波乱の人生、縁に導かれて、英語教育を通じて日本へ恩返しを
【プロフィール】
EEN HD co.,LTD 代表取締役会長
株式会社eien代表取締役社長兼CEO
李 百鎬(イ・ベクホ)さん
1963年ソウル市生まれ。東京大学大学院卒業後、大学講師を経て、2006年株式会社eien設立。マニラに4月、レストラン「良い縁」をオープン。韓、日、英、独、仏の各国語を話す。
次世代を担う日本人にとって、もはや必須条件ともいえる英語。いちはやく日本からフィリピンへの英語留学をコーディネートする会社を立ち上げ、マニラ、セブで学生、 ビジネスマンらを受け入れる英語学校、さらにはオンライン英会話教室などを運営するEEN HD co.,LTDの李百鎬会長にお話をお聞きしました。
編集部 ●日本人を対象としたフィリピンへの英語留学ビジネスを始めたきっかけを教えていただけますでしょうか。
李さん ●韓国人である私は、20代で縁あって日本で暮らすことになりました。のちに日本人の妻と結婚して子供を授かったのですが、普通に暮らしている限り、子供たちは日本語しか話しません。せっかく父親が外国人なのに日本語だけではもったいないな、という思いがありました。しかし、当時大学の非常勤 講師だった私に、子供たちを欧米に留学させるだけの余裕はありませんでした。そんな折、大学院の後輩に「フィリピンなら安く英語留学できるようだ。韓国人は年間10万人も留学しているらしい」と教えてもらったのです。その時はそんな危なそうな国に子供たちを行かせる訳には行かない、と思いました。しかし 百聞は一見にしかず、とにかく自分で現地の状況を確かめに行きました。結果的に大丈夫だと判断し、当時小学生だった2人の子供を1年間フィリピンに留学させました。帰ってきたら2人とも英語ペラペラ(笑)。彼らは中学校で英検2級、高校で1級を取得しました。元来起業を考えていたので、実の子の 成功体験という確信のもと、これをビジネスとして発展させよう、と思ったわけです。
編集部 ●大学講師から一転、起業されたのですね。
李さん ●当時、日本ではフィリピンへの英語留学ビジネスはまだ誰も手を付けていませんでした。先人の追従ではなく、冒険してでも新しいことをやりたいという性分の私にはうってつけでした。「フィリピン英語留学、これだ!」と。
編集部 ●豪快な行動力の源は?
李さん ●ひとことで言ってしまえば劣等感です。私は韓国で最も難関と言われていた高校を卒業したのですが、卒業生の多くが国内随一のソウル大に進学する中、別の大学へ進みました。そのコンプレックスが拭えずに、1度大学をやめた経験があります。再度入り直した別の大学では、バンド活動に没頭しま した。劣等感をバネに本気で取り組み、ついにはプロとなってレコードも出しました。この時代に紆余曲折の経験をする中、考えていたのは「私がこの世を去っても私たちの作った音楽は永遠に残る」ということ。例えばビートルズのイエスタデイのように。その思いが、現在の社名エイエンにつながっています。
編集部 ●すでに波瀾万丈の予感がします。
李さん ●韓国芸能界には2年ほど身を置いたのですが、この世界特有の堕落に陥りそうになったこともあり、その後、軍へ入隊しました。除隊後、米国で音楽プロデュースを学ぶつもりでしたが、せっかくなら隣国日本の音楽業界事情ものぞいてみようと訪れたのがきっかけで、以後長く続くことになる日本との縁 ができたのです。
編集部 ●日本で東大大学院へ入学されました。
李さん ●1年間浪人の末、合格した時は本当に嬉しかったですね。ソウル大へ進めなかった劣等感をついに克服した気がした。大学院修了後は、大学や専門学校などで講師を勤めました。
編集部 ●専攻は何だったのでしょうか。
李さん ●社会学の一領域である文化社会学という分野で、スポーツやレジャーといった余暇の遊戯性を研究しました。私は社会を動かしているのは「楽しさ」だという信念を持っています。楽しくないと人は根本的に幸せになれませんから。
編集部 ●起業にあたっての不安はありませんでしたか。
李さん ●私はこれまで、企業に属したことがありません。会社勤めの経験がない人間がビジネスを立ち上げるのは当然不安でした。失敗したらどうしようかと。では人間 の成功、失敗はどのように形作られるのでしょうか?もちろん様々な要因がありますが、意外と見落としがちで実は最大の要因は、広い意味でその人の持つ「運」だと私は考えます。
編集部 ●「運」次第、ですか?
李さん ●物事は偶然の出来事、出会いでその行く末は変わります。どれだけ論理的、合理的に行動したつもりでも、我々にできることはほんのわずかです。社会学の講師時代には、最初の授業で必ず「運」についての話をしていました。授業に興味のなさそうだった生徒も、この話でぐっと身を乗り出してきまし たね。思えば私の人生がそうでした。韓国で芸能界にいたこと、日本で学者となったこと、フィリピンでビジネスを立ち上げたこと、全て偶然と必然が重なり合った巡り合わせの産物です。決して論理的思考は必要ない、という意味ではありません。自分の力だけではどうにもならないことは、周囲の助けや支えがあっ てこそ道が開けるものなのです。
編集部 ●なるほど。最後に今後の目標をお聞かせください。
李さん ●将来的に会社を日本の教育分野で最高峰の企業のひとつに成長させたい。実際は大変ですが、10年後、少なくとも現在の業界最大手企業の尻尾が見えるくらいの位置にはいたい。そうすれば自ずと日本のグローバル化にも貢献できます。日本人の妻と子を持つ私が、日本の発展を望まないは ずがありません。それに東大では学費免除で学ばせていただきました。日本の皆さんの税金で学ばせていただいた恩返しをするのは当然のことと考えています。
編集部 ●日本語はどのように学ばれましたか?
李さん ●完全に独学です。24時間日本語漬け。周囲は全員先生だと思って、電車のつり革を見てこれはなんと読むのですか、と乗り合わせたお客さんに聞いたりしていました。日本人特有の「恥ずかしい」という感情がないんですよ(笑)。
編集部 ●1年の生活サイクルはどのようにお過ごしですか?
李さん ●昨年はフィリピンに5ヶ月、日本に3ヶ月、残りは韓国、欧米、東南アジア諸国などを行ったり来たりといった感じです。
編集部 ●さらなる事業展開は?
李さん ●今後、フィリピンで英語学校協会といった組織を設立したいと考えています。組織化することによって、フィリピン政府に更なる日本人学生の招致施策を要請できたりするようになります。また、「楽しさ」を人生のテーマにしてきた延長として、今後は飲食業にも力を入れていきます。今、東南アジアは 元気です。増え続ける中間層には上昇志向がありますから、少々高くても美味しくてヘルシーな日本食が食べたいという需要がさらに増えるでしょう。
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【好きな書籍】
古典哲学や経済などの学術書