フィリピン進出50周年の節目を迎えて更に飛躍をし続ける
Panasonic Manufacturing Philippines Corporation President
林 眞一さん
1964年大阪生まれ。学生時代は関西で過ごし、1988年松下電器(現パナソニック)に入社。輸入商社部門でBtoBの営業を担当。1994年から東京勤務。2012年にシンガポールを皮切りに海外勤務。マレーシア勤務を経て、2016年1月よりフィリピンにて現職。
座右の銘
「随所作主、立処皆真(随所に主たれば、立つところ皆、真なり)」です。いろんなことに自分の意思を持って、一所懸命に行動すれば、周りに翻弄されることなく、真実が見えてくるという意味。何が正しくて何が間違っているか、自分の意思がないと見えないことも多いので、苦手な分野であっても、自分の考えを持って行動するよう心がけています。
フィリピンの文化に根付いた実用的で、高品質の家電を提供し続けたパナソニック。その大きな船の舵取りを担う林さんは節目の今年、パナソニックビューティーの販売にも力を入れ生活家電から次のステップへ。フィリピンの経済成長の波にのり、新たなパナソニックの歴史を刻んでいきます。
編集部
パナソニックに入社したきっかけは?
林さん
グローバルな海外との接点がある会社で、本社が大阪という安易な理由で決めました。(笑)学生時代はずっと関西で過ごしたため、友人が関西圏に多かったので。海外志望は強くて、日本でやるよりも違う文化の中で販売や事業をやりたいなと。もともと理系で語学は一番苦手だったんですが、それを克服したいという思いもありましたし、日本の中でビジネスをするよりは、会社に就職するからにはグローバルな大きな舞台で働きたいと思っていました。
編集部
Deloitte Consulting Southeast フィリピンでの事業内容は?
林さん
簡単に言いますと電気製品の製造・販売事業です。取扱い製品には、フィリピンで作っているものと輸入しているものがあり、国内で製造しているのは、エアコン、冷蔵庫、洗濯機、扇風機の4つの家電です。どちらかというと普及モデルの台数が多く出るところをフィリピンで製造していて、例えば洗濯機でいうと洗うだけの一槽洗や、洗って脱水するだけの二槽洗になります。それ以外に日本で売れているような全自動とか、フロントローリングというドアが前面についているものは輸入しています。また、エアコンで言うとスプリットタイプという室内機と室外機が分かれているものは輸入で、こちらではよく見かけるウインドタイプは、フィリピンで生産しています。それ以外に、テレビ、プロジェクター、セキュリティカメラ、ファックスなどの事務機器などのいわゆる企業向けの製品は輸入販売しています。
編集部
輸入しなければならないのですか?
林さん
パナソニックの場合はそういう方針がクリアで、ローカルに根ざした製品は、現地で作って、グローバルに、ある程度モデルが統一できるものは、海外の集約生産型の輸出拠点で作って、各国に輸出しています。
編集部
フィリピンでは今年進出から50周年ですね。
林さん
今年に入ってから社内が特別な雰囲気になってきているような気がします。皆50周年だから頑張ろうという雰囲気が出てきているというか。また、市場に対しても今年から50周年を銘打って、キャンペーンや広告宣伝をうっているのですが、反響はすごくいいですね。外側から見ていただいている目も変わってきているのかなという気はします。
編集部
具体的にフィリピンではどのような製品が人気ですか?
林さん
こちらの文化に根ざした商品がいくつかありまして、1つは冷蔵庫のB10シリーズ。冷凍庫と冷蔵庫の同じ大きさのものを縦に2つつなげたような製品です。普通は冷凍庫の方が小さいですよね。これはサリサリストアでも使われているのですが、お店をオープンするときに冷凍庫と冷蔵庫を2台買わないといけないところを発想の転換で1台で2台分にしてしまおうと。2台買うよりは2〜3割安くて済みます。これはサリサリ文化においてできるだけ安く皆さんに買っていただこうと開発したフィリピンならではの製品で、コンスタントに売れています。
洗濯機ですと、洗うだけの機能を研ぎすましたような、一槽洗といって大きなバケツの下にスピンモーターとパルセーターという回転洗浄の部品がついたものです。これは低所得の方にも電気製品を使っていただこうと、安くて洗う機能を追求したもので、89年に発売して以来フィリピンに根ざした商品になっています。洗濯機と脱水機がついている二槽洗は、他のアジアでも販売されていますが、こちらは気候がカラッとしていますので、脱水機がなくても割と良く洗濯物が乾くようですね。
また最近、特に都市部ではミドルからハイエンドの製品を求める傾向が強くなっているので、「Japan Quality」というロゴを前面に押し出して、高級家電の販売を促進していますが、とても評判が良く、前年から二桁成長で販売が伸びています
編集部
パナソニックビューティーの販売をフィリピンでも本格的に始められましたね?
林さん
去年あたりから1世帯あたりのGDPも3000ドルを越えてきたということもありますし、もともとフィリピンはオシャレに気をつかう女性も多いので、以前から販売したいと思っていました。ナノイー機能付きのドライヤーだと1万円近くしますから、購買力という点がネックだったのですが、市場が熟していない今から始めることが重要という判断をしました。他の国より遅かったのは、そもそも冷蔵庫や洗濯機という生活家電が最初だろうという考えによります。しかし2年くらい前からマニラ近郊の世帯所得が上がってきているので、そこをターゲットにして徐々に広げていきたいですね。口コミでどんどん広げていく最初のステージだと思っています。売上の方はまだまだこれからですが、我々の初期調査でもサロンに行って結構なお金を使っていることが分かっていますので、効果があると実感していただければ広がっていくと思います。目標としては3年後の2020年までに今の8倍くらいの規模にはしたいです。
編集部
海外にいくつも拠点がある中でのフィリピンの位置づけとは?
林さん
1億人の人口がある国ですので、将来的にも内需が魅力的です。最近政治的にも安定してきていますし、東南アジアの中でも一番高い経済成長をしています。この国で販売シェアを上げていけば、パナソニックの成長につながるという観点で、内需にフォーカスし国内シェアを取っていくという市場の位置づけでいます。
編集部
フィリピンで事業を行う上での魅力やメリットは?
林さん
魅力はやはり内需です。今ここでブランドイメージをつけておけば、今の購買世代が仮に40〜50代だとすれば、その人たちの子供たちもまたパナソニックを選んでくれますし、そういう連鎖を起こせる国というのが魅力です。
編集部
フィリピンで事業を行う上で苦労している点は?
林さん
これまでの政策として、内需目的の製造業には税制優遇などの恩恵がありませんでした。なので他のアジアの国に比べるとそういうところが劣っている気がします。新しい政権で検討されている製造業全般の優遇政策に期待しています。あとフィリピンは電気代が高いことですね。ソーラーパネルの販売もしていますので、工場にもソーラーパネルをつけて電気代を抑える工夫をしています。しかしながら、日本と同じくらいで、マレーシアなどとくらべると2倍、電気代の優遇を受ける場合でも1.5倍はしますので、どうしても製造業にとっては厳しいです。
それと物流面のインフラが弱いですよね。交通渋滞がすごいじゃないですか。それと7000以上からなる島国ですので、離島には製品を船で運ばなければならない。そういう物流インフラをもう少ししっかりしていかなければならないし、それに対する我々の改善の取り組みとしてサプライチェーンのリードタイムをできるだけ短くするような試みをしていますが、一朝一夕には安定していかないですね。
編集部
フィリピン人スタッフの優秀なところ、大変なところは?
林さん
フィリピンの方は英語ができますので、コミュニケーションの取りやすさはアジア随一だと思います。非常に明るい性格ですし、まじめな方が多くてきちっとやってくれるので助けてもらっています。また手先が器用でデザインとかソフトウェアの開発の英知に富む方が多いですね。大変なところは、これまでサービス業中心の産業構造が続いていたので、工学系の学生さんの募集が少ないところです。BPO、コンサルティングや会計士などの職種に人がたくさん集まっており、モノづくりの技術に特化した人材を集めるのが大変です。
編集部
フィリピン国内で今後どのようなビジネスを展開される予定ですか?
林さん
製品のカテゴリでいくとビジネス用の分野を伸ばしていきたいです。不動産投資が旺盛なので、コンドミニアムとかオフィスビル向けに、大型のエアコンや冷蔵庫、監視カメラ、プロジェクターなどのハードとそれに関連するソフト、またソーラーパネルなどのソリューション事業を強化していきたいです。パナソニック製品は、高機能・高品質という点で優れていますので、信頼性をご要求されるお客様やデザイン性が強く求められる用途に、パナソニックのソリューションを提供できればと思います。
編集部
心に残っている本は?
林さん
最近仕事関係の本は読む時間がとれないのですが、時間ができれば古い本を引っ張り出してきて読みます。経営関係の本で一番好きなのは、ヤマト運輸の小倉昌男さんが書かれた『経営学』です。ものすごい細かい分析とそれに基づいた戦略を立てて試行錯誤しながらやっていく詳細なプロセスが書いてあります。経営者としてここまでできるか、という尊敬の念も含めて勉強になる本です。あとはIBMの大改革を実践したルイス・ガースナーの『巨象も踊る』ですとか、今パナソニック本社の社外取締役をされている冨山和彦さんの『会社は頭から腐る』などが心に残っていますね。また、司馬遼太郎さんも好きで『坂の上の雲』や『竜馬がゆく』は繰り返し読んでいます。村上春樹さんのエッセーで『走ることについて語るときに僕の語ること』という本があるのですが、ランナーの気持ちを反映してくれるいい本です。走ることが好きなので。村上さんもずっと走られているんですが、走っているときに考えていることとか、トレーニング方法についてとか、ランニングの目標にどう取り組んだとかいうことが書かれています。走る方にとっては非常に面白い本だと思います。
編集部
プライベートの時間はどのように過ごされますか?
林さん
ジョギング、ゴルフと読書です。ジョギングは2002年くらいから本格的に始めました。フルマラソンには20回前後出ていますが、残念ながらここ2年は全く走れていません。週に1〜2回、土日に10〜20キロ走ります。ボニファシオのマッキンリーの辺りにプロムナードみたいなものができたんです。大体片道1.2キロあるのですがそこを延々と往復しています。ゴルフは月に2、3回です。これは人に言えるような腕前ではないです(笑)。
編集部
ご自身の今後の展望や夢についてお聞かせください。
林さん
仕事面では、フィリピンでのパナソニック製品のシェアを上げて、いま取扱うすべてのカテゴリでナンバーワンにしていくことが夢で、そのための戦略を立てたり、社内の改革を進めていきたいです。ナンバーワンになれる会社というのは何か理由があるんです。他社よりも優れている点が。例えばモノづくりの品質が高いとか、生産効率が良いとか、社内のPDCAサイクルを回すのが速いとか。それを目標にすることで、自分たちの会社を改善することができますよね。
プライベートでの夢は、山登りが好きなので日本の百名山をいつか制覇したいですね。どの山が百名山とこれまで意識して登ったわけではないのですが、今のところ20くらいは登ったはずです。それをまじめに100全部制覇したいですが、リタイヤした後の楽しみにとっています。