2023年はフィリピンにとって、2022年に高まったサステナビリティへの関心がさらに進み、政策や規制ガイドラインの後押しも受け、これまでの伝統的なビジネス習慣から、ESGの視点を組み込んだビジネスへのシフトが進むことになりそうです。
前回は再生可能エネルギーについて取り上げましたが、今回はその他の注目されるトピックについてご紹介します。
企業の温室効果ガス排出量開示の加速
グローバルでは企業活動で排出される温室効果ガスの算出、情報開示が近年進んでいます。フィリピンの上場企業においても、自社の燃料消費や電力消費、商品を製造するために調達した資材などに由来する排出量を計算し、自社ウェブサイトや統合報告書、サステナビリティレポートなどの媒体で情報開示しています。企業は単体またはグループ全体の排出量削減目標に対し、どれだけ削減できたかを示す年間実績を開示しており、企業の排出量削減への取り組み結果をデータで見ることができます。最近では企業自らの排出量削減もさることながら、サプライチェーン全体で温室効果ガス排出量を減らしていこうという動きが加速しており、顧客からの要望により対応に迫られる企業も増えています。サプライチェーンとは製品の原材料・部品の調達から、製造、物流、販売までの全体の一連の流れのことであり、サプライチェーン排出量は事業者自らの排出だけでなく、原材料調達・製造・物流・販売・廃棄など、一連の流れ全体から発生する温室効果ガスを合計した排出量を指します。サプライチェーン排出量を説明する際に、Scope1(事業者自らによる効果ガスの直接排出。燃料の燃焼や工業プロセスからの排出)、Scope2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)、Scope3(Scope1、Scope2以外の間接排出。事業者の活動に関連する他社の排出)という用語が用いられますが、聞いたことのある方も多いのではないでしょうか。Scope3は原材料調達や輸送、製品の利用といった、企業が直接管理できない部分の排出であり、これらの排出量を正確に算出するには、企業は取引先と連携して排出量を把握するなどの取り組みが必要となります。これまで排出量算出に着手出来ていなかった企業においても取引先からの排出量情報開示要請が増えると予想されます。
サステナビリティ情報開示基準の標準化
フィリピンではフィリピン証券取引委員会(SEC)の規定により、上場企業はサステナビリティレポートの提出が義務化されていますが、サステナビリティ・レポーティング基準であるGRIに沿って開示している企業もあれば、SECのガイドラインを使用している企業もあり、使用している情報開示基準やフレームワークは企業により様々です。投資家目線では、報告基準は統一されている方が比較しやすいのですが、フィリピンに限らず、グローバルでも基準やフレームワークが乱立しているという課題があります。各地域で個別に規制化が進むサステナビリティ関連情報開示に関して、世界レベルでの標準化を目指し、その基準案を作成するために、2021年11月に国際会計基準財団(International Financial Reporting Standards、IFRS)が「国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)」を設置し、2022年3月国際的な開示基準の公開草案2つを公表しました。草案の1つは「サステナビリティ関連財務情報の開示に関する全般的要求事項案」(IFRS S1)であり、もう1つは「気候関連開示基準案」(IFRS S2)です。こちらは議論が続いており、最終的な基準の公開は2023年第一四半期頃の予定です。フィリピンの会計基準PFRSはIFRSを元にしていますが、サステナビリティ関連情報開示については先に述べた2つのIFRS開示基準をフィリピン国内にも適用するかどうかは未定です。従って、フィリピン国内の企業が今すぐ影響を受ける訳ではありませんが、フィリピン証券取引委員会の今後の発表に注目です。
NRIマニラは、サステナビリティコンサルテーションサービスを通じて、企業のサステナビリティとESGの領域での活動を支援します。より持続可能な未来の実現に向けて、企業文化や仕組み、評価・報告といった観点から、企業のサステナビリティ戦略の策定をサポートします。
本連載は「サステナブルなビジネス」について数回にわけて解説いたします。
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