Senior Business Analyst
土屋 和生
■フィリピンにおけるヘルスケア業界の現状
フィリピンのヘルスケア業界は、医師不足、医療施設/機器不足、医療施設間の連携不足を含む様々な課題に直面しています。例えば、国際機関や各国政府機関が公表する利用可能な最新データによると、フィリピンの医療施設における1000人当たりの病床数は1.0床、また、1000人当たりの医師数は0.6人であり、日本やシンガポール等の先進国や一部の東南アジアの国々と比較して低い値になっています。医療施設間の連携不足については、医療サービスの地方分権化により医療機関が州、市、町ごとに運営されており、地域により医療サービスの質が統一されていない(医療格差)問題が生じています。
図1: 日本および東南アジア諸国における病床数および医師数
※()内は対象年。
出所:世界銀行、OECD、各国政府が公表する最新データに基づきNRIにて作成
■遠隔医療サービスの導入
遠隔医療サービスの導入を加速することで上記課題を改善・解決できる可能性があります。フィリピンでは、音声通話等による簡易的な遠隔診察(相談)サービスを提供する企業は存在しますが、遠隔医療機器等を用いた遠隔医療サービス(例:遠隔医療を提供する医師に対して遠隔医療機器を用いて患者の生体情報を送信する等)は提供されていません(2020年6月現在)。遠隔医療サービスの導入が実現できれば、例えば、医療過疎地域や離島など医療アクセス困難地域と都市部の病院とを結ぶことでオンライン診療が可能になり、医療アクセス困難地域における医師不足、医療施設不足の改善が期待できます。また、多くの国民がバランガイヘルスステーションやプライマリケア施設(より専門的な二次医療、三次医療を受ける前の総合診断提供施設)の医療機器不備などを理由に直接病院を訪れることで病院が混雑する問題が生じていますが、当該施設に遠隔医療サービスを導入できれば、医療サービスの質の向上により当該施設を利用する患者が増え、病院の混雑緩和が期待できます。理想的な姿は、以下図2の通り、軽症患者はプライマリケア施設で診察し、より高度な治療が必要な患者についてのみ症状に応じて適切なレベルの病院で診察・治療する形態です。症状に応じた患者の照会においては医療施設間における連携も不可欠です。
図2: フィリピンにおけるヘルスケア施設の目指すべき姿
出所:NRIによる分析
■フィリピン政府の動き
フィリピン政府においては、2019年1月に下院委員会で「国家デジタル医療システムおよびサービス法(National eHealth System and Services Act)」が承認されるなど、医療サービスのデジタル化に向けた取り組みが見られます(2020年6月現在、国会での法案審議継続中)。同法案では、医療施設や医療サービスにおけるICT(情報通信技術)の活用促進、医療サービスの質およびアクセスの向上等に関する内容が規定されています。また、フィリピン保健省(Department of Health)は、「フィリピンデジタル医療戦略枠組計画(The Philippine e-Health Strategic Framework and Plan (2014-2020))」を策定し、医療施設間の情報共有、遠隔医療サービスや物流管理のデジタル化の促進等に関する取り組みを進めています。
NRIマニラ支店では、「フィリピンにおけるデジタルヘルスの活用」と題して、フィリピンにおけるヘルスケア業界の課題、政府の取組み、今後必要な施策等についてレポートを纏めています。レポートが必要な場合や上記内容詳細に関する質問がある場合は、([email protected])までご連絡ください。当該レポートは、LinkedInでも発信していますので(LinkedIn でNRI Manilaと検索)、是非ご覧ください。
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