逆境乗り越え成長 日本流の人材育成で社員と会社を幸福に
【プロフィール】
●KLab Cyscorpions Inc. President
野口太郎さん
1976年生まれ。サイバード、ヤフーなどを経て2007年、マニラでCyscorpions Inc.(現KLab Cyscorpions Inc.)を設立、Presidentに就任。2011年、KLab株式会社(東証一 部3656)と業務資本提携を行い、2012年KLabの取締役にも就任。フィリピン拠点で開発したオンラインゲームは「真・三国志バスター」「Lord of the Dragons」など。
大手IT事業会社KLab(東証一部)の世界戦略で、開発の中心を担うKLab Cyscorpions。前身となるCyscorpionsをマニラに 設立してから5年半余、フィリピンで陣頭指揮をとりながら、波瀾万丈を経て成長を推し進める野口太郎社長にお話をお聞きしました。
編集部●まずはご自身のIT業界との関わりについてお聞かせください。
野口さん●学生時代、サイバードというベンチャー企業に技術担当のアルバイトから参画しました。まだ社員が6、7人しかいない頃で、黎明期のiモードのコンテンツ製作を担当させてもらいました。その後iモードの普及に伴ってサイバードはJASDAQ市場に上場し、急速に事業を拡大させていきま した。
編集部●成長する会社の中でどのような役割を果たされたのでしょうか?
野口さん●2001年くらいから会社の海外展開が始まりました。私は小学6年から高校3年まで英国で過ごしたため英語を話せたこともあり、中国、香港、フランス、スペインといった国々の携帯電話事業者への、コンテンツ導入のコンサルティングを担当しました。この時、責任者となったことで海外 事業全般について鍛えられました。
編集部●その後、ヤフージャパンをはじめ、転身を重ねられました。
野口さん●2003年、サイバードを退社しました。携帯にとどまらずパソコンという大きなフィールドで活躍したいと思ったんです。ヤフーではサービス全体を統括するセクションにいましたが、当時は海外のヤフーで出来上がったサービスをそのまま日本で展開することがほとんどでした。日本独自の積極的 な動きをしづらい面があり、やや息苦しさを感じていました。そんな時、ある投資家から豪州で事業の立ち上げを手伝って欲しい、という話が来たんです。元々海外での活動に大きな魅力を感じていたので、転籍を決意しました。
編集部●その後、フィリピンへ進出されます。
野口さん●豪州経済が好調を維持し、ほどなくして人件費が高騰、円に対する豪ドルも上昇を続ける逆風となったんです。そのとき、「それじゃあ人件費もはるかに安く英語圏のフィリピンだ」と。しかし顧客もビジネスプランもありませんでした。ただ「こんなサービスをやりたい」という大きな夢だけはあった んです。
編集部●2007年にCyscorpions(サイスコーピオンズ)を設立されました。
野口さん●日本人4名とローカルスタッフ16名の合計20名でスタートさせました。ところが何一つサービスを完成できないまま、資金だけはどんどん消えていった。その間、妻の貯金に手を付けたりとか(笑)。これはまずいと思い、まずは日本からの開発受託を取ろうと単身、日本に逆出張して営業し ました。
編集部●一から仕切り直しですね。
野口さん●一人で日本に戻って、片っ端から企業を回りました。そういう時に昔の知り合いには頼りたくない性分なんです。だから営業先は全て新規。漫画喫茶に寝泊まりしながら、ネット難民さながらの状況の中での営業でした。あの時は本当に大変で、ようやく狭いレンタルオフィスを借りた後も、デ ィスカウントストアで調達した寝袋にくるまりながらの生活でした。本来は宿泊が禁止の建物で、夜中に守衛さんに見つからないかいつもハラハラしていたのを覚えています。この時代におつきあいいただいた方には、今でも本当に感謝しています。
編集部●いよいよ本格的な成長が始まります。
野口さん●最終的に設立から一年ほどかかって黒字にこぎ着けました。社員も成長を重ね、当時最先端だった携帯コンテンツやアニメデコメの製作などをさせていただきました。
編集部●オンラインゲームの開発・運営で有名なKLab(クラブ)と業務資本提携します。
野口さん●2011年初秋にKLabが東証マザーズに上場した際、代表の真田哲弥さんに挨拶に行きました。その時に、「これからは海外の時代だから一緒にやらないか」と言っていただいたんです。実質1ヶ月後の12月には業務資本提携を結びましたので、ものすごいスピード感ですよね。
編集部●提携の結果、KLab Cyscorpions(クラブ・サイスコーピオンズ)は、グループの開発中心拠点という重責を担います。
野口さん●グループで同じく開発を担当するKLab China(上海)には負けないぞ、という思いです。今後はさらに優秀な人材の確保が欠かせません。フィリピンで同業の米国大手企業は高給で経験者を引き抜きます。が、弊社は日系企業ですので、一から人材 を育てる真逆のアプローチです。給料で負けたとしても、会社の仕組みで社員に魅力を感じてもらい、長期的な視野で優秀な人材を育てたい。そうしたやり方で社員も会社も幸福にしながら、今年中に300名体制とするのが目標です。
編集部●人材育成への考え方は?
野口さん●ITと言っても、全てのサービスは人が作る物だと思います。いい人を採用し、育てないと会社は発展しません。社員へは、この国だからこそ当たり前のことを当たり前にしなければならないと思います。ちゃんと説明をしてあげないとわかってもらえないことが多いですから。今のところ残念ながら フィリピンには即戦力はいないと思っています。ですから採用は地頭重視で、IQテストを実施し、社員を教育しています。
編集部●社員の福利厚生について聞かせてください。
野口さん●無料の社員食堂があります。昼食の他、月曜の朝はフルーツを、金曜の朝はシリアルを出すサービスもしています。また、アヤラ駅と会社を自社のジプニーで朝夕2便づつ往復しています。
編集部●フィリピンで立ち上げた会社が、技術力を背景に日本の大企業から出資を受けて飛躍的に成長する、いわば「フィリピンドリーム」モデルとも感じますが。
野口さん●私としては事業の成功を信じてやるべきことをやってきただけです。まだまだ夢の実現だとは思っていなくて、序章に過ぎません。KLab本体から、内需が急速に拡大しているASEANの中で、最大の英語圏でもあるフィリピンで提携したのは成功だったと思ってもらえるよう、期待を裏切ら ないようにしたいですね。これからも日々努力を重ねることを最も大事にしていきたいと思います。
編集部●フィリピンでの今後の事業展開についてお聞かせください。
野口さん●スマホはこれからが成長分野です。今後5年くらいで爆発的に利用者が伸びます。今は日本とアメリカが進んでいますが、今後はフィリピン人のためのサービスを立ち上げたいですね。そういうサービスを生み出すためにも、弊社ではスマート・エクスペリエンスと称して、入社3ヶ月を過ぎた社員 に最新のスマホを貸与して使ってもらっています。
編集部●休日のすごし方は?
野口さん●テニスや水泳で汗を流すなどしています。あと、ウサギ、犬、ニワトリ、ハリセンボン(笑)とかいろんなペットを飼っているので、その世話だけで大変です(笑)。
編集部●フィリピンで頑張っている人へのアドバイスがあればお願いします。
野口さん●国柄や文化が違うことによる不満があったとしてもくさっていないで現状を受け入れて頑張れば、頑張った分だけ自分に返ってきます。私自身も何回もあきらめようと思ったことはありますが、めげてる暇があったら頑張るしかないですね。
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【好きな書籍】
「星を継ぐもの」
J・P・ホーガン著
小学生の頃から何回も読んでいるSFの名作。人類愛に満ちていて、ハードなストーリーながら最後に希望が残っているところが好きです。主人公の物理学者の仕事への向き合い方にも憧れます。