世界で進むカーボンプライシング導入
近年、地球温暖化に対する対策として、カーボンプライシングの議論がグローバルで進んでいます。カーボンプライシングとは、二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガス(GHG)の排出量に対して、価格を設定する制度のことです。企業などが排出する温室効果ガスの量に応じた課税制度、削減した排出量に価格をつけた取引などが該当し、最終的に排出量の削減を促すことを目的としています。カーボンプライシングの導入によって、GHG排出を削減することが目的です。排出量に応じて課税するため、排出削減を行わない企業や個人には大きなコストがかかります。そのため、自然環境に負荷をかけることが少ない製品やサービスを提供する企業にとっては、競争優位性が生まれます。さらに、排出削減に取り組むことで、企業や個人がエネルギーの効率化を進め、コスト削減にも繋がるため、経済的メリットも期待できます。 カーボンプライシングは大きく3つに分けられます。1つ目は「炭素税」、2つ目は「排出量取引(Emission Trading System; ETS)」、最後に「カーボンクレジット取引」です。
炭素税は、排出量に応じて課税する制度です。企業や個人がGHGを排出する量に応じて税金を支払うことになります。排出量が多い場合は、より多くの税金が課せられ、排出量が少ない場合は、税金が少なくなります。エンドユーザーの視点に立つとGHGが多く排出される商品・サービスは炭素税の分価格も高くなり、GHG排出量の少ないものを選択するきっかけとなります。
排出量取引制度は、政府が排出量の上限を決めて、企業に排出量の許容枠(クォータ)を与える制度です。企業がクォータ以上の排出量を出してしまった場合は、その分だけ排出権を購入する必要があります。一方、クォータ以下の排出量を出した企業は、余剰分を他社に売ることができます。このように、排出量を調整する仕組みとなっています。 カーボンクレジット取引は、企業や団体が自主的に購入することができる削減単位(カーボンクレジット)を取引する制度で、自社のGHG排出量削減目標達成のためにクレジットを用いてオフセットする取り組みです。カーボンクレジットは、既存のプロジェクトから発行されます。例えば、森林保護や再生可能エネルギーの導入などによってGHG排出量を削減するプロジェクトがある場合、その削減効果に応じてカーボンクレジットが発行されます。
カーボンプライシングの導入動向
世界銀行の報告書「State and Trends of Carbon Pricing 2022」では、世界で炭素税や排出量取引制度などのカーボンプライシングを導入している国や地域はあわせて68と報告されています。10年前の2012年時点では23の国と地域で導入されていたことに比べると、10年間で約3倍に増加しています。アセアンでは、シンガポールが2019年に炭素税を導入しています。カーボンプライシングは、環境に配慮した社会を実現するために注目されている制度ですが、その導入には社会経済的な影響もあるため、政策の検討には慎重さが求められます。例えば、GHG排出量が多い企業には、削減対策への投資など負担がかかります。また、排出削減が進まない国との競争が生じる可能性もあるため、国際的な調整が必要とされています。
フィリピンにおいても財務省(DOF)を中心にカーボンプライシング制度導入のための調査・検討を行うという発表が2021年にありましたが、2023年時点ではスキームや実施時期など具体的な計画は発表されていません。民間企業はグローバルでの排出量削減プレッシャーを受けており、フィリピン国内で取り得る削減施策の拡充が期待されています。国内の排出量取引制度やカーボンクレジット取引制度の整備が必要とされています。
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