新製品「ヤクルト ライト」投入
「代田(しろた)イズム」で予防医学をフィリピンへ
フィリピンヤクルト 副社長
小野瀬 祥さん
1949年茨城県生まれ。1972年ヤクルト入社。一貫して営業畑を歩み続け、92年からは5年間シンガポール駐在。2005年より現職。休日は、40年来続けているゴルフ。
【好きな書籍】
ジャンル問わず読書が好きで、日本に帰国したときには持って帰れるだけ何十冊と古本を購入して来ます。男性と違う表現力に惹かれれるので、女性作家を選ぶことが多いです。
【好きな言葉】
「報恩謝徳得」
今一番強く思っていることです。これまでたくさん受けた恩や恵みに対し、感謝の気持ちを持って徳を重ねることが出来ればと思っています。
フィリピンの庶民に最も親しまれている日本ブランドと言っても過言ではないヤクルト。フィリピンヤクルトは昨年創業35周年を迎えた。新製品、フィリピンでも導入しているヤクルトレディや今後の展望などについて、同社の小野瀬 祥副社長にお話をお聞きしました。
編集部
まずはじめに、ヤクルト本社の海外展開について教えてください。
小野瀬さん
現在日本を含め世界33カ国でヤクルトを販売しています。海外展開は1964年の台湾に始まり、フィリピンは1978年。6カ国目の進出先でした。国別の販売本数ベースでは現在第7位です。進出当時、フィリピンではまだ外資が営業権を100%取ることができませんでしたが、信頼できるパートナーを得て合弁会社を設立しました。
編集部
世界各地で飲まれているヤクルトですが、味などローカライズしている部分はあるのですか。
小野瀬さん
全世界同一基準で製造していて、味も同じです。現地や海外で調達しているスキムミルクパウダーや砂糖は、全て日本と同じ厳正な審査基準をクリアしたものでなければ使用しません。日本の商品との差は一本の内容量のみで、日本は65mlですが、フィリピンでは80mlになっています。
編集部
フィリピンではどのくらい飲まれているのでしょうか。
小野瀬さん
創業から10年ほどは、日配10万本台の厳しい時期もありましたが、昨年度は160万本台を記録し、直近の日配平均は200万本に迫っています。「OK ka ba tiyan?」(フィリピン語で、あなたのお腹大丈夫?)で人気を博したテレビコマーシャルもありましたが、基本的にはヤクルト全体として農耕型マーケティングを行っています。まずはヤクルトの効能効果を知って試していただき、毎日飲み続けることで確信を持って継続していただけるよう、地道に活動を続けてきた成果だと思います。
編集部
乳製品自体あまり普及していなかったフィリピンならではの取り組みは?
小野瀬さん
日本と大きく異なる点として、こちらでは食中毒や赤痢、腸チフスなどに日常的にかかりやすい現状があります。行政機関や病院に許可をいただいて、そうした患者さんにヤクルトを無償提供する活動をしています。下痢が止まらなかった患者さんでも、飲み始めて症状が改善したとの事例も多く聞かれます。こうしてヤクルトの効能効果を実体験している方が多く、それが口コミでも伝わっているようです。感謝状もたくさんいただいています。
編集部
販売網はどのくらい広がっていますか。
小野瀬さん
ルソン、ビサヤ、ミンダナオと北から南まで87%のエリアをカバー。人口の少ない非常に小さな離島を含めると7,000もの島々から成る国ですので、現実的には90%程度までカバーできればと考えています。地方は主に販売代理店経由ですが、その代理店もマネージャーやスーパーバイザーだった元社員が主に経営しています。まだ一般家庭にお届けするヤクルトレディが展開できていない地域もありますので、線でつながった販売網を面として広げていくのがこれからの課題ですね。
編集部
プライマー編集部にもいらしているのですが、ヤクルトレディさんは何名ぐらいでしょうか。
小野瀬さん
メトロマニラには、センターと呼ばれるヤクルトレディが集まる拠点が38箇所あり、現状、約1,050名。地方に約1,650名います。オフィス街を除いては原則として自分の居住地域を担当するようになっていますので、地域に入って行きやすいですし、効能効果も説明しやすい。上・中間層の方がスーパーでパック購入されるのに対し、ヤクルトレディからは1本ずつ購入できるようになっています。やはり彼女たちに正しい商品知識を持ってもらうことが重要ですので、朝のお届けが終了した午後に拠点に集まり勉強会を定期的に実施しています。
編集部
1本売りや宅配の仕組みも含め、ヤクルト本社の海外展開はBOP(ベース・オブ・ピラミッド)ビジネスの成功例として取り上げられていますね。
小野瀬さん
確かに日本の複数の大学から調査にも来ていただいてますが、元からそのビジネスモデルを狙っていたわけではありません。当社の創業理念「代田イズム」に基づくビジネスが、途上国において成功した結果、「BOP」の新ビジネスの定義に類似している点が多々あるためと思います。まだ日本が貧しくて感染症で亡くなる方も多かった時代に、「何とか予防医学によってそれを防げないか。葉書一枚、タバコ一本買える値段で毎日続けられる方法はないか」とヤクルトの創業者である医学博士代田稔が研究を重ねた成果がヤクルトという製品で、その姿勢は今も変わりません。
編集部
新製品の「ヤクルト ライト」が発売されますね。
小野瀬さん
これまでフィリピンでは35年間戦略商品であるオリジナルの「ヤクルト」を販売していましたが、健康志向の高まりを受けて「ヤクルトライト」を投入します。6月中旬からまずはメトロマニラの一部のスーパーで販売予定です。砂糖の代わりに低カロリーの甘味料を使用し、カロリー25%カット・脂肪分ゼロとなりますが、ヤクルト菌の量はオリジナルと変わらず一本あたり80億個入っています。
編集部
第三、第四の商品の投入予定はないでしょうか。あるいは大容量サイズのヤクルトなどは?
小野瀬さん
大腸の改善を促すビフィズス菌の入った製品は温度変化で味の変化が起こりやすいので、コールドチェーンの問題がある現状では難しいですね。一部のお店ですが、夜に冷蔵ケースのコンセントが抜かれるような販売環境では困るのです。ジョアのような果汁が入っているものは尚更で、おいしくないものをお客様にお届けするわけにはいきませんから。その点ヤクルト菌は温度変化にも比較的強いので、製造後45日間は一本80億個を保証しています。大容量のリクエストも良くいただくのですが、一日一本を継続することで腸内菌叢が整うという効能のため、考えていません。
編集部
今後の展望や夢をお聞かせください。
小野瀬さん
現在のフィリピンでの一日当たりの販売本数は、人口に占める割合で2%強です(日本は8%前後)。それを3%、日配300万本にするのが次の目標です。工場も既にフル稼働状態ですし、達成には全社的な仕組みに手を入れる必要もありますので、方針を明確にして社員と共に推進していきたいと思います。同時に、人々の笑顔の素晴らしい国フィリピンがもっと豊かになって、若い人が将来の希望を語り合える、そしてヤクルトを気軽に毎日飲んでいただき、人々が健康で楽しい毎日を送れる日の来ることが私の夢です。