Extended Producer Responsibility Act (RA 11898)の企業への影響
前回はフィリピン国内で日々生成されるプラスチックごみが海洋汚染に与える影響についてご紹介しました。フィリピン国内の廃棄物回収や管理はまだまだ改善が必要です。フィリピン政府は2022年にプラスチックごみ管理に関する新しい法律「Extended Producer Responsibility (EPR) Act of 2022 (RA 11898)」を承認しました。2000年から実施されている固形廃棄物管理法をもとに修正されたものですが、ERP法にはサーキュラーエコノミーのコンセプトが入っており、製造、販売、利用、廃棄という製品が辿るプロセス全体で廃棄物の量、特にプラスチックごみを減らしていく取り組みが法律には含まれています。
なぜこの法律が必要だったのか?
フィリピンのプラスチックごみ発生状況を見てみましょう。表1に2021年に公開されたWorld Bankの調査結果からまとめた簡単なアセアン主要国比較を示しました。フィリピンは人口がインドネシアに次いで第2位であり人口に比例して年間に排出されるプラスチックごみの量も2番目の多さです。プラスチックごみ量を国民一人当たりの排出量に換算すると、比較した国のうちでは排出量が一番多い結果になっています。これは、プラスチック製品が廉価な生活用品(キッチン用品、その他日用品など)として低所得者層に利用されていることに起因します。特に、シャンプーや歯磨き粉などの商品を通常サイズで買う経済的余裕のない低所得層はサシェと呼ばれる小袋単位で購入します。World Bankの調査ではフィリピンでは毎日約1億6300万個サシェが廃棄されていると報告されており、シングルユースプラスチックの増加がプラスチックごみの増加に貢献しています。
表 1. アセアン主要国のプラスチックごみ排出状況
*プラスチック回収率:国内でリサイクル向けに回収されたプラスチック製品量/生産に投入されたプラスチック原材料量
出所)World Bank 2021年調査結果よりNRI作成
ERPが目指すプラスチックごみ回収改善
EPR 法は、廃棄物の買い取り、オフセット、商業・工業規模のリサイクル・堆肥化・熱処理等の廃棄物転換・処理施設の設置、沿岸部や公道等に流出した廃棄物の浄化等の活動を通じて、廃棄物の環境への流出防止を目的としています。プラスチックごみの回収はプラスチックフットプリントに置き換えられ、企業は生産時に発生するプラスチックフットプリントを廃棄物の回収やオフセットにより削減することが求められる。政府は表2のような回収率目標を設定し、目標値は年々増加する予定です。この目標を達成するためには、製品供給側とユーザー側の双方が、プラスチック包装廃棄物のリサイクル・回収に貢献する必要があります。
表 2. EPR法で定められたプラスチックフットプリント回収目標
出所)Republic Act (RA) No. 11898
EPR法で対象となるプラスチック包装
RA 11898は、「輸送、流通、販売のために商品を運搬、保護、梱包するために利用される製品」と定義されるプラスチック包装を対象としています。法律では以下のものが含まれます。
1.小袋、ラベル、ラミネートなどの軟質プラスチックで、単層か他の材料との多層かを問わないもの(例:調味料のパック、ラーメンのパッケージなど)
2.飲料、食品、家庭用品、パーソナルケア用品、化粧品の容器(例:シャンプーや液体洗剤のボトル)、カバー、缶、キャップ、蓋、その他必要品やカトラリー、皿、ストロー、スティック、防水シート、看板、ラベルなどの販促物を含む他の材料と層になっているかどうかにかかわらず硬質プラスチック包装材
3.レジ袋:商品の持ち運びや運搬に使用され、販売時に提供・利用される使い捨てのレジ袋(例:デパートやスーパーマーケットのショッピングバッグなど)
4.ポリスチレン(例:持ち帰り用食品容器、発泡スチロール製白色容器など)
EPR法が対象としている業種・セクター
大企業に分類される企業、または、中小企業のためのマグナカルタ法(MSMEs, RA 9501)において資産価値で中企業と定義される限度額(PHP 1億)を超える企業は、EPR法の対象となります。製品のブランドまたは固有の商品名で製品を流通させる者は、そのパッケージを回収する責任があり、さらに、ブランドの委託製造業者も対象となり、その責任はブランドを所有する企業に課されます。
同法は、プラスチック包装廃棄物の適切かつ効率的な管理を最大化するため、企業に対し、同法成立後6カ月以内または2023年2月頃に、プラスチックフットプリント回収に関する独自のEPRプログラムを設定し、実施するよう求めています。各社のEPRプログラムは、環境天然資源省(DENR)を通じて国家固形廃棄物管理委員会(National Solid Waste Management Commission,NSWMC)に提出されることになっています。さらに、企業は回収の結果をDENRが定める基準に基き第三者が監査した報告書の提出が義務付けられるなど、これまで販売後の自社製品パッケージの回収に取り組んでいない企業にとってはハードルの高い内容となっています。そこで、この法律では企業単独でプラスチック包装の回収を行うだけでなく、NGOや地方自治体と連携しプラスチック包装回収のしくみづくりを認めています。使用後のプラスチック包装の回収に投資が必要となる場合は、企業は税制優遇法に基づき財務的インセンティブの適用も申請できます。
企業がEPR法に準拠するためには
企業は、(1)この法律に準拠する義務があるのかを知り、(2)EPRプログラムのキープレーヤーは誰かを確認し、(3)自社のEPRプログラムを策定し、(4) EPRプログラムを実施し、2023年の締め切り前にDENRに報告書を提出する必要があります。具体的な内容は、2022年11月に発表される予定の実施細則に記載される予定ですが、できるだけ早い時期から自社のEPRプログラムを準備することが必要です。このスキームを通じて、企業がフィリピンや世界のプラスチック廃棄物の削減に重要な役割を果たし、より良い、環境に優しい未来に貢献することが期待されています。 NRIマニラでは、フィリピンの固体廃棄物管理に関する知見、EPRに関する政府の方針、規制詳細などを蓄積しておりますのでご興味ございましたらお問合せください。
本連載は「サステナブルなビジネス」について数回にわけて解説いたします。
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