば、だれかが助けてくれるし、たとえ失敗してもそこから学ぶことができる。入社して最初の上司のこの言葉が今の私のベースになっています。