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再生可能エネルギー購入の新制度【NRI 野村総合研究所 フィリピンビジネス通信 第30回】

 

フィリピンビジネス通信 ~コンサルの視点から~

連載:「サステナブルなビジネス」 を実現するために 第5回

 

野村総合研究所(NRI)マニラ支店では、フィリピン市場・文化に精通したコンサルタントが、フィリピン市場・業界調査や参入戦略、人材マネジメント、業務改革のコンサルティング、ITソリューションを提供しています。ここでは、コロナ禍で注目が集まる「サステナビリティ」について、Industry Solutions Consulting (ISC) セクターに所属するJonas Marie Dumdumが数回にわたって解説します。

 

 

 

再生可能エネルギー購入の新制度

 

 

 

野村総合研究所(NRI)マニラ支店コンサルタント。Industry Solutions Consulting (ISC) セクター所属。サステナビリティや気候変動をテーマに、数々の調査案件、企業向けサポート案件実績を持つ

Jonas Marie Dumdum

エネルギー利用状況と国家再生可能エネルギー計画

 

フィリピン政府は化石燃料依存を減らすとともに自国のエネルギーセキュリティを高めるため、再生可能エネルギー(以下、再エネ)の開発を進めてきました。2008年に再生可能エネルギー法(共和国法 9513 号)が承認・実施されて以降、年平均成長率3.2%で再エネ発電導入容量は増加しており、2021年時点での発電導入容量は約8GWです。主要アセアン5か国における再エネ発電導入容量を比較すると、フィリピンの再エネ発電容量自体は大きくありませんが、国の発電容量全体に占める再エネ比率は、フィリピンはベトナムに次いで高く、再エネ発電所を拡大してきたことがわかります。(表1)

 

図 1.電源別導入容量推移 (単位:GW, 2008-2021年)

出所: フィリピンエネルギー省

 

 

表1アセアン主要国発電容量と発電電力量比較

出所)IRENA、フィリピンエネルギー省

 

フィリピンがどれくらい電力を生産しているのか、その電源は何か、という点に目を向けます。フィリピンの経済発展に伴う電力需要増加に応えるため、国内の発電量は平均4.4%で成長してきました。電源別では、発電電力全体の5割以上を占める石炭火力発電が主要電源です。石炭火力発電は燃料となる石炭コストの低さや安定して電力を供給できることからフィリピンでは開発が進められてきており、再エネ法が実施されて以降も導入容量は拡大しています。グローバルな2050年までのカーボンネットゼロトレンドへの対応として、2020年にフィリピンでは新規石炭火力発電所建設計画の承認停止措置を発表するなど、国内発電源の転換を図ろうとしています。昨今では石炭価格が高騰し、電力料金が値上がるなど、フィリピン電力セクターは燃料コスト面、環境面ともに課題に直面しています。

 

図2 電源別発電電力量推移(単位:GWh、2011-2021年)

出所: フィリピンエネルギー省

 

石炭火力発電依存から脱却するため、フィリピンエネルギー省は国家エネルギー計画2020-2040において、エネルギーミックス(発電方法の組み合わせ)に占める再エネの割合を2030年には35%、2050年には50%に拡大する目標を立てています。太陽光、風力、水力、地熱といった国内の資源を利用する再エネを推進していくために、フィリピン政府は需要を拡大するためのしくみも策定しています。

グリーンエネルギーオプションプログラム(GEOP)

 

再生可能エネルギー法2008の中に構想はあったものの、2021年になってようやく動き出した制度がグリーンエネルギーオプションプログラム(Green Energy Option Program, GEOP)です。この制度は工業や商業分野で電力を多く消費する需要家が再生可能エネルギー電力100%を指定して購入できる制度です。この制度を活用することにより再エネ電力需要が増加し発電容量が拡大、ひいては再エネ産業全体を発展させることが政府の狙いです。現在、以下の条件を満たすルソン島とビサヤ地域の電力需要家がGEOPを利用して再エネ購入ができます。

・12か月間における月の最大需要電力(ピークデマンド)平均が100kW以上

・操業12ヵ月未満の新規需要家の場合、

- 向こう12ヵ月の平均電力需要見込みが300kW以上である

- 向こう12ヵ月の平均電力需要見込みが100kW以上300kW以下であり、過去の電力消費実績において3ヶ月連続して月平均電力需要が100kW以上あること

GEOPを利用するには、工場などの施設が自社保有である需要家に限られ、リースやレンタルの施設では利用できないこと、卸売電⼒スポット市場に含まれないミンダナオ島の需要家は制度を利用できないなど現時点では利用者が限られています。

GEOPが実施される以前からも、電力大口需要家は小売競争オープンアクセス(Retail Competition and Open Access, RCOA)制度を使って再エネを購入できていましたが、最大需要電力(ピークデマンド)平均が500kW以上の需要家のみ利用可能な制度となっており、それほど電力を使用しない企業は再エネ指定で電力を購入できませんでした。GEOPの参加条件では需要電力平均を低く設定しており、より多くの需要家が再エネを購入できるようになりました。また、再エネ法2008では再エネ由来電力は12%付加価値税の対象外となっており、これまで発電コストに掛かっていた付加価値税が掛からない点も需要家にとってはインセンティブとなります。 昨今のグローバルでの脱炭素化の流れにより再エネ購入需要が増えることが予想されますが、需要を満たすための国内発電容量の拡大が必須となり、フィリピン地場企業は事業拡大に力を入れています。需要家が再エネ証書を購入できる制度は現在のところGEOPには含まれず、需要家向けの証書売買制度の整備は今後再エネ市場を発展させていく上でのフィリピン政府の課題です。

NRIマニラでは、再エネ利用に関する政府の方針、規制詳細などを蓄積しておりますのでご興味ありいましたらお問合せください。

 

本連載は「サステナブルなビジネス」について数回にわけて解説いたします。

 

 

 

当該レポートは、LinkedInでも発信していますので(LinkedIn でNRI Manilaと検索)、是非ご覧ください。

 

 

●本リサーチおよびコンサルに関するお問合せはこちらへ

Nomura Research Institute Singapore Pte. Ltd Manila Branch

住所:26th Fl., Yuchengco Tower, RCBC Plaza 6819 Ayala cor Sen. Gil J. Puyat Avenues, 1200 Makati

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