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第三十五回ビジネス烈伝 / FAST RETAILING PHILIPPINES, INC. 久保田勝美さん

セブ1号店がオープンしたユニクロ。
LifeWearを届けていく。

久保田勝美さん



FAST RETAILING PHILIPPINES, INC.
COO 久保田勝美 さん

1963年東京生まれ。大学時代にブラジルで一年間あしなが育英会の留学研修。1987年YKKに入社。翌年より19年間をブラジル、アメリカ、メキシコ、シンガポールにて勤務。2006年ユニクロ入社後、ベトナム、カンボジア、ロシアなどでの勤務を経て2012年4月にマニラ着任。
 
〈心に残っている本〉
最近では、アジア経済研究所所長「白石隆」さんの「海の帝国」です。読後、お会いしに行ってお話を伺いました。アジアやフィリピンの成り立ちを捉えることができる良い本です。

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2012年6月、MOAにフィリピン1号店を開店したユニクロ。それ以降、店舗数を26と伸ばし、10月にはセブ1号店をオープン。今後、フィリピン国内で2020年までに120店舗を目指す。人々の「ライフ」に関わる服を提供し、フィリピンのすべての方々にユニクロの魅力を伝えたい。そんな想いを持つ、FAST RETAILING PHILIPPINES, INC.のCOO久保田さんにお話を伺いました。

 
編集部

 

 2012年6月、MOAにフィリピン1号店を開店し、それ以降も店舗数を伸ばし、今年10月23日にはセブ1号店をオープンしたユニクロ。年内にはフィリピン国内27店舗体制へ。ここまで順調に見えますが、道のりはいかがでしたか? (順調であった点/順調でなかった点)

 
久保田さん

 

順調であった点は、人材育成ですね。現在、26店舗ありますが、そのうち25店舗では店長を含めて、全てフィリピン人社員で運営しています。フィリピン人の「ユニクロのプロ」が育ってきました。


順調でなかった点は、我々の成長スピードが遅いと感じている点です。フィリピンで事業を開始してから3年経ちましたが、フィリピンの顧客・市場の成長、拡大についていけていない。現地で経営している自分の事前準備と、実行の積み上げが足りなかったと反省しています。今は戦略を立て直し、日本のユニクロ本部やフィリピンの社員みんなと協力し
あって巻き返そうとしているところです。

 

編集部

 

フィリピンのお客さまにユニクロのどんな商品、どんなサービスを楽しんで頂きたいですか?

 
久保田さん

 

ユニクロの服は「LifeWear」です。私たちは人の「ライフ・生活」をよりよくする服を提供している会社です。すべての人にとって本当に良い服を、最高の店と最高のサービスで届けていく、ということを強く意識しています。「フィリピンのお客さまだから」ということではなく、グローバルに実現しているユニクロの魅力をここフィリピンでどれだけ伝えられるか、ということが最も大切です。

 

編集部

 

以前のインタビューでは、ユニクロがグローバル展開をする中で、ローカライズする余地がある点として、接客などのコミュニケーションを挙げられていました(第8回 ビジネス烈伝より)。お客さまの挨拶に米国では「How are you doing?」と話しかけますが、フィリピンでは「Welcome to Uniqlo」の方が馴れなれし過ぎなくて合っているとのことでした。現在、この点に関してはいかがでしょうか?

 
久保田さん

 

ローカライズに関しては合理的な面と感覚的な面の2つがあります。まず1つ目は、気候、暦、社会インフラに適した事業展開を心がけています。フィリピンは年間通じて夏物が売れる気候、クリスマスが賑やか、インフラは通信、交通がまだ発達しきっていない、など。こういった点は感覚ではなく、合理的に説明がつくところです。当然夏物が売れるから、夏物を強めていくといったように対応していかなければなりません。


もう1つ適合化しようとしているのは、コミュニケーションの違いです。例えば広告について。日本の場合は表意文字の漢字が中心なので、「暖」という文字を見た瞬間に、感覚として暖かく感じるはず。一方、表音文字である英語で「warm」と見ても、直接は暖かいという感覚は受けない。頭の中で「warm」と発音して、感じ始める。伝えることは同じでも、伝え方は言語によって違います。日本語の文字をそのまま英語に訳しても、伝わる度合いはまったく違う。そこで、コミュニケーションはしっかりと「音」や「記号」にして、わかりやすく伝わるように心がけています。

商品自体については、ほとんどローカライズをする必要はありません。フィリピン人は派手好き、と言われますが、そんなことはないと3年やってきて感じています。色別の売れ行きを見ると、フィリピンだからといってそれほど日本と変わるものではない。思い込みで変にローカライズをするよりは、着心地の良さ、見栄え、機能、耐久性など、ユニクロ商品が本来持っている価値を実感してもらうことが大切だと考えています。

 また、お客さまからの苦情の9割以上は、お客さまが期待しているユニクロと、私たちがやっていることがずれている場合です。例えば「サービスが悪かった」「従業員の笑顔が足りなかった」など。お客さまもグローバル化していて、ユニクロに対するイメージは、日本やニューヨークなど大都市の店舗に行った経験がもとになっていることが多いです。つまりユニクロに対する期待値が高い。その期待値に対して、どれだけ対応できているかが大事。先進国だから途上国だからというのは関係ありません。

 

編集部

 

フィリピンでの商品の売れ筋や客層にはどのような傾向がありますか?

 
久保田さん

 

色に関わらず、夏物がよく売れます。先ほども言いましたが、フィリピン人は派手好き、というのはただの感覚でしかなく、ベーシックな色が定番であることに変わりありません。またフィリピンでは、家族連れ、特に3世代くらいが一緒に買い物に来ることが多いので、家族全員が買い物を楽しめるような品揃えを意識しています。あと日本人と比べるとフィリピン人は少しサイズが大きい場合が多いようで、XLの売れ行きが良いです。ぽっちゃりとは言ってないですよ(笑)。

 

編集部

 

セブ進出に際し、新卒を中心に約120人を新規採用。接客のトレーニングはどれくらいの期間、どのように行っていますか?また、2012年6月のフィリピン1号店をオープンしたときからトレーニング内容に変更はありますか?

 
久保田さん

 

10月にオープンしたセブの店舗で中心になる店長候補生は、5月に採用し、マニラのUQ店舗で働きながら、ユニクロの接客、商品について学んでもらいました。その後、8月には現地で店舗スタッフを採用し、オープンまでトレーニングを続けました。新しいお店を出すときは、最低2カ月前にはスタッフを雇用して、トレーニングを積ませます。フィリピン人スタッフのトレーニング時に大切なのは、「ちゃんとやる」ということがどのようなことか、一つ一つもれなく丁寧に説明すること。日本人のように「行間を読む」ということをしないので、ひとつひとつやるべきことを示してあげる必要があります。

 

編集部

 

日本人スタッフはフィリピンに何名いらっしゃいますか?どんな役割でしょうか?

 
久保田さん

 

私を入れて16名おり、ユニクロビジネスの何らかの分野に関する「プロ」が来ています。例えば、私は経営全般を見るプロです。他には店舗経営、商品政策、人材育成、マーケティングなど分野は様々です。

 

編集部

 

フィリピン人の店長は何名いらっしゃいますか?フィリピン人店長のお店はフィリピン人だけで運営しているのでしょうか?

 
久保田さん

 

26店舗中、25店舗はフィリピン人が店長を務めています。規模が大きいSMメガモール店のみ日本から来た派遣員の女性です。全社で、従業員約1,200人がいて、現場にいる日本人は彼女1人のみ。あとの日本人社員はオフィスでの勤務、もしくはエリアマネージャー(4、5店舗の店長をサポートする管理者)となります。エリアマネージャー7人の内、6人が日本人ですが、1人は3年前のフィリピン進出時に入社したフィリピン人女性。これもフィリピン人の人材が育っていることの一例ですね。

 

編集部

 

他の国々に比べ、フィリピンで事業を行う魅力やメリットは?

 
久保田さん

 

一番はやはり、市場の将来性。一億人と人口が多く、かつ増え続けていること。平均年齢が若いので、大変魅力があります。洋服という、身の回り品を扱うビジネスなので、人口が売り上げに比例しますからね。現在、年間で200万人以上の子供が生まれていて、人口増加率も高いです。そして新しく中間層に入ってくる人々が、毎年260万~270万人ほどいるのですから、2年で500万人、シンガポールの人口と同じになります。この層に向けて商売できると大きな可能性があります。

フィリピンを選んだのは、市場や法規制などの理由で、ユニクロが短期間で成立しやすいと思ったからです。例えばベトナムについて言えば、現時点では、外資の小売業に対しては1店舗のみ認可して、2号店以降は全て許可制。許可の基準が不透明ですし、現実的にはほとんど許可が出ず、チェーン展開が出来ないのが現状です。フィリピンはそうした厳しい規制がなく、事業が成立しやすい。

 

編集部

 

フィリピンで事業を行う上で、苦労している点は?

 
久保田さん

 

コミュニケーションチャネルの違いですね。新聞広告、テレビ、雑誌など、日本のコミュニケーションチャネルをベースとした事業展開、マーケティングはここでは通じにくい。逆に言語が表音文字なのでラジオ広告が強い。コミュニケーションチャネルが少ない中、伝えるべきことをどのように伝えていくかが課題です。

 

久保田勝美さん

 

編集部

 

フィリピン国内で今後どのような事業を展開していくかお聞かせください。

 

久保田さん

 

「デジタル化」と「グローバル化」がキーワードで、特にデジタル化が加速しています。フィリピンでの、スマートフォンを通じたデジタルコミュニケーションの伸びには目を見張るものがあります。1年前までスマートフォンは国内で500万台ほどしか出回っていませんでしたが、来年3月には1,000万台を超えるでしょう。低価格化が進んでいるので、簡単に手に入りますよね。今後はデジタル・モバイルによるコミュニケーションの双方向化やeコマースにも力を入れて取り組んでいく方針です。ユニクロは、3年で世界中のeコマース販売比率を30%にしようとしています。

コミュニケーションがデジタル化すると、情報の検索様式も様変わりします。例えばレストランに行きたかったらどこのサイトを見ますか?フィリピンでは「Zomato」や「Awesome Planet」が人気です。これらのサイトが支持を得ているのは、見た人が「自分も体験できる」感覚を持てるからです。やはり、それにつながらないデジタルコミュニケーションは弱い。商品説明だけのページよりも、「Amazon」の様に商品の購入が可能なページの方が見たくなりますよね。だからこそ「Eコマース」はやらないと、強化しようとしているデジタルコミュニケーションの魅力が下がってしまう。なるべく早く、力を入れて取り組みたいですね。

 

編集部

 

目標として、フィリピン国内で2020年までに120店舗を目指されています。どの地域への出店を考えていらっしゃいますか?

 

久保田さん

 

フィリピン全国主要都市です。私たちが合弁しているSMグループのショッピングモールは、2020年には70以上、BDO銀行は400以上の支店を展開をする予定です。そう考えると120店舗は多くはない。また、ある自動車メーカーの方とお話をした際、フィリピン国内44箇所に拠点があるとお聞きしました。カーディーラーが44拠点もあるのだから、洋服の店が120店舗でも決して多くはない、と感じます。

 

編集部

 

フィリピンでのグローバル旗艦店オープンの計画はありますか?

 

久保田さん

 

早くやりたいとは思っていますが、グローバル旗艦店の条件は、ファッション業界の中で重要な都市にあるということ。マニラはまだそこまで行っていないと考えています。ただ、フィリピンでの事業展開の中心となるような1,000坪以上の素晴らしい店舗は、3年以内に造りたいと思っています。

 

編集部

 

座右の銘は?

 

久保田さん

 

「汝らは地の塩なり、塩もし効力を失わば、何をもてか之に塩すべき」(マタイ福音書)。世界中どんなところにいっても、自分にはなにか人のためになることがきっとできると信じています。

 

編集部

 

プライベートの過ごし方は?

 

久保田さん

 

映画、読書、スポーツですね。映画は「感情」を、読書は「知識」を、スポーツは「エネルギー」を豊かにしてくれます。

健康には気を遣っています。実は、フィリピンに来てから半年で16kg痩せたんです。加工食品を食べないようにして、フルーツなどの自然の食品を食べるようにしたら、健康状態が改善しました。

 

編集部

 

久保田さんご自身の今後の展望や夢についてお聞かせください。

 

久保田さん

 

もっとフィリピンの方に喜んでもらえるようなことをしたいです。本音を言えば、フィリピンにずっといたいと思っています。これまでのキャリアで27年間、駐在員として働き、フィリピンが8カ国目ですが、この国が一番好きです。ずっといる方法をこっそり模索中です(笑)。

一番は「人」の良さですね。ホスピタリティが高く、人に対して優しい。基本的に英語が通じるので困ることはありませんし、自然が豊かで食べ物は美味しく、治安は良い。フィリピンは治安が悪いと言われますが、これまで住んでいた南米などに比べたら大したことはありません。サーフィンが楽しめる「シャルガオ」か、綺麗な海が近く、人柄もとても良い「ドゥマゲッティ」あたりに住みたいですね。

 

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