信頼される日本クオリティの協力で 圧倒的に不足する
フィリピンの鉄道インフラ整備を推進
選ばれる国・日本へ!
独立行政法人国際協力機構(JICA)所長
坂本 威午 氏
今回は鉄道分野を中心に、フィリピンにおける交通インフラ整備は現在どのような路線がどのような背景で進められているのか、今後の計画は?また他国との草刈り場になりつつあるフィリピンにおいて、JICAがどのように支援し、日本企業をサポートしていくかなど、独立行政法人国際協力機構(JICA)所長・ 坂本 威午(さかもと・たけま)氏にお話を伺った。
編集部
フィリピンの鉄道の現状を教えてください。
坂本氏
メトロマニラは、面積は東京23区とほぼ同じですが、人口は約1.3倍なのに、鉄道路線はLRT1、LRТ2、MRT3及びフィリピン国鉄の4つしかありません。これらの鉄道総延長も100キロ以下と、東京の7分の1以下です。
こうした大量輸送鉄道路線の圧倒的不足により、メトロマニラは世界的に有数な道路渋滞状況を招いています。その結果、大気汚染や温室効果ガス排出といった課題が先鋭化するとともに、渋滞による移動が不便な状況が慢性化しているのはご存じのとおりです。生活面・緊急移動面で不便というだけではなく、経済活動環境・投資誘致の面でも他国に劣後し、経済発展の大きな阻害要因となっています。
また、スイスの研究機関IMD(国際経営開発研究所)による「IMD 世界競争力ガイド2023」のインフラ整備状況のランキング(図表1)では、フィリピンは世界64か国中58位で、ASEAN主要各国の中では最下位です(日本は23位)。こうしたインフラ整備の遅れが、生活の質の低下や、投資とビジネスの成長の阻害の要因となっているのです。
図表1
出所)IMD(国際経営開発研究所)「IMD 世界競争力ガイド2023」を基にJICA作成
日本では、移動手段を自動車交通からマストランジット(大量輸送機関)へのモーダルシフト(自動車交通を環境負荷がより低い鉄道などの公共交通に切り替えること)に誘導する施策が進められており、鉄道の駅近くに駐車場を建設したり、Kiss and Ride(運転ができる家族の一人が通勤・通学する家族を車で近くの駅まで送迎すること)がしやすい駅前に整備したり、ワンコインバスを増やしたりするなどの利便性向上を図っています。
では、フィリピンはというと、誘導したくてもマストランジットがそもそも圧倒的に不足しています。フィリピンでは、鉄道路線が圧倒的に少ないため道路の混雑が著しく、その結果、生活面や経済活動面で支障をきたしています。
現在建設中の南北通勤鉄道やマニラ地下鉄、そして、改修を終え維持管理協力中のMRТ3、これら3つのJICAが協力している鉄道路線の整備により(図表2)、排出温室効果ガスは年間で100万トン超の規模で削減されるとの試算もあります。これに、これもJICAが協力中のLRT1やLRT2といった既存路線の活性化効果を加えると、その削減量はさらに大きくなります。グリーンプロジェクト(環境問題の解決に貢献する事業)である鉄道整備が推進されることで、大気汚染が改善し、地球温暖化・気候変動の抑制にもつながり、そして、生活の質の向上やビジネスの加速にも貢献します。
図表2 フィリピンの鉄道路線図(提供:比運輸省)
編集部
鉄道計画の工程を教えてください。
坂本氏
重要なのは計画性です。2014年、JICAはメトロマニラと周辺州を対象とした運輸交通開発マスタープランの策定に協力しました。この「ドリームプラン」とも呼ばれるプランに基づき、メトロマニラと近郊を結ぶ南北通勤鉄道やフィリピン初のマニラの地下鉄などが円借款を活用して建設されています。2019年にはこのプランのアップデートにも協力しました。
「ドリームプラン」では、適切な手を打たなければマニラの交通渋滞による一日あたりの経済損失は2017年で35億ペソ、2035年で54億ペソにも及ぶとの試算もありました。フィリピンの交通課題の解決には、現在建設中の鉄道だけではまだ不十分です。
そこで、フィリピン運輸省とJICAは、「マニラ大首都圏鉄道開発マスタープラン策定プロジェクト」に関する技術協力合意文書に8月署名し、更なる計画策定に着手しました。これは2055年を見据えた30年の長期計画となるマスタープラン策定の協力です。対象地域は、メトロマニラと今後交通需要が増加するカラバルソンや中部ルソンも含めた計約4万平方キロメートルに及びます。2014年の「ドリームプラン」作成当時に国家経済開発庁(NEDA)長官で、現在NEDA長官に再任されたアルセニオ・バリサカン氏からも強い期待を寄せられています。
このプランでは、マニラ一極集中とならない、地域開発の視点も盛り込んだマスタープランとして、合理的かつ効果的なプランを今後3年間で策定していく予定です。
編集部
フィリピンの鉄道計画はJICAが全体図を書いているといっていいのでしょうか。
坂本氏
半分はイエス、半分はノーです。国際協力で陥ってはいけないのは、全部やってあげるという対応です。JICAの仕事は、自転車の補助輪をはずす過程に似ています。途上国政府が自立できるように、過保護になり過ぎず、忠言諫言も含めて寄り添うことが重要なのです。
マスタープラン協力の目的は大きく2つあり、最終的に高品質な計画ができること、そして、今後フィリピンの皆さん自身で、計画を立案・調整・実施できるような能力向上・技術移転を図ることです。
フィリピンの均衡のとれた開発を目指して、地域のハブも整備すべく、セブでもJICAは運輸交通マスタープランの策定をお手伝いしてきました。その結果、セブ・マクタン橋(第四橋)建設事業につながっています。また、ダバオでも、2018年のインフラ開発計画の策定に協力しています。当時の市長がパワフルな女性で(笑)、サラ・ドゥテルテ現副大統領です。その開発計画に基づき、ダバオバイパスの建設も進められています。このフィリピン初の本格的山岳トンネルであるダバオバイパスは、円借款協力のもと、日本のコンサルタントや建設会社が大活躍しており、日本の技術・ノウハウの移転も進んでいます。これらは練り上げられたマスタープランから始まっていますが、さらにダバオでは、対象地域をメトロポリタンダバオに広げたマスタープラン策定の協力を近々始める予定です。
編集部
それらの支援は提案ベース、要請ベースのどちらで始められるのでしょうか。
坂本氏
基本は要請主義です。国際協力の世界では「Ownership and Partnership」という言葉がありますが、自主性を尊重するのは基本中の基本で、これをやれ、我々がやってやる、といった押しつけはしません。ただ我々には日本や他国での経験値がありますので、それに基づいてアドバイスをし、それらも踏まえて、彼らが要請してくるということです。
編集部
他国もフィリピンへの進出を図っていると思いますが、日本と同じように進めているのですか。
坂本氏
JICAのように、彼らの自主性を高めるための協力を行っているのは実は珍しいといえます。
他のドナーは、超一流の経済学者やコンサルタントを活用するものの、彼らはファーストクラスで飛んできて、5つ星ホテルに泊まり、自分でプランを作成して終わり、と揶揄されることもあります。また、2000~10年代頃に、ノースレールという他国の鉄道協力プロジェクトがマニラ及び近郊であったのをご存じでしょうか。橋脚まで造ったにも関わらず事業が中止になり、その橋脚を取り壊すために却って莫大なコストを要してしまった事例です。これも、フィリピンの自主性と、しっかりとした計画・管理の実践といった協力体制が整っていなかったから、ということかもしれません。
ちなみに、中国の支援に関してホットな話題になっている鉄道案件が3つあります。1つめはスービック~クラーク間鉄道、2つめは南長距離線(マニラ~レガスピ間)、3つめはミンダナオ鉄道。実はこれら3つ、すべて進捗が止まっています。スービック~クラーク間鉄道については借款契約交渉段階で停滞。ただ、この地域では高速道路SCTEXが円借款で整備されており、現時点では交通需要がカバーできているのではないでしょうか。南長距離線については交通需要は大きく、JICAが協力している南北通勤鉄道の延伸としてマニラからの連結性強化の意義はあるかもしれませんが、ミンダナオ鉄道についても、交通需要調査の結果をしっかりと踏まえて、巨額な投資に釣り合うかは慎重に考える必要があるかもしれません。
まとめると、まずマスタープランをしっかり策定し、その過程において技術移転・能力強化を図りつつも、需要予測や実施能力等を見極めて、それぞれの事業の優先順位もしっかり考えましょうよ、というのがJICAのスタンスです。本当に必要な投資を必要なタイミングで必要な場所・事業にすべきです。この国の発展のために、どのような順番でどのような地域に投資をするのが重要かを、マスタープランで示すようにしています。それが日本と他国の協力の違いの一つでしょうか。
自主性を尊重しながら着実に協力案件を進めていくというやり方は極めて日本的です。だから日本が一番信頼されているのでしょう。
フィリピンはこれから間違いなく伸びる国です。そのうち他国から攻勢がかかるでしょう。欧米、韓国、中国、そしてインドも接近・協力強化を図ってくるでしょう。事実、エンリケ・マナロ外相の6月末のデリーでのジャイシャンカル・インド外相との協議では、PCG(フィリピン沿岸警備隊)支援や経済協力などが話されています。みなフィリピンを見ているんですよ。今の状態にあぐらをかいていると、そのうち日本は相手にされなくなるリスクがあります。
8月に主要閣僚が勢揃いしてダバオで開催されたPEB(Post-SONA Philippine Economic Briefing )(図表3)のパネリストとして、外国人としてJICAの私だけが招待されました。それだけの信頼を得ている国・機関は他にありません。今ラッキーなことに、フィリピンは日本を向いてくれています。頼ってくれているうちが華。今、日本は選ばれる国になるかどうかの瀬戸際なのです。
(図表3)PEB(Post-SONA Philippine Economic Briefing :2023年8月9日)
編集部
実際にどんな駅をどのような計画に基づいてつくるのでしょうか。
坂本氏
図表2(前出)をご覧ください。重要なのは、各駅や路線が点と線としてではなく、全体でネットワークを形成し、乗り換え利便性を向上させることです。現在、LRT1のドロテオ・ホセ駅とLRT2のレクト駅の乗り換え、それに、LRT1のエドサ駅とMRT3のタフト駅の乗り換え利便性はまだいいんですよ。一方、LRT2クバオ駅とMRT3アラネタセンター・クバオの乗り換えは、分かりにくく、段差もあって不便です。そうした観点から、いかに駅を中心とした乗り換え利便性の高いエリアに再構築するか。鉄道だけではなく、いかにバスやジプニーなどのPUV(Public Utility Vehicle)を含めた交通ネットワークを実現するか、です。 いい例が新宿駅にあるバスタ(バスターミナル)です。あそこは鉄道の駅と連結し、バスにもタクシーにも乗り換えが出来、公共交通機関へのモーダルシフトに貢献しています。
さらに、駅ビルを建設してショッピングセンターやレストランなどを誘致したり、不動産開発を行い、貸しビルや住居にしたりすることにより、エリア開発を行い地域の拠点にするTOD(Transit Oriented Development)も推進する必要があります。たとえば長野の善光寺に多くの参拝者が集まり地域が開発され門前町ができた、その駅版です。これによって鉄道路線が単なる点と線ではなく大きなネットワークになり、駅を中心とした地域開発がなされる。これがTODのコンセプトです。
TODによって鉄道運営主体者の財務収益性も向上します。ジプニーもMRT3もしかり、ポピュリズム政権(大衆に迎合し人気を得る政治スタイル)では、貧困対策として交通運賃の値上げは難しく政府の許可がなかなか下りません。今年7月にMRT3が建設史上初めて値上げし、LRT2も8年ぶりに値上げを行いましたが、わずかな金額でした。安定した経営ができないと十分な維持管理や新たな投資ができません。
その解決策の一番の近道は鉄道運営主体者の非運賃収入を増やすことです。日本の鉄道運営主体者の非運賃収入の割合はJR各社でも30%前後、比較的高い東急電鉄、西武鉄道、東武鉄道、阪急電鉄などの大都市圏の私鉄で80%近くです。非運賃収入を増やせば、これに伴って雇用が増えますし、交通運賃を低く抑えたままで鉄道ユーザーの利便性も高まる。そして安定的な経営母体のもとで鉄道本体も安定し、信頼できる運営とメンテナンスができ、お金が循環する、これがTODの狙いです。
今フィリピンでTODを若干先取りしているのはMRT3アヤラ駅のOne Ayala(図表4)で、アヤラグループがショッピングモールを作り、駅と連結させ、交通結節点として鉄道やバス、ジプニーの乗降客のショッピングモールへの誘導を図っています。地下鉄BGC駅などでもモデル駅として計画が進んでいます。
(図表4)MRT3アヤラ駅のOne Ayala附近
もう一つのターゲットはコモンステーションの建設構想です。LRT1の最終点はケソン市のフェルナンド・ポー・ジュニア駅ですが、その先でMRT3の終点ノースアベニュー駅とそのすぐ横に建設される地下鉄駅をつなぐという構想です。現在建設中のヴァレンズエラやブラカンに行くMRT7もここに接続予定で、いくつもの路線が集結し、交通結節点をつくるコモンステーションの建設が現在進行中です。ここにどのような、利便性の高いあるべき結節点を構築するのかが一つの焦点になっています。
さらに重要なのはO&M(Operation and Maintenance、運営維持管理)です。どんなに良い鉄道でも作りっぱなしはダメです。それはMRT3でのメンテナンスの成果で如実にわかります。
MRT3は1999年に運行を開始し、住友商事と三菱重工グループが当初メンテナンス業務を担っていました。しかし、2012年にそのメンテナンス業務契約が終了、その後地場や韓国の企業が管理を始めました。しかし、その後の必ずしも質の高いとはいいがたいメンテナンス業務のために故障や事故が頻発、10分以上の間隔でしか電車が来ないため乗客の利便性は低く、しかも走行時速はわずか25キロ。雨でも降ると電車が来ても止まってしまったり、あげく乗客は線路を歩かされたりと、公共交通機関として全く信頼性がありませんでした。
こうした状況を打開すべく、2018年、JICAがフィリピン政府から要請を受け、MRT3の改修および維持管理のための円借款契約を締結し、住友商事が再度業務を請け負いました。2021年12月に全システムの改修が無事完了、その結果、時速60キロ、4分間隔での定時運行を実現し、故障の少ない信頼できる公共交通機関へと変貌を遂げました。まさにこれがジャパンクオリティ―です。今年5月には追加の円借款契約も締結しています。(フィリピンの鉄道事業調達状況 図表5)
図表5
提供:JICA
ちなみに私も今、外部機関への移動にはMRT3をよく利用しています。たとえば農業省や環境省はケソン市にあるのですが、オフィスから車で行くとひどいときには渋滞で2時間かかることすらもあります。でも事務所から最寄りのアヤラ駅まで車で行って、その後MRT3でケソンまで余裕を見ても30分、そのあとまた車に乗り換えれば、大幅な時間短縮になり、移動時間も見込み通りで安心です。
今駐在員の方は、社用車を使われている方が多いと思います。30年前はどこの国でもそうでした。でも時代は変わっています。フィリピンの危ない、汚いなどのイメージはもはや昔のものです。今の実態を見て、MRT3にもぜひ乗って欲しいですね。
インフラの維持管理は非常に重要で、我々はハード面でもソフト面でもサポートしていきます。自助努力支援、自主性の尊重、能力開発を行いつつ、フィリピン側自身での維持管理が難しい場合には、アウトソースすることで日本企業にも活躍していただける場も少なからず出てくると思います。
編集部
進出した企業のサポートはありますか。
坂本氏
フィリピンは将来性が豊かな国です。視察に来る日本企業も増え注目度は上がっていますが、進出する企業は、リスクヘッジとして円借款などODA(政府開発援助)のもとでの事業推進を望まれています。円借款では各企業はフィリピン政府と契約を結ぶことになりますが、受注した企業も施主であるフィリピン政府の立場が強いためなかなか要請や苦情を言いにくく調整に苦慮される面もあるでしょう。しかしJICAのODA事業では、内容によってはJICAがフィリピン側に働きかけるという形でJICAがサポートすることも可能です。
現在、JICAでは図表5にあるような事業を推進しており、今後の計画・予定に関しても日本企業からも多くの打診をいただいていますが、鉄道事業だけでなく他事業においても、多くの企業がフィリピンに進出して相互に競争して質の高いレベルで競争・切磋琢磨されることになれば一番ですね。
編集部
フィリピンの課題と将来性、日本としての取組を教えてください。
坂本氏
よくフィリピン経済の懸念材料として債務が過大ではないかという指摘がありますが、IMF(国際通貨基金)も管理可能な債務水準だと言っていますし、私の友人であるベンジャミン・ディオクノ財務大臣なども同様の見方をしています。何より公的債務の中身の7割はJICAのОDA(政府開発援助)のような長期間の返済・低金利のソフトな条件であり、かつ、為替変動リスクに注意が必要となるような対外債務のGDP比率はASEANで最良レベルです。また、危険水域は輸入規模見合いで2ヶ月とされる外貨準備高が7~8ヶ月分もあります。そして、今年の経済成長率はIMFによれば6.2%と世界主要国で最高と見込まれています。
一方で、課題となるのはフィリピン側の実施対応です。やるやると言っていたことを適時にやってくれなかったり、途中で合意事項を一方的に変えたりなど、約束を守ってくれないケースがあります。さらに、事業実施に必要な用地取得に時間がかかることや、国内手続きが長くかかったり、見通しが立てにくかったりすることも懸念点です。ビジネス契約では履行期間はとても重要で、たとえば用地取得が虫食いで行われると、作業も虫食いになり時間もコストもかかり、アイドリングコストも発生します。時には住民移転の交渉を受注企業自身でやれと言われたりするケースすらもあります。その他、フィリピン側で予算の手当ができなかったり、内部手続きが長期化したりして、受注企業への支払いが遅延するといったケースもあります。 こうした点、JICAからは、フィリピンの要人達に、約束をきちんと守らないと信頼を失い、国際社会で相手にされなくなってしまうことを相当強く言っています。予算手当に対しても、事前準備段階から関係大臣やフィリピン議会にまでも、周到に手を打っています。
ディオクノ財務大臣は、「フィリピンにとって重要なのは、成長とそのための投資なので、私はインフラを止めない。」と明言しています。「財政規律が崩れても止めない。たとえ財政赤字が増えたとしても、将来への投資のためにはインフラが必要だからだ。」と。
将来への投資計画として、フィリピン政府は197件の8.7兆ペソに上る優先インフラプロジェクトリスト(Infrastructure Flagship Project:IFP)をすでにリストアップしており、この財源として53%がODA、25%がPPP(Public-Private Partnership:官民連携)と計画しています。PPPやMIF(マハリカインベストファンド(ソブリンウェルスファンド))が最近盛り上がりをみせていますが、実質的にはODAがいまだフィリピンでは大きく最重要な役割を期待されてるのです。そして、PPPを推進するためにも、周辺インフラ整備、政府側負担分へのバックファイナンス、政策・制度の合理化・整備など、民間企業側のビジネスリスク・懸念点の軽減にODAを活用することが有効です。
フィリピンはこれから大いに発展する国です。今、まさにこのタイミングで、このように上向きの、親日の、そして日本にとって重要な戦略的パートナー国に関わられることは、本当に幸運だと思っています。かつて日本との戦争で110万人規模ともいわれるフィリピンの人々が亡くなった国である歴史を考えると、さらに特別な思いも去来します。フィリピンの交通インフラ整備が進むことで、在住者の利便性だけでなく、観光客の移動にもメリットが生まれますし、ビジネス環境・投資有望性もますます向上します。 これから多くの国が参入し草刈り場になるこの有望なフィリピンにおいて、日本だけが取り残されることは避けなければなりません。 今ラッキーなことにフィリピンは日本に向いてくれています。しかし一方で、今後もし日本企業の契約案件で事故・遅滞・問題等が生じたり、進出・協力検討に二の足を踏んだりしていれば、日本への見られ方は変わってしまうでしょう。
フィリピンは今、日本政府もJICAも重視する、揺るぎない超重要国として、追い風が強く吹いています。民間ビジネスも、課題があればJICAもサポートします。ぜひ、日本ブランドの誇りを持って、オールジャパンで一丸となって取り組んでいきましょう!
プロフィール
福岡県生まれ、東京大学法学部卒業後、1989年海外経済協力基金(ОECF、現JICA)就職。北京大学留学、ОECF北京事務所駐在、国際協力銀行(JBⅠC)中東担当課長・国会担当課長、国際協力機構(JICA)報道課長・総務課長、外務省在イラク日本国大使館参事官等を経て、JICAイラク事務所長、インド事務所長、南アジア部長、中東・欧州部長、筑波大学客員教授(兼務)などを歴任、2022年3月から現職。
後進の育成について
取材記事や執筆記事も含めて、自分の発信内容を同僚にもよく読んで理解してもらい、目線を合わせて、積極的なアドバイス・忠言諫言・申し入れや、さらには「最も敷居の低い部署」として日本企業の方々のご支援・御用聞きなど、私個人がいようといまいと少しでも皆様のお役にたてるようにと、組織対応を徹底するように努めています。そして、「論理(ロゴス)」「信頼(エトス)」「情熱(パトス)」とのアリストテレスの弁証術で喝破されている「説得の三原則」が重要だと伝えています。
人間関係を構築する際に、名刺交換しただけ、挨拶したことがあるだけ、ではダメで、「重層的な関係を構築するために相手の懐に飛び込め、そして何かがあったときに話ができる関係になれ」と口酸っぱく言っています。会話の機会を逃さず、創り、相手にまた話を聞きたいと思わせるような意味があるやりとりを、上記の三原則を踏まえて対応し、爪痕を残すことが大切だと思います。そのためには、具体的な数字や議論を踏まえて説明したりすることで信頼を得ることが出来るように、各種の見方・意見を予め勉強しておくなどの「予習・準備」をしておくことも不可欠だと思います。後はパッションです。ただ、準備に時間がかかり睡眠不足が恒常化しているのが悩みです(笑)。
ご参考)
ビジネス烈伝『フィリピンは今が旬!日本ブランドを誇りにオールジャパンで取り組むJICA』独立行政法人国際協力機構(JICA)所長 坂本威午 氏(2023年2月掲載)はこちらから
JICA Webはこちらから