ゼロから誰もが知る商品に!
フィリピンで乳酸菌シロタ株の普及に邁進
Yakult Philippines, Inc.
フィリピンヤクルト 上級副社長
湯舟 裕志 氏
今やフィリピンで誰もが知ってる「ヤクルト」だが、営業を開始した46年前は、「菌=ばい菌」と思われており、プロバイオティクス自体の概念もなかったという。それが第二工場を建設し生産拡大を進めるまでになった背景は? フィリピン在住11年の湯舟裕志氏にお話を伺った。
編集部
フィリピンでの沿革を教えてください。
湯舟氏
フィリピンでヤクルトが営業を開始したのは、1978年です。ヤクルトグループでは台湾、ブラジル、香港、タイ、韓国に次いで歴史の長い事業所です。
営業開始当時は、フィリピンには「生きた菌を飲用する」という概念がなく、多くの方が「菌=ばい菌」というイメージを持たれていました。それだけでなく、当時は「プロバイオティクス」飲料のマーケット自体がフィリピンには存在していませんでした。「ヤクルト」の価値を理解していただくのに当初は大変な苦労をしたと聞いています。主にヤクルトレディによって「乳酸菌シロタ株」の価値を説明しながら商品をお客さまにお届けすることで、「乳酸菌シロタ株」の持つ整腸作用を体感し、「ヤクルト」を愛飲していただくお客さまが徐々に増えてきました。
ヤクルトグループでは、「ヤクルト」を毎日1本飲んでいただきたいという思いから、業績を1日当たりの販売本数で表す指標があるのですが、その1日当たりの販売本数が初めて100万本を超えるまでに約30年を要しました。その30年の間に、地方代理店を23社開設して首都圏以外での販売網を拡大しました。現在は計30社の地方代理店を開設し、各地でヤクルトレディを中心とした「乳酸菌シロタ株」の価値をお伝えする活動を日々行っています。その結果、2015年には1日当たり200万本、18年には同300万本、コロナ禍を経て同350万本を超える規模となりました。引き続きお客さまからは強いご要望いただいておりますので、24年5月からミンダナオ島エルサルバドール市の弊社第二工場で生産を開始し、生産能力を増強しているところです。
編集部
販売戦略とスタッフ教育はどのようにおこなっているのでしょうか。
湯舟氏
弊社は、「プロバイオティクス」のパイオニアとして、一貫して菌の科学性をお客さまにご理解いただくための活動をフィリピン全国で続けています。「ヤクルト」ならびに「ヤクルトライト」は、「説明型商品」であるため、「なぜ毎日飲むのか」、「飲むとどのような効果があるのか」をしっかりと説明する必要があります。その中で非常に大きな役割を担っているのが、4200人(24年4月現在)を超えるヤクルトレディです。ヤクルトレディは自宅周辺地域を中心に、一軒一軒「ヤクルト」や「ヤクルトライト」をお客さまに手渡しでお届けしており、その際に「ヤクルト」1本(80ml)当たり80億個以上含まれる「乳酸菌シロタ株」の科学性をしっかりお伝えすることで、毎日飲むことの重要性を理解していただいています。ヤクルトレディは、単なる商品の配達ではなく、科学的な価値を持った商品のお届けを担っており、これが弊社独自のマーケティング活動となっています。
そのヤクルトレディを育成する社員の教育には徹底して取り組む必要があります。社員自身が「乳酸菌シロタ株」の科学性を理解しそれをヤクルトレディに伝えられるよう、弊社宅配事業部門で日々実践・改善されている教育活動やトレーニングは、定期的に地方代理店にも水平展開され、全国で統一した業務標準を導入しています。
さらに、「乳酸菌シロタ株」の価値普及活動に特化した学術広報部門では、学校、企業、バランガイの診療所、大規模イベントなどで動画や腸の模型を使ったフィルムショーイング活動を毎日実施しています。これらの活動を通じて、「お客さまに選ばれる環境づくり」をすすめています。
編集部
ヤクルトレディはどんな方が携わっているのですか?
湯舟氏
基本は主婦の方を採用しています。私もヤクルトレディに同行するのですが、皆さん平均すると300本ぐらいのヤクルトを8時からお届けしてくれています。300本ぐらいだと1~2時間もすると商品がなくなることもが多く、本当にたくさんの方にヤクルトをご愛飲いただいていると実感します。
編集部
フィリピンマーケットの特徴と健康食品との親和性、また課題と市場の可能性は?
湯舟氏
フィリピンはASEAN諸国の中でもインドネシアに次いで人口が多く、また平均年齢が約24歳と非常に若く、エネルギッシュで大きな可能性を秘めた国です。「ヤクルト」がフィリピンの皆さまに広く認知されてきた背景としては、「ヤクルト」の美味しさがフィリピンの方の好みに合ったことに加えて、健康志向の高まりのなかで「ヤクルト」が受け入れられてきたと考えています。営業開始から46年目を迎え、主に国外からの競合品も出てきていることを考えると、弊社が地道に作り上げてきた「プロバイオティクス」というマーケットはフィリピンにおいても今後ますます活発になっていくと考えます。特にコロナ禍を経て、フィリピンでも健康志向は一段と高まったと感じます。
フィリピン国内には、「ヤクルト」をお届けできていない地域がまだまだたくさん存在します。今後は、首都圏ならびに地方においても、ヤクルトレディや量販店を通じて新鮮で美味しい「ヤクルト」をお届けできる体制を強化していきます。また、徹底した温度管理のもと商品をお届けすることにこだわっておりますが、コールドチェーンのさらなる充実や健康志向の高まりに合わせて、将来的には高菌数タイプや栄養成分を加えた高付加価値タイプの商品を導入できればと考えています。
編集部
今後の展望を教えてください。
湯舟氏
これまでビサヤスおよびミンダナオ地域の地方代理店には、マニラ港から海上輸送を利用して商品を届けていたため、到着までに時間がかかっていました。また、台風などで商品の輸送スケジュールに影響が出ることもありました。これらの地域の皆さまにもより新鮮な「ヤクルト」を毎日ご愛飲いただけるように、ミンダナオ島エルサルバドール市に第二工場を建設し、今年5月に生産を開始しました。ビサヤス・ミンダナオ地域は、今後も人口増加が期待される大きな可能性があるマーケットですので、これまで以上に「乳酸菌シロタ株」の科学的な価値普及活動を徹底し、より多くのお客さまに選んでいただける環境づくりを進めていきたいと考えております。
私自身フィリピンに駐在して11年になりますが、日々フィリピンの発展を実感しています。第二工場ができたことで早期に生産体制を整え、毎年10%成長という、フィリピンに来たばかりの時に体験した、営業展開する者としては醍醐味ともいえる時期を、フィリピンヤクルトの皆ともう一度体験したいと思っています。
編集部
フィリピンヤクルト主催のマラソン大会もやっていらっしゃると伺いました。
湯舟氏
毎年10月に「Yakult 10 miler」を行っており、32回目を迎える今年はMOA周辺で実施されます。フィリピンで2番目に歴史のあるマラソン大会と聞いていますが、開始当初はフィリピンではマラソンの習慣がなかったので、「10 miler(16キロ)」として始まりました。コロナ禍があけて、健康志向が高まったこともあって、私の居住している地域でも若い人からお年寄りまで、ウォーキングやマラソンをする人が増えています。
弊社が主催する「Yakult 10 miler」も10年前は参加者が2000名前後でしたが、昨年は4600名のランナーが参加し、今年はさらに多くのランナーが参加予定です(※7/27現在、すでに上限に達したため応募できません)。
今後も、「ヤクルト」をはじめとするプロバイオティクス製品やマラソン大会などのイベントを通じて、フィリピンの皆さんの健康に貢献して参ります。
【プロフィール】
1972年生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、1995年ヤクルト入社。シンガポール、インドネシア、オーストラリア、東北支店、本社営業企画部、アルゼンチンなどに駐在のち本社総務部。2013年10月からフィリピン駐在。23年から現職。
【座右の銘】
「凡人を達人に変える77の心得」(野村 克也 著、バレーフィールド刊。2013年7月発行)。元ヤクルトスワローズ監督の著者が選手に言っていたことをまとめた書。仕事は面白いばかりではないが基本をしっかり身につけることで成長し、他の仕事もできるようになる。ご本人は自分が凡人だからこそこんなことに気を付けるべきだと書いているが、自身、腹落ちし、何かあると手にする一冊です。
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