海洋プラスチック汚染が近年問題視されています。海洋に放出されたプラスチックごみからマイクロプラスチックが生成し有害物質を吸着、海洋生物に悪影響を及ぼすだけでなく、食物連鎖を通じて人間にも影響を及ぼすと言われています。2021年にアメリカ科学振興協会で発表された研究において、海にプラスチックごみを放出する河川の多さと河川に流出するプラスチックごみの量から、フィリピンは海洋プラスチック排出国第1位と結論づけられたほど、フィリピンにおけるプラスチックごみは重要課題です。
フィリピン環境資源省の試算によると、2020年にフィリピン国内で排出された廃棄物量は約2億1千万トン、国民一人当たりの一日のごみ排出量は0.4kgでした。排出源をみてみると、一般家庭から排出されるごみが57%と半数以上を占め(図1)、ごみ組成でみると、52%が生分解性ごみ、28%がリサイクル可能なごみ、18%がリサイクル不可能なごみとなっています(図2)。人口増加、経済成長に伴い、2025年までの予測では、フィリピン全体の廃棄物量は年平均約2%で増加すると予測されています。フィリピン国内では約75万トンのプラスチックごみが埋立地に集められますが、一部は埋立地以外に廃棄されています(2020年のWorld Bank調査より)。フィリピンでは適切なごみの分別と回収がされておらず、これらがプラスチックごみ汚染の原因のひとつとなっています。
フィリピン政府はプラスチックごみ汚染を重要課題と認識し、解決のための政策を実施しています。2001年に公布されたEcological Solid Waste Management Act of 2000(生 態 的 固 形 廃 棄 物 管 理 法)では地方自治体に廃棄物管理の計画策定を義務づけ、市町村ごとに廃棄物分別施設の設立を推奨しています。廃棄物分別施設を設立することにより、埋立地に全ての廃棄物が一緒に廃棄されることを防ぎます。
廃棄物が適切に分別、回収、処理されない原因は、地方自治体がごみ収集に必要な労働力や車両、分別に必要な施設を十分に持っていないことにもありますが、ごみを排出する側の家庭や企業においてプラスチックごみ問題の認識不足が指摘されています。政府はこの状況を改善するため、 Extended Producer Responsibility Act of 2022(拡大生産者責任法)を2022年に公布しました。この規制はシングルユースプラスチックの低減やプラスチックのリユースやリサイクルの向上を目的に策定され、大企業に対し自社製品に使用しているプラスチックパッケージを消費者から回収しリサイクルすることを義務付けています。また、フィリピン政府は海洋ごみに関する行動計画the National Plan of Action Against Marine Litterを2021年に策定し、地方自治体や民間企業と連携しながら固形廃棄物の回収や処理、管理を強化し、海洋に放出されるごみを減らそうとしています。これらの政府の取り組みには民間側の協力も不可欠であり、フィリピンでは社会的企業がその役割を果たしています。ここでは代表的な3社をご紹介します。
TrashCash PHは、消費者のプラスチックごみの分別と回収の向上を目的としたアプリを提供しています。利用者がスマートフォンでプラスチックごみをスキャンすると最寄の回収センターが表示され、集めたプラスチックごみを回収センターへ持ち込むとアプリ内にポイントが付与されます。利用者は貯めたポイントを協賛企業の商品に交換できます。ポイントがインセンティブとなり、プラスチックごみ回収率を向上させる仕組みです。スキャンしたプラスチックごみの判別向上にAI技術を使用しています。現在このサービスはメトロマニラのほか、サマール島など一部の地方でも提供されています。
Salin Swapはメトロマニラのコンドミニアムの住人を対象に、アプリを利用した商品の配達・容器回収サービスを提供しています。利用者がアプリ内で提携企業の洗剤を購入すると商品が届き、使用後に洗浄、乾燥した容器を回収してくれます。このサービスはイノベーションとサステナブルビジネスモデルの推進を目的にフィリピン政府が2022年に主催したエコソン(エコとマラソンを掛け合わせた造語で短期間に集中的にサステナブルなビジネスモデルをつくり上げるイベント)で金賞を受賞しました。
Plastic Flamingoはプラスチックのリサイクル、アップサイクル、アップサイクルで製造したエコ建材の販売、地域住民へのごみ分別教育を行っています。フィリピン政府が公布した拡大生産者責任法を受けて、回収義務のある大手メーカーと契約し、契約企業の使用済プラスチック容器を回収するサービスも行っています。
フィリピン政府の規制、民間企業の取り組み、国民のごみ問題に対する意識向上、これら3つが上手く機能してはじめてフィリピンのプラスチックごみ低減が実現できます。
本連載は「サステナブルなビジネス」について数回にわけて解説いたします。
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